ヘンデルの作曲で「オンブラマイフ」という曲があります。
Ombra mai fu
di vegetabile,
cara ed amabile,
soave più
~~こんな木陰は今までになかった
どれよりも愛しく、愛らしく
そして優しい~~
心の底に染み入るように残っていて、ふとした時に思い出す。僕にとってはそんな曲です。
フィレンツェのサンマルコ修道院の中庭に座ってぼうっと時間を過ごしている時も、頭のなかにオンブラマイフが流れてきました。
フィレンツェには数多くの中庭があれど、なぜこの場所はこんなに安心するのかな。そんな不思議な体験でした。
真ん中に大きな木が一本。ゆっさりと茂っていて、素朴な外壁に、回廊の床に、木陰を落としています。
安心感と、満たされる気持ちと。
ほどなく息子が障がいをもって生まれ、この子と暮らすにはどんな家がいいだろう、と考えたときにも、思い浮かんだのはやはりヘンデル。
祖父母の代から残る土地にある、古い庭木に見守ってもらおう。他力本願しかない!(笑)
そこで、敷地の端っこでしょぼくれていたモミジの脇に玄関をつくり、モミジにギリギリまで寄せて庇をつくり(大工さん、ごくろうさまでした!)、モミジを毎日見ながら出入りするのでいつでも身近に感じられます。
カッコいいデザインというよりも、やはり求めたのは安心感と、満たされる気持ち。
狙い通り、気持ちの良い木陰もできて、60年以上経っていそうなモミジも、見られてますます元気になった気もします。
この春も、力強く緑が色濃くなってきました。