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共にあること。

2025-03-11 22:28:14 | 大磯の家


3月11日。
14年前のこの日を境に、ぼくにとっても少しずつ建築への向き合い方が変わったように思います。
カタチをつくることそのものよりも、居場所をつくること。そんなことをより意識するようになりました。

大磯の家。
ダイニングの大きな窓からは、自らが手入れする庭が見えて、緑が風に揺らめきます。
建て主が愛用してきた古びたダイニングテーブルと、新しくこの家のために購入した家具。
そうした家具や小物が、緑を通した柔らかい自然光のなかで、静かに息づいているかのよう。

こうしたものたちと、共にあること。
共にあるという安堵感は、心に平穏をもたらしてくれます。
それらは変化はしてゆくけれども、変わらずそこに在り続ける。
大磯の風景も、個人のなかの思い出も織り込まれている。
見えるもの、見えないものも含めて、そこにあるものが愛おしく大切なものに感じられるといいな。

そんなことを思いながら、家をつくるようになってきたように思います。
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守られる空間

2022-08-11 22:24:51 | 大磯の家


住宅の居心地の良さって、なんでしょうか。
簡単なようでいて意外に難しい問いかけなのですが、ぼくにとってそれは「安堵感」ということと密接につながっているように思います。
この家で過ごしていて、安堵感があるかどうか。設計するときはいつも図面を描きながらそんなことを考えます。

先日、雑誌の取材で訪れた「大磯の平屋」。
主張の強いデザインがあるわけではありませんが、安堵感をもたらしてくれるようなスペースを丁寧につくっていきました。
安堵感をもたらすためには、何か「守られている」ようなコーナーをつくっていく、というイメージに近いように思います。

一番上の写真はソファコーナー。庭が見える気持ちよいスペースですが、あえてソファの横と背後はシンプルな壁で守られるように。
ついでに天井もぐぐっと高さを抑えて、ソファに座っている時に落ち着く高さに。



次の写真は和室ですが、窓の高さを低く抑えることで、室内の重心が低くなり自ずと座りたくなる気分になります。
心地よい陰影と、坪庭の鮮やかな緑に守られるような空間で、風鈴の音が気持ちよく響きます。
ここは眠くなる場所ですね(笑)



最後の写真は、外部のテラス。大きな庇が日除けになり、盛夏の緑に柔らかく包まれるようなスペースです。
チェアの脇が大きな壁面になっているのもポイントで、これがコーナー感といいますか、守られる感覚をもたらしてくれます。
午後になるとこのグレージュ色の左官塗りの壁には、樹影がいっぱいに広がりゆらめきます。

こうして写真を並べると、どれもこれも派手さのカケラもないのですが、それがきっと安堵感、そして居心地の良さにつながっているのであれば、それでよし!と思うようにしています(笑)
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別冊太陽

2022-05-12 21:59:40 | 大磯の家


平凡社「別冊 太陽」誌に、設計作品「大磯の平屋」を掲載いただいています。
特集タイトルは「小さな平屋に暮らす」。
名作住宅の論評あり、平屋でのスローライフの紹介あり、盛りだくさんで読み応えのある内容です。
ぼくの設計した「大磯の平屋」は、最近竣工した事例集として取り上げていただいていますが、先に挙げたような成熟した平屋住宅と見比べると、まだ庭も若い感じがします。
だんだんと緑のボリュームも増え、家と庭とが一体になっていくのかなあと想像すると、待ち遠しくなります(笑)

「小さな平屋」という言葉が指し示すイメージには、独特の趣きがあるように思います。
見栄や体裁から離れ、自分たちの暮らしのためだけに考えて造られた、ちょうどよい大きさの空間。
屋根が低く、軒が深く、守られたような安心感があります。

もうすぐ季節は梅雨。しとしとと降る雨が軒先から雫になって落ちてきます。
少し陰影の深くなった室内から、雨のしとしと音を聴きつつ、濡れて鮮やかになった緑を眺めつつ、安心な室内で過ごす時間はよいものだろうなあと思います。

別冊太陽 リンク http://www.heibonsha.co.jp/book/b601729.html
大磯の平屋 リンク http://www.ono-design.jp/works/ooisohiraya
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ハンマースホイ、再び。

2021-06-13 22:26:12 | 大磯の家


観てしばらくしてから、じわじわと「効いて」くる絵画というものがあると思います。
ぼくにとってそのひとつは、ヴィルヘルム・ハンマースホイ(Vilhelm Hammershøi)の絵画。
フェルメールの画風からの影響もいわれる北欧の画家です。

モノトーンが基調となった静かな画風。室内画が多く、ドア越しに向こう側の空間が垣間見え、連なっていきます。
そこにある事物と光と影だけが淡々と描かれたような画風。
何を主題にしているのかがはっきりわからないぶん、そこにある事物の存在感が、記憶のなかでなんだか不意に脳裏をよぎるのです。

「大磯の家」でも、そんな空間が不意に現れました。
地山の自然と雑木の庭を堪能することをテーマにつくられた家ですが、その余白というのか、外が見えない廊下の先に、ハンマースホイのような空間が現れてくれたのです。
障子を通して片側から入ってくる光に照らされて、ヘリンボーン張りの床がこんなふうに感じられるとは。

ヘリンボーン張りの床材は、施工もとっても大変。
コツコツと根気強く位置調整をしながら大工さんが張っていきます。
ベッドが置かれたら床が見えなくなっちゃうんじゃないの?せっかく張ったのにぃ。
と大工さんに言われた気もしますが、いやいやこの感じ、最高です。


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窓辺に寄り添う

2021-05-18 16:58:53 | 大磯の家


新緑の季節の光景を写真におさめたく「大磯の家」の撮影に伺いました。
この日の天気は雨交じりの曇り空。静かで、しっとりとした落ち着いた雰囲気。新緑の緑がより鮮やかに引き立って見えました。

暮らしの場の中心として、庭に寄り添うようなダイニングがいいなあ。
家の設計にあたり、施主からはそんなふうなリクエストをいただいていました。

デザインの方針を決めていくときに、コンセプトを打ち立てて言葉で進めていくことも大事だけれども、経験的に培ってきた素材を選ぶ感覚や寸法感覚がやはり要になるのだと思います。
この日は、植栽がはいって初めてダイニングにゆっくり座って過ごしました。

鳥の声が聞こえる。
仄かに雨音。
濃色に塗られた窓枠越しに、新緑がぐっと迫ってくる感じ。
造園家が丹念に植えた優しい雰囲気の草花。
アンティークの家具。
天井に宿る陰影。
そんなひとつひとつが、この場所で過ごす居心地の良さと安堵感につながっていくように思いました。

窓辺の本棚には絵本がたくさん入っていて、いずれお孫さんが来た時に賑やかになるのを待っているよう。
施主のセルフビルドによるバーべーキュー台もあったりして、これからの楽しい生活に開かれています。

今後は、晴れた日にも来て、木漏れ日を体験してみよう。


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