本に呼ばれる

2023-03-07 22:52:55 | 




本に呼ばれる、という感覚になるときがあります。
本屋さんで、あるいは図書館で、膨大な本を目の前にしながら、探すというよりも、本のほうから「ここにいるよ!」と声を掛けられるような感覚です。
背表紙しか見えていないにも関わらず、実際に手にしてみると、おお、これは!ということが少なくないのです。本の装丁の雰囲気がぼく自身の波長と合う、ということなのでしょうか。

ある日の二子玉川の蔦屋にて、また、本に呼ばれました。
この日に呼ばれたのは、デンマークの建築家ヨーン・ウッツォン(シドニーのオペラハウスの設計者としても有名です)が自身のためにデザインした、スペイン・マヨルカ島にあるCAN LIS という住宅の写真集でした。
このミステリアスな住宅を紹介した本はこれまでにも幾つも出版されていますが、この日に手にした本は、まさにその場に居合わせているような構図の写真集で、とても心惹かれました。

WEBで建築の写真は多く閲覧できるけれども、1ページずつめくっていく本の「体験」は、なかなか代えがたいものがあります。
1ページずつめくっていくシークエンスのなかに、体験のなかに、新たなインスピレーションが詰まっていように思うのです。

新しい本に呼ばれたことに喜びと感動を覚えつつ、きっとこれから何度も繰り返し見るんだろうなあとワクワクしながら帰りました。
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宮下公園にて

2023-03-02 22:48:48 | アート・デザイン・建築


渋谷の近年の変貌ぶりには驚かされます。もともと渋谷の喧噪はどうも苦手で、訪れる頻度は少ないのですが、最近、渋谷駅近傍の宮下公園に行く機会がありました。
古くからある都市公園ですが、その残余空間のようなスペースは、建築学生の卒業設計のテーマとしてもうってつけで、きっとこれまでかなり多くのデザイン提案があったことと思います。
それが近年リニューアルされ、きっと実際の設計に携わった関係者は、卒業設計のような気分をほんの少しは楽しんだ(?)かもしれません。

かつての宮下公園は、なにか工夫された空間とも呼び難く、なんとか明るく振舞おうと虹色の装飾なんかがあったりするところに、落書きや劣化によって殺伐さが際立っていたように思います。
でも、新しくリニューアルされた宮下公園はショッピングモールやフードコートを併設し、かつての用途や雰囲気とは大きく変わりました。

フードコートの外にあるベンチに出てコーヒーを飲みながらの一息。
目の前には切りっぱなしのネットフェンスや手すり、剥き出しになった配管、ダークトーンの即物的で退廃的なイメージ。
かつては本気の退廃があった場所が、退廃的なイメージを楽しむ場所になったということでしょうか。
デザインは退廃的だけれども、屋外のベンチも座りごごちが良いし、広々として清潔。
街の喧噪も程よく感じながら飲むコーヒーは、美味しいと思いました。
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唐長の襖紙

2023-02-26 21:56:03 | 東山の家


設計を手掛けている住宅には和風も多くあり、室内の建具に襖紙を用いることがよくあります。
襖紙や和紙は色柄ともにとても多くの種類があり、それらを施主と一緒に選ぶのも楽しいプロセスのひとつです。

なかでも思い出深いのは、江戸時代から続く唯一の唐紙の老舗の襖紙を選んだときのことです。
唐長というお店で、刷りに用いる板木も江戸時代から大切に受け継いできているとのこと。
そして、雲母とよばれる独特の輝きのある刷りも特徴で、なかなか他では見ることのできない趣きがあります。

施主が唐長のファンということもあり、それではぜひ採り入れましょう、ということになったのですが・・・
入手するためには、京都の修学院にある工房まで出向かなければならない、とのことでした。
んん~?京都ルールかこれは。とか思いながら施主と一緒に修学院まで出かけたのでした。
10年以上前のことですが、今もそうなのでしょうか。
ともあれ、そんなことも振り返ればいい思い出になります。
薄暗い工房内で、リクエストに応じて古いくすんだ色の戸棚から次々に出される、渋く鮮やかな和紙の数々。
仄暗さのなかで、雲母の鈍い輝きが鮮烈に印象に残ります。
インターネットショップや、街なかの明るい店内では決して体験できないことでした。

写真は「東山の家」の書斎入口のシーンです。
せっかくの唐長の唐紙を引き立てるため、壁や天井は黒く塗りこめ、照明をあてて雲母の輝きを浮かび上がらせました。
部屋に入るたびに目にする光景が、特別なものになるように。
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設計のスケッチ

2023-02-16 22:52:37 | 住宅の仕事


住宅の設計を始めたときの光景。
デスクの上にはトレーシングペーパーに描かれたスタディ・スケッチが積まれていきます。
手には、亡師からいただいたカランダッシュ製のペンホルダー。太いエンピツのようなものですが、とても軽くてスラスラ掛けるのが特徴です。

いま取り組んでいるのは、北茨城に計画中の住宅。周りを自然に囲まれ、そこには古い納屋があります。
その古びた納屋がもつ味わいと、その仄暗い空間のなかに置かれた数々のモノが放つ不思議な趣き。
そんなことを思い返しながら、イメージスケッチを重ねていきます。
間取りを描いているようでありながら、脳裏を去来するのは、その空間に現れるであろう光や影、古いモノの痕跡や記憶など。

少しずつ、これは!という輪郭が見えてきました。
そして磨き続けるのみ。
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鎌倉山ノ内の家

2023-02-13 19:07:57 | 鎌倉 山ノ内の家


「鎌倉山ノ内の家」の現場が進んでいます。大工さんの仕事も大詰めとなり、空間の輪郭がハッキリしてきました。
猛暑のなかでの「鎌倉小町の家」は鶴ケ丘八幡宮の門前町での仕事でした。
ここ「鎌倉山ノ内の家」の現場は寒さとの闘いです。平地に比べて気温も少し低くなるようです。
携帯電話の電波も届きにくく、まさに山ノ内。そのぶん、眼前に覆いかぶさる山の景色は圧巻です。

断熱性能を確保すべく、樹脂サッシの既製品を用いながらの窓辺のデザイン。
風景を大きく切り取るFIX窓と、風抜きを促す開閉窓。それらの組み合わせとプロポーションによって、窓辺のデザインに独自の表情が出ます。
どんなときでも、ここにしかないオリジナリティのあるデザインを求めたいものです。

落葉した冬の枯れた木々を通してやってくる自然光には独特の風情があります。
できあがったら、この窓辺はダイニングになり、建て主がお手持ちのアンティークのテーブルが置かれる予定。
食事が美味しく映えるダイニングになりそうです。
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