ただひとつのオブジェのための

2016-02-26 22:13:19 | 陶芸家の家


このオブジェを置きたいんです。そう言いながら施主に手渡された一枚の写真には、木彫の女性像のオブジェが映っていました。
それは、アーティスト前川秀樹氏の作品でした。
中世の古画のように、静けさに誘う不思議な佇まい。僕も、惹きこまれました。

氏は流木を用いたオブジェをよく製作されるそうです。ゆっくりと流されてきたものが、オブジェとしてここに係留される。そんな物語に僕はわくわくしました。
家の隅に飾るのではなく、いっそのこと、生活動線の中心に置いて、一日のなかに何回も「出会う」ことを愉しみたいと思うようになりました。
家は、そんなオブジェの背景になるのです。



丸い天井は、かつて流木が身をゆだねた波のイメージのような。
あるいは、中世の古画が眠る、かつて訪れたフィレンツェのサン・マルコ修道院のイメージのような。
そんないろいろなイメージがゆっくりと重なり合って、「陶芸家の家」はできあがりました。

静かな光のなかで、左官壁の微妙なテクスチュアと、丸い天井の柔らかさが、背景としての優しい趣きを宿してくれます。
空間の主役となるのは、選ばれた家具と、陶芸家である施主ご自身の手によってつくられた器。
その中心にあるオブジェのために、天窓から光が降り落ちます。

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深く沈み込むような、場所。

2016-02-20 18:01:38 | 陶芸家の家


紆余曲折を経ながら、長い時間をかけてつくりあげてきた「陶芸家の家」。いろいろなことを考えてつくった家ですが、そのなかでずっと頭の中にあったのは、陶芸家という仕事について。
原料となる土に体全体で向き合い、釉薬や焼成についての理論に向き合いながら作品をつくるというのは、本来的にはとても孤独な時間なのだろうと思います。
でもそれは、寂しいものではなく、制作上の微細な変化に耳を傾け、時に一喜一憂し、変化に富んだ日々なのではないかと思うのです。



1階の工房と、2階の住居を往復する日々。暮らすことと仕事をすることが同一であることを受け止める、ぐっと深く沈み込むような場所をつくりたいと思いながら設計に取り組んできました。
わくわくするようなエンターテイメントを家のなかにつくるのではなく、身近なものごとの微細な変化や情緒をじんわりと感じられるような場所をつくりたい。
テレビを観ながらリラックスできるような優和な雰囲気と、本棚の書籍の背表紙を眺めながら、陶芸について考える思索的な雰囲気が共存した空間をつくりたい。
長い時間をかけて、それらのイメージをゆっくりとあたためることができる仕事となりました。

その要となったのは、光、そして質感。



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主木の植え付け

2016-02-14 10:43:51 | 吉祥寺北町の家


「武蔵野の家」では造園工事がすすんでいて、主木の植え付けを行いました。
造園工事を担当してくれているのは高松造園さん。僕の亡師・村田靖夫さんと懇意だった高松さんが、道路に面した庭に選んでくれのは、とてもきれいな株立ちのアズキナシ。
時間をかけて探してくれましたが、整った姿でとても品があります。そのまま植えるとまっすぐになり過ぎとのことで、少し引っ張ってクセをつけて植えてくれました。
どんな木を選ぶかも大事ですが、それをどのように植えるかも大事。灌木や下草との組み合わせ方で庭は表情を変えますが、その風情のつくり方は、やはり庭師の腕の見せどころですね、楽しみです。

武蔵野市の多くの地域は建ペイ率が40%のため、敷地内にはおのずと建物の建たない空地が広く残ります。それらの空地をいかに活かすか、そのシナリオづくりが建築家の腕の見せどころになるのだろうと思います。
シナリオづくりの根本にあるのは、暮らしを楽しむということ。日常のなかにあるちょっとした喜びや楽しみを発見し、大切にすること。ターシャ・テューダーさんが暮らしのなかで大切にしたことと、どこかつながっていきますね。
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寄る辺を築く

2016-02-06 22:23:57 | 白楽の家
「白楽の家」の敷地に旧家屋が建っていた時は、平屋建てでした。数十年前は、平屋でも遠く富士山まで見通せた、絶景のロケーションだったそうです。
だんだんと近隣地域の市街化がすすみ、いつしか、富士山を望むことができなくなってしまいました。
2階建てとして建て替えれば、きっとまた富士山を望むことができる。それも、この家の建て替えの楽しみのひとつでした。

2階にリビングをつくり、見晴らしを愉しむ窓辺をつくることが設計のテーマとなりました。





木でつくった大きな窓辺。そこはベンチにもなっていて、座ると包まれたような雰囲気のスペースです。
この窓辺は、いろいろな工夫を重ねてデザインしてあります。
準防火地域ですから、防火用のアルミサッシを使う必要があるのですが、アルミサッシは、見た目にも無味乾燥として窓辺の空間に馴染みません。
そこで、アルミサッシの枠が目立たないように木で窓枠を造りました。
風景がきれいに見えるように、網入りガラスの代わりに防火シャッターを設置し、透明なガラスをつけています。
また、網戸がいつも付いているのもジャマですから、収納式のプリーツ網戸を木枠の中に仕込んで、普段は隠れるようにしています。
ロールスクリーンも、レースとドレープのものが2重に入るように、十分な大きさのロールスクリーンボックスが組み込んであります。
そして、ベンチの背もたれも木でしっかり造りました。
窓脇の本棚収納やAVボードも、木の窓枠と一体となったデザインとなっています。

こんな風にして、窓辺に寄り添うことを考え抜いてデザインをしました。
ここから、遠くを眺める。開放感と安心感とが交った不思議な感覚。
ベンチに座って見下ろすと、古くから残る庭木が身近に感じられるようになりました。

この家の主役として、以前からあったものを大切にしたかったのです。
古くから残る木々を身近に感じ、記憶のなかの風景を、もういちど蘇らせること。
大きな窓辺のデザインに、そんな思いを込めました。



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