30年の軌跡

2023-12-31 21:25:38 | 写真


30年も前に、ぼくが父親の本棚のなかに見つけた一冊の写真集 田沼武能「カタルニア・ロマネスク」。
スペイン・カタルニア地方の山間の小さな村々を訪ね歩き、石造りの簡素で小さな礼拝堂とそのまわりに暮らす人々を撮った写真集です。
はっきりとした理由はわからないけれど、その世界観に惹かれて、ずっと手元に置いてきた写真集です。

その傍らに映っているのは、ぼくの設計した近作のポストカードです。
これまで多くの住宅を設計してきましたが、心のなかで常に問いかけているのは、「カタルニア・ロマネスク」の世界観にどれだけ近づけたか、ということ。
もちろん、現代の住宅をつくるのですから、材料や設備などを真似るわけではありません。

心の拠りどころになるような空間になったかどうか、ということ。

イメージの源泉としての写真集と、その延長にあるポストカード。このふたつの間には30年という時間が横たわっています。
この30年の間に、ぼくはどれだけ自分の思うところを理解し、磨いてこられただろう。
大切にしてきたことを、これからもじっくりと磨きながら歩んでいきたいと思います。

今年も、ブログにお付き合いいただきありがとうございました。
どうぞよいお年を。
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森の家

2023-12-24 22:47:20 | 山中湖の家


山中湖の湖畔の森の中で、住宅の建築が始まりました。
原生林の一部にそっと置かれた、平屋の家。
そんなイメージとは裏腹に、基礎工事の段階では凍結深度まで深く掘るので、意外にも大掛かりな工事になります。
建物ができあがって、掘りかえされた土も徐々に馴染んでくると、森の中にしっくり馴染む佇まいになることでしょう。

来年の今ごろにはこの家もできあがっています。
森の中で過ごすクリスマスは、きっととても静かですね。
暮らしのなかの所作のひとつひとつに音を感じ、特別なことのように感じるかもしれません。
この家では、森の緑のなかに身を浸し、移り行く自然の光と陰影とを満喫するような設計をしてきました。
そして、ちょっとした遊び心とサプライズと共に。
すべては、森の中での暮らしを楽しむために。



山中湖からは富士山が間近に見えます。
クリスマスシーズンとはいえ、近くの河口湖とは違って、こちらは人影もまばらでとても静かです。

暮れてゆく空と、輝く水面。
湖面に枝垂れる倒木の向こうに富士山が鎮座し、
湖面の水面がとぷんとぷんと音を立てながら寄せてきます。
それを聞き眺めていると、静けさのなかにも満たされた気持ちになっていきます。

作家の須賀敦子さんがヴェネツィアについての旅エッセイのなかで描いた心情と、どこか似ているのかな。
そんなイメージの連鎖を楽しみつつ。

メリークリスマス。



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クリスマスの家

2023-12-17 21:32:21 | 鎌倉 山ノ内の家


鎌倉山ノ内の家を訪問しました。山間のロケーションに建つ家で、窓からは自然の風景がいっぱいに見えます。
山の風景はだんだんと冬支度。そんななか、暖かい室内にいるのは幸せを感じます。
テーブルセッティングも美しく。
赤いテーブルナプキンが映えますね。
使い込まれてツヤと味わいの出たオーク材の椅子と、グレイッシュな壁の色。
そして窓の外は冬景色。
華やかなものと落ち着きのあるものが、不思議な調和をなして心地よい空間でした。

海外での暮らしが長った施主のKさんは、クリスマスシーズンを楽しむいろいろなグッズをお持ちです。
キッチンのスパイスラックも、クリスマス飾りで楽しく演出されました。
リースや松ぼっくり、家型のキャンドルホルダーなどなど・・・。



そしてなんといってもその中心は、背丈を超すほどの大きなクリスマスツリー!。
インテリアのなかでツリーが映えるように、あらかじめリビングイン階段の脇にツリーのためのスペースを考えておきました。
その傍らに佇むのは、愛猫サンディ―くん。この家ができあがってからファミリーの一員になりました。

あたたかくて、ほっこりする空間。
「ヒュッゲ」だなあと思いました。


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カタルニア・ロマネスク

2023-12-09 21:28:13 | 写真


ぼくは高校生のとき、一冊の本に出会いました。
田沼武能写真集「カタルニア・ロマネスク」。スペインのカタルニア地方にある山奥の集落にある、ちいさくて素朴な礼拝堂の数々と、それらと共に暮らす人々を撮った写真集です。
その世界観にぼくは次第に惹かれるようになり、飽くことなく繰り返し眺め、大事に抱えるようにして生きてきました。
ぼくの美意識や価値観や、生き方の筋道はすべて、この写真集に導かれてきたものです。人生の大事な局面には、いつもこの写真集からの後押しがありました。

そして、見えざる不思議な力に導かれるようにして、この写真集に深く関わる方々に出会うことができたのです。
写真家・田沼武能のご家族、そしてこの写真集の当時の編集者。そして巡り合わせてくれたのは、ぼくの施主のMさん。
ぼくは、この写真集にどれほど影響を受け、私淑し、導かれ、励まされてきたことか。そんな溢れる感謝の思いを、うまくお伝えできたでしょうか。

あらゆることが、今回の出会いにつながる伏線だったのだと思わざるを得ません。
なんだか、映画にでもなりそうなシナリオだな。誰か撮ってくれないかな。

「カタルニア・ロマネスク」と、ご家族からいただいた贈り物が、静かに集う光景。
それらが置かれたテーブルも、その背景の室内も、すべて「カタルニア・ロマネスク」への私淑から生まれたものです。
建築家として、ひとつの筋道を通してこれたのは幸せだなと思います。
そして、今回の感動的な出会いとご縁に、感謝の思いでいっぱいになります。



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