北庭の楽しみ

2022-05-06 21:55:39 | 月見台の家


ちょうど10年前に1年点検に伺った「月見台の家」のスナップ写真。
その前年に建設中だったときには東日本大震災に遭い、資材不足のなか完成にこぎつけた住宅でした。

あたりまえのことを大事にしよう。そんなことを切々と考えさせられた時期でもありました。
だから、この室内にソファが運び込まれ、北側の庭に面したリビングが居心地の良い居場所になったときには、本当に嬉しかったのです。
北側に面しているから直射日光は入らないのだけれど、そのぶん穏やかで静かな空間になりました。
窓には通称「吉村障子」が建て込まれ、障子を閉めると一面の光窓のような風情になります。

大きめのソファに身を委ねて無為に時間を過ごしたくなる雰囲気。
そんな雰囲気をつくりだすためには大事にしたことは、余計なデザインをせずに、窓辺の明かりと、穏やかな陰影だけで空間をつくること。
そのぶんフォトジェニックな要素は無いのだけれど、この空間に身を置くと、じんわりと効いてくる。
そんな気分を大事にしたかったのです。

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旗竿地の魅惑

2021-06-06 23:38:20 | 月見台の家



建築デザインの世界でよく使われる言葉のなかに、「シークエンス」というものがあります。
歩み進めるごとに、目の前の場面が変化していく、という主旨の言葉です。

「月見台の家」は旗竿地に建っています。
建物の広さは全部で30坪に満たない小住宅ですが、道路から玄関に至るまでに旗竿状の通路を通ることになります。

玄関までの道のりをなるべくショートカットするのではなく、なるべく長くとり、変化に富むものにしましょう。
そう、つまり「シークエンス」を活かしたアプローチをつくりましょう。
そんな話をしながら玄関までのアプローチ計画を考えました。

それから10年。大きく育った樹木越しに通路やパーゴラがリズミカルに見え隠れし、奥へ奥へと誘われるような魅力的な雰囲気に。
通路の床の舗装は、工事で設置した部分もあれば、施主が自らレンガを敷き詰めてつくった部分もあり。
その合間を造園家による植栽と下草が茂っています。



いろいろな人の手が関わって共同作業でできたアプローチは、時の流れを味方につけてしっくりと馴染み調和しています。
春にはパーゴラ廻りのモッコウバラの花が華やかに繁茂し、秋にはモミジの紅葉のトンネルを抜けていきます。
今ぐらいの季節は、ジューンベリーの実がいい具合に色づいて、きっとそれを目当てに鳥がやってきているはず。

小さな家に、「シークエンス」は広がりと奥行きをもたらしてくれます。
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10年目の訪問

2021-05-29 22:52:11 | 月見台の家


できあがって10年経った「月見台の家」へ、点検を兼ねてお伺いしました。
植えた植栽は大きく育ち、建物と一体となっています。



もともと主張の強いデザインの家ではありません。でもなるべく出来合いの製品を用いずに、人の手で作り上げることを大事にしてできあがった家です。
そうしてできあがったものは、10年という年月を味方につけて、素材の味わいのある変化が見られます。
点検では大きな問題もなく、設備機器などいくつかを手直しをすることになりました。
でも、施主が大事に住みながらメンテナンスしてくださっていたから、家は元気なままでいてくれました。
年月を経るごとに、家がよくなっていく。そんなことを実感できて、じんわりと心地よい気持ちに。

建築の仕事は未来を思い描くことでもあるけれど、同時に、かつて自分が考えたことに時を隔てて現実として向き合い、味わい、反省することにもなります。
10年前に考えていたことは、この10年を経てどうであったのか。



家には新しい家族が加わっていました。13歳のおじいちゃん猫。
11歳のときに保護猫を譲り受けたそう。
もう俊敏には動けないけれど、点検でまわるみんなの後をのっそりとついてきて、どれどれと一緒に覗き込む。

緑陰深い空間で過ごす、静かな午後の穏やかな時間。
そこには人懐っこい猫もいて。
10年前には知らなかった言葉だけれども、ヒュッゲという言葉がやはり当てはまる。そんな場所になっていたことを嬉しく思いました。
今やりたいと思っていることを、10年前に予感できていたのかな。
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月見台

2020-07-17 21:35:45 | 月見台の家


「月見台の家」は、その名の通り風流な名のと土地に建つ家です。
小高い丘の上にある立地からは、昔はきれいに月が眺められたのでしょうか。

この家ができあがったのはもう10年ほど前になります。
家を「暮らしの道具」と見立てて、良い道具がそうであるように、手触り質感がよく、使い勝手がよく、堅牢であることを念頭に、丁寧に設計したものでした。
単純なようでありながら、手に触れるところの素材を変えたり、実はとても細かな設計になっています。
普通の家のようでありながら、使うごとに愛着がわいてくるような感覚を大事にしたかったのです。



最初の写真のドアと、リビングにすっと立つ丸柱は、ピーラーという松の木でできています。
だんだん飴色になっていくのが特徴。
家は、時間が経つごとに良くなっていくもの。
そんな価値観を実践していきたいと思います。




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アウトドアリビングを楽しむ

2019-04-22 22:16:43 | 月見台の家


4月も後半になり、一気に暖かく過ごしやすい日が続いています。家の中だけでなく、家の外にも生活空間が広がれば、家での過ごし方がもっとのんびりと、のびのびと、楽しいものになると思います。
ゴールデンウィークも、行楽地はきっとどこも混んでいますから、昼間からちょっとビールなんか飲みながら本を読んだりする気持ち良いスペースが家にあるとサイコーだなあなんて思ってしまいます(笑)

そんなことを思い浮かべながら設計した住宅「月見台の家」。
ダイニングの続きでデッキコーナーがありますが、テーブルを置ける広いデッキコーナーにつながり、一段降りると、ベンチの上にパーゴラのかかったコーナーがあります。
今ぐらいの時期から、つる性のモッコウバラがきれいに花を咲かせ、ベンチコーナーが緑に包まれます。



大きな庇もしっかりかかったこのスペース。これから雨が多い季節にも重宝されます。
家の中と外を行ったり来たり。
美しい窓辺。居心地の良い窓辺。
そんなふうにして、エクステリアを暮らしの一部としてデザインすると、生活空間がぐっと楽しくなると思います。




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