ハンマースホイ ふたたび

2011-03-29 12:05:47 | 富士の二つの家

昔、旅行でスペインに行ったときのこと。ピレネー山脈を登る列車に乗り、フランスとの国境近くにある街の駅で降り、駅に併設されていた食堂にはいりました。そこでは、昼間ということもあるのですが、すべての照明器具が消されていました。

少し高めの位置に設けられた窓から、やわらかい自然光がテーブルの上に降っていました。テーブルの上に置かれる料理や食器が、やんわりと降ってくる光によって、おのずと影をもち、美しい立体を浮かび上がらせていました。たんなる料理もとても美味しそうに見えるし!、たんなる食器も、自然光の効果で独特の艶が与えられ美しく見える、そんなことを体感した瞬間でした。

その時以来だんだんと、自然の光がつくりだす雰囲気や、影のことを考えるようになりました。たとえばフェルメールや、最近のブログでも書いたハンマースホイの絵画のような、光と影。そういうものを現実のものとすることが、僕にとっては追い続けてきた道でもあります。

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「富士のふたつの家」の施工現場。2階のリビングの窓は、あえて大きさを絞り、奥行きを与えました。そこからはいってくる自然の光によって、まわりの大きな壁に諧調のある陰影が現れます。置かれた工事用の脚立までもが、何か独特の存在感をもつオブジェのようにも見えました。家が完成し、生活がはじまったとき、日々の暮らしが、光や影の美しさに満たされたとしたら、設計者としてこれ以上のよろこびはありません。

昼間は、活動のために明るさが必要だから、窓辺に居場所ができる。それ以外の場所は、おだやかな陰影につつまれる。そういうバランスがあってこそ、居心地の良さが生まれてくるのだと思います。だから、余計な明かりや演出はいらない。そう、ハンマースホイの絵のような。

夜は、本来、暗いもの。そう考えれば、光源のあるところに居場所ができて、その周りには、静かで深い陰影ができるのは当然と言えます。それが一番自然だし当たり前のことと気づけば、暗いところをなくすような照明なんて、いらなくなるはず。

節電を機に、そんな感覚が静かに広がっていくといいな、と思います。

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オープンハウスのご案内

2011-03-20 12:48:57 | 月見台の家

横浜市で建てている「月見台の家」の、オープンハウスのご案内です。
日時/3月27日(日) AM 11:30 ~ PM 5:00
場所/相鉄線 天王町駅または保土ヶ谷駅より徒歩約10分(途中に少し急な坂道があります)

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この家は、夫婦ふたりのための小住宅としてつくったものです。
南北ふたつの庭と密接につながる空間は、奥行きと静けさをもたらしてくれます。
造り付け家具や窓枠は木でつくり、質感を大事にしました。

内覧をご希望の方は、お名前・ご住所・ご職業・ご連絡先を、EメールまたはFAXにてご連絡ください。当方より折り返し案内図をお送りいたします。

Eメール/ono@ono-design.jp
電話・FAX/03-3724-7400

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震災の只中にありながら、オープンハウスをすべきかどうかも考えましたが、多くの人が関わり、手間と時間をかけてきちんとつくったものを、ぜひご覧頂きたいと思うようになりました。流通の困難などにより、庭や外構も未完成なので、本来ご覧頂きたい姿にはまだなっていないのが心残りではあるのですが、いずれできあがっていく雰囲気をイメージしていただけますと幸いです。

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西陣織

2011-03-04 00:26:07 | 京都さんぽ

京都で小学校に通っていた頃、同級生のご両親の仕事はさまざまでしたが、土地柄か、会社員であるよりも、お店をやっている、ということが多かったように記憶しています。なかでも、家が呉服屋さんだとか和装関係の仕事をしているという同級生もちらほらといました。

小学校の同窓会の幹事をやってくれているK君もその一人です。K君の家は西陣織の帯屋さんだそうです。家業を継いだK君が、横浜の赤レンガ倉庫のイベントに出展するとのことで、立ち寄りました。西陣織を使った小物を中心とした出展でした。西陣織は、その独特の繊細な立体感も特徴で、単色のなかにあしらわれた模様が、光を受けて繊細な表情として表れます。K君によると、その織り機は、職人それぞれによって工夫と手が加えられ、同じ服飾関係の人が見ても、扱い方がわからないほどだそうです。

西陣織の名前は、小さい頃から慣れ親しんでいたものの、身近な日用品というわけではありませんから、やはり遠い存在でした。小中学生の頃の生活の足は、もっぱら自転車。もともと小さな街ですから、堀川通りの西に広がる西陣界隈も、よく自転車で走りました。かしゃかしゃ・・・という音だったか、姿は見えないけれど壁の中から織り機の音が聞こえてきたのを思い出します。世界に誇る伝統産業。近くて遠い存在。そんな世界をK君が継いでいることに、誇らしさのようなものも感じます。

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西陣織の名刺入れをひとつ、購入しました。

表は洗練された黒。開くと、伝統的な西陣の文様のあしらわれたものです。

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美しいものが、形式だけにとらわれず、いろいろな形で受け継がれていくといいですね。

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