僕が企業の設計部に勤めていた頃、京葉工業地帯にある重化学工業の工場の設計を担当していました。昼食もとらず打合せ資料をつくり、バタバタと地下鉄東西線に乗り、工場に最寄りの西船橋駅で降りていました。そこで駆け込むようにして駅の立ち食いそば屋に入り、丼やらソバやらをガツガツ、ズルズルとかきこむのが通例になっていました。ちょっと汚くて小さな、ただの立ち食いそば屋。会社時代の、思い出のひとつです。
それから7~8年ぐらい経ちましたが、最近仕事で西船橋駅を利用することがよくありました。いろいろと改修されてはいるものの、見慣れた改札の風景。久々にあの立ち食いそば屋に行こうと思いました。
立ち食いそば屋はありました。が、すっかり改装され広くなり、明るく、ちょっと高級(?)なイメージに。立ち食いといいながらも、テーブル席も多く、女性客も入りやすい雰囲気になっていました。値段はかつてより上がりましたが、味は格段に美味しくなっていました。
駅をかたちづくるこうした店ひとつひとつが明るく清潔に良くなっていくことは、とても大切です。もう、昔ながらの「せまく、ちょっときたない」立ち食いそば屋は、数が少なくなっているのかもしれませんね。ただ、新しくなった店内でソバをすすりながら、会社時代の思い出と共にひとつ何かが失われたような気持ちになったのでした。個人のノスタルジーというのは、難しいモノですね。ましてやそれが街並みの風景と繋がっていたとしたのなら。
表参道の同潤会アパートが建て変わったことに対し、一般的には都市風景のノスタルジーから批判意見が多いように思われます。理念とノスタルジーは、相容れない運命にあるのかもしれません。