自由が丘の駅前には、広場があります。広場といっても、荷卸しの車とタクシーやバスが走るロータリーで、人はその脇を通っていくような場所。そのまんなかに、いつの頃からか女神像がたっていました。背中に翼をもち、穏やかな面持ちのほっそりとした像。それが、いなくなってしまいました。
最近、駅前広場の整備事業が始まり、その間、撤去されたのです。今後、広場の中心にはタクシープールが整備され、女神像は広場の端っこに帰ってくるそうです。
自由が丘のシンボルは何ですか。以前、こんなアンケートがあったそうです。その時に近隣住民の多くが答えたのが、この女神像だったそうです。雑多な街並みのなかでシンボルを探す方がむずかしそうではあるのですが、そういえば駅前に女神像があったな、多くの人にとってはそのぐらいの思いだったかもしれません。
西欧の広場にある雄々しい騎馬像やオベリスクなどに比べれば、自由が丘の女神像はあまりに小さく華奢でした。でもこうしていなくなってしまって、何事もなかったかのように跡地がアスファルトで埋められる姿を見ると、明らかに何か喪失感のようなものがあるのです。きっと多くの人も、同じような思いでいるかもしれません。小さな女神像は、知らず知らずのうちに、僕たちのなかでなくてはならない「シンボル」になっていたのかもしれません。
今回の整備事業は、交通整理に重点がおかれたようです。でもかつては、整備案のひとつとして、車の入らない、歩行者だけの広場の案があったそうです。
女神像を中心として。
石畳が敷かれて。
いつか、周辺の交通網が整備され、駅前広場が歩行者だけの魅力的な広場になることを望みます。
写真はサンマルコ広場、F.ブローデル「都市ヴェネツィア」(岩波書店)から。記憶にしっかり残る、人間のための美しい広場。文化は違えど、そんな存在を、この小さな街にもつくっていきたいものです。