オンブラマイフ

2020-05-28 22:58:41 | 自由が丘の家


ヘンデルの作曲で「オンブラマイフ」という曲があります。

Ombra mai fu
di vegetabile,
cara ed amabile,
soave più

~~こんな木陰は今までになかった
どれよりも愛しく、愛らしく
そして優しい~~

心の底に染み入るように残っていて、ふとした時に思い出す。僕にとってはそんな曲です。
フィレンツェのサンマルコ修道院の中庭に座ってぼうっと時間を過ごしている時も、頭のなかにオンブラマイフが流れてきました。
フィレンツェには数多くの中庭があれど、なぜこの場所はこんなに安心するのかな。そんな不思議な体験でした。
真ん中に大きな木が一本。ゆっさりと茂っていて、素朴な外壁に、回廊の床に、木陰を落としています。
安心感と、満たされる気持ちと。



ほどなく息子が障がいをもって生まれ、この子と暮らすにはどんな家がいいだろう、と考えたときにも、思い浮かんだのはやはりヘンデル。
祖父母の代から残る土地にある、古い庭木に見守ってもらおう。他力本願しかない!(笑)
そこで、敷地の端っこでしょぼくれていたモミジの脇に玄関をつくり、モミジにギリギリまで寄せて庇をつくり(大工さん、ごくろうさまでした!)、モミジを毎日見ながら出入りするのでいつでも身近に感じられます。
カッコいいデザインというよりも、やはり求めたのは安心感と、満たされる気持ち。
狙い通り、気持ちの良い木陰もできて、60年以上経っていそうなモミジも、見られてますます元気になった気もします。

この春も、力強く緑が色濃くなってきました。



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消えるディテール

2020-05-23 22:32:14 | 住宅の仕事


ぼくが師・村田靖夫さんのアトリエに勤めて初めて担当した思い出深い住宅があります。
その住宅の改修工事が始まっています。

村田さんの設計は、寸法体系とプロポーションの吟味が厳密なことが特徴で、一見あっさりに見えるのだけれど、担当スタッフも職人さんも泣かされるキビしい仕事でした。
この住宅は村田さんの自邸が完成した直後に設計したものだから、その力の入ったディテールが暖簾分け(?)されて随所に散りばめられています。
いやあ、大変だった。怒鳴られる、帰れない。休みがない。文化として、当時の設計アトリエはブラックそのものでしたからね(笑)

築17年ぐらい経って、不具合の箇所や屋根の痛み、家具の改修、西日対策、などなど。
写真はまだ年初の寒い時期のものですが、それからいろいろと対策を考えて、いよいよ工事が始まりました。



リビングからテラスへつながる窓は、大きなFIXガラスが特徴。
床暖房が仕込まれたタイルの上にガラスを直に納め、障子のレールも細かくタイルを切り貼りして納めてあります。
まあ、職人さんには、「絵で描くのは簡単なんだけどよ」と小言を言われたのは言うまでもありません・・・。
でも、何年経っても、きりりとした緊張感と品格のあるディテールだなと思います。
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雨の日

2020-05-20 06:28:02 | 旅行記


最近の東京は雨が続きます。少し窓を開けてしとしと降る雨音を聞いているのは、なんだか落ち着きます。
雨の日は暗く、写真に撮ってもなかなか絵になりにくいもの。
雑誌編集の方に、雨の日の写真撮影があるのか聞いたところ、あまり聞いたことがない、とのことでした。
華やかさに欠けますものね。
でも、時としてとても華やかな雨の写真もあるように思います。
和風庭園の濡れた敷石や苔庭。陰に深く沈む緑と、雨に濡れて鮮やかさを増す緑。

見る庭より、過ごせる庭を。
そんなふうに思って庭のデザインをすることが多いのですが、こんなシーンを見ると、雨の日に眺めるちょっとした美しい庭先があるのはいいものだと、あらためて思いなおします。
写真は京都・大徳寺の高桐院より。
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モンマルトル

2020-05-02 21:26:43 | 旅行記


NHKで放映中の海外連続ドラマ「レ・ミゼラブル」は、その独特の映像美に引きこまれます。
貧富の差が激しく血なまぐさい時代のもつ暗さを、その退廃的な映像で感じさせます。
現在見るパリの街はとても優美ですが、それでも20世紀中頃までは黒く煤けたままの暗く退廃的な雰囲気も残る街並みだったとか。
きれいに洗われて、一直線に伸びる道の先に雄々しい記念建造物なんかがあったりしますから、旅行で訪れると、その優美さに思わず おお~!と感嘆の声をあげてしまいそうになります。

画家が集った界隈 モンマルトルは、そんな雄々しく優美な街並みとうってかわって、庶民的で寂れた風情が残っています。
(それでも立派な観光地としてかつてよりはきれいになったそうですが)
ぼくにとっても、もう15年ぐらい前になりますが、旅行でうろうろと散策していて一番心に残ったのが、この界隈でした。

風化した壁の表情と、雑草?プランター?が覗く小さな窓辺。たんなる通りすがりの街角にも、風化した独特の趣があり、とても好みでした。
モンマルトルといえば、ユトリロら画家たちがこぞって描いたサクレ・クール寺院が有名だけれども、そんな巨大な名所よりも、丘の上にある小さな名もなき教会のなかに、静けさと安寧がありました。

無名のものがもつ趣が、日常のなかに静かに息づいている。
今もそんな雰囲気を守ってくれているでしょうか。

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