オンブラ・マイ・フ

2012-11-14 15:36:51 | 自由が丘の家

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うまく言えませんが、ただ聴いているだけで泣きそうになってしまう曲というのがあると思います。僕にとってのそんな曲のひとつが、ヘンデルによる作曲「オンブラ・マイ・フ」。
この美しい小品は、オペラのなかで歌われるのはもちろん、チェロによる演奏も胸に響くような思いになります。明るく伸びやかな、と評されるけれど、どこか物憂げな雰囲気もあるように感じられて、そんなところが好みなのかもしれません。

しばらくはメロディだけを聴いていたので知らなかったのですが、その詩は、「木陰への愛」をうたったものだそうです。ウィキペディアからの引用によると、原詩の日本語訳は下記のようになるそうです。

こんな木陰は 今まで決してなかった
緑の木陰
親しく、そして愛らしい、
よりやさしい木陰は

自由が丘の家に増築中のアトリエと住宅を設計しているときには、とくにそのような詩のことを思い返していたわけではないですが、心のどこかにそんな思いがあったようにも思います。

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家の中には、主役となるような空間もなければ、メインの窓があるわけでもありません。決してシングルカットされる曲のような華やかさもありません。ですが、細長い建物にはいろいろな向きにいろいろな大きさの小窓があって、そこは木陰を感じられる場所になるように考えました。ただそれだけの、でもそれだけがあれば十分ともいえる、そんな場所。

実は最近、長男が誕生しました。そして生まれてすぐに告げられたのは、ダウン症である、ということでした。最初はおおきな戸惑いがありました。ですが今は、この子が本来もっているはずの可能性をどれだけひきのばしてあげられるか、そんな親子三人の三人四脚の人生が楽しみになりました。ダウン症の子は、ゆっくりゆっくり育つといいます。僕自身もきっと、そのスローライフを共にしながら、日々の暮らしのなかの些細なことに、喜びや美しさを感じられるようになるのかもしれません。そのような生活にとって、この住宅がふさわしいものであるように。まだ材木がむき出しの現場を歩きながら、そんなことを考えるようになりました。昔からあった古い木々をよけるようにして建つ家。開けられた窓から、一日の時間をめいっぱい使って、思わぬところから光が差し込み、そして樹影と木陰がゆっくりと移動していきます。我々家族にとって、そして、この場所に打合せに来てくださるお施主さん方のための、オンブラ・マイ・フのような存在の家とアトリエにしたいと願っています。

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