時間をつなぐ窓

2010-05-17 19:55:54 | 富士の二つの家

打合せで富士市へ。これまで何度もこの街に来ましたが、いつも間が悪く、実際に綺麗に富士山を眺めることはできませんでした。
今日も靄に包まれ、いつも通り見えない・・・。そんな風に思いながら役所での所用を済ませ、ランチにはいったお店でのこと。

ちょっと不思議な光景に出会いました。少し離れた場所に、人のいない窓辺の席がありました。テーブルの上には、タテに細長い窓。そこに、富士山の白い頭が切り取られるようにして見えていたのでした。
靄が少しずつゆっくりと下降していって、徐々に富士山の雪がはっきりと見え始めます。でもその下は、靄がかかったまま。
窓の下の方には、大きな街路樹が切り取られるようにして見えていました。
遠くに白く浮かぶ、富士山。
手前に大きくふさがり、風に揺らぐ街路樹の緑。
細長い窓から見えるのは、そのふたつだけ。
ほの暗い店内。窓から、そっと光がテーブルに落ちていました。

遠い昔から変わらず鎮座し続けてきた富士と、僕よりはよっぽど長生きの大きな古い街路樹と、そしてそれを眺めている自分。細長い窓が、幾つもの異なる時間をそっとつなぎ合わせているような、そんな感覚になりました。

たまたま僕が座った席から偶然に見えた光景に過ぎないけれど、何か意味ありげな窓辺の雰囲気は、どこか思索的で、魅力的でした。

富士山を前に、大きく窓を開いて雄大な光景を楽しむのもいいけれど、小さな窓からのぞく世界も、きっと素適だろうな、ふと思いました。

そんなことを思いながら描いたスケッチです。

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庭づくり2

2010-05-12 15:26:49 | 自由が丘の家

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自由が丘の家の庭づくり。最近、一気に変貌をし始めています。

道路際に立っている木の柵と門扉は、これまで木の色そのままで仕上げてあったのですが、今回、黒い防腐剤を塗ることにしました。白い珪藻土塗りの家、灰色のセメント板の駐車場を、黒く塗った柵や門扉が引き締めてくれています。

もともと黒い色は、周囲にある色をより引き立ててくれます。以前からあった古い木々や新しい木々の緑が、黒い柵越しにより鮮やかに見えるようになりました。柵には今後、ユキヤナギやモッコウバラなどをからませていく予定。花の季節には華やかになりそうです。

芝生だった庭は、土に戻し、草花を楽しむ庭につくりかえようと思います。いきなり全部に植えるのは大変ですから、何年も時間をかけて。ゆっくりと、楽しみながら。母親のペースにあわせて。
まずは、草花を育てるのを楽しむための雰囲気づくりから。そこで、枕木で通路をつくり、新しく木を植えて木陰をつくり、葉っぱの向こうに見え隠れする風景を魅力的にしたいと思いました。

まず、アプローチから見える印象的な場所に、ヒメシャラの木の株立ちを植えてもらいました。そして、西日を除け、隣のマンションと間合いをとるために、大きめのイヌシデの木の株立ちが植わりました。これだけで、庭の風景がこれまでとまったく変わりました。

「庭で過ごす」ことをテーマにしてつくりはじめた、あたらしい庭。それは同時に、これから老後に向かう両親にとっても、歩きやすくて、くつろぎやすい場所である必要があります。見かけに趣向が凝らされた・・・という価値観ではなく、日々の暮らしの場としての庭を目指しています。


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仕事の道具

2010-05-05 20:19:16 | 住宅の仕事

先日、自由が丘の美味しいピザ屋さんに行きました。フェルマータという名のお店。イタリアでピザ職人として修行を積んだご主人が、材料を仕込み、自ら一人でピザを焼きます。あくまでピザ屋さんなので、パスタ類はありません。その潔い割り切り方も魅力です。

カウンターがあって、そのまん前に石窯があります。自ら仕込んだ生地を延ばし、手際よく具材を盛りつけ、そして大きなピザ焼き用の鉄棒にピザをのせ、焼いていきます。窯の中に入れたら、後は待つだけ・・・なんて想像していたのですが、大間違いなのですね。窯の火加減を薪の量を調節しながら一定に保つのも技量がいるのだそう。そして窯のなかにも温度ムラがあるので、それを利用して、ピザの位置を絶えず動かしながら焼き上げていきます。う~ん、香ばしい。。
トマトは程よくフレッシュなまま。でもチーズにはほんのり焦げ目あり。完璧です。そして、非常に、とてもとて~も、美味い。何を食べても美味い。

こんな目の前でピザを焼くシーンは見たことがなかったので楽しかったのですが、何より衝撃的だったのは、やはりご主人の背中ですかね。重そうなピザ焼き棒を絶えず動かし焼き具合を確かめている後ろ姿には、「職人魂」的なものを感じます。

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やはり、仕事道具があるというのは、いいですよね。建築の世界も、かつては製図板とエンピツと定規と・・・七つ道具的なものがしっかりあって、仕事道具としては確固たる地位を築いていたように思いますが、現在ではすっかりパソコンにとって代わられてしまった感があります。でも、僕にとっては、おそらくずっと使い続けるであろう仕事道具があります。それは、僕のお師匠さんからいただいた、ホルダーと呼ばれるエンピツです。
師匠の村田さんは、事務所に入所した所員には、まず最初にこのホルダーをプレゼントし、これで全てのスケッチを描くように指示していました。描く紙は、A3版のロール状のトレーシングペーパー。合理的な考え方を通した村田さんでしたが、やはり良いモノは手から生み出されると考えていたのか、検討はほとんどすべて手描きでした。原寸図を描いたり、寸法計算をしたり、インテリアのスケッチを描いたり・・・。

手元にあるこのCARAN d'ACHE社製のホルダーは、今ではネットで販売もしているようですが、かつては銀座の伊東屋にしか売っていなかったようで、その稀少感も良かったのかも知れません。アルミ製のペン軸で軽く、すらすらとリラックスして描けるし、建設現場でコンクリートやベニヤ板にも打合せ時に落書きができる、というところもいいですね。あと、ついでに言えば、僕が私淑している建築家ピーター・ズントーも、このホルダーを手にしている写真を見たことがあるのも、個人的には嬉しいところ(笑)

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村田さんのホルダーは、長年愛用していたようで、軸先のメッキがすっかり剥がれ、ペン軸も何やら不思議な黒光りをしていましたが、僕のは何年後にそうなることか・・・。「まだまだ甘い~~!」という、亡き師匠の小言の記憶と共に、このホルダーと歩んでいこう。でも村田さん、すみませんが戴いたホルダーは一度なくしてしまいまして、これ、2代目なんですよ。

ピザ屋「フェルマータ」のご主人のように、仕事道具を駆使している姿をお客さんに見せるというわけにはいかないけれど、僕の設計には、100%このホルダーが見えないところで活躍しています。フェルマータ並みに「美味い」設計にしなくちゃ(笑)

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