梅雨の合間の、雨上がりの庭の写真。自由が丘の家には中庭のような場所があって、そこには昔からある灌木と、古い庭道具や鉢植え、それから新しくつくった建物の、珪藻土の白い壁があります。住宅にしてはちょっと極端に大きな白い壁。
この光景には、この家を設計していた頃から、あるイメージを重ね合わせていました。メキシコにルイス・バラガンという建築家がいて、彼が設計したある修道院の中庭の光景に、僕はとても思いを寄せていました。古い木々と鉢植えや壺が置かれた、静かな中庭。背景に白い壁が立っていて、そこには十字架がレリーフとして刻まれていました。修道院の中庭には、親和的で、独特の穏やかな雰囲気が満ちているようでした。この家は修道院ではないから十字架を表すわけにはいかないけれど、親和的で、穏やかで、ちょっとだけ神秘的な雰囲気をもたらしたいと思っていたのです。
家ができてから8年。白い壁のコーナーにある高く伸びた木から、木漏れ日が白い壁をつたうようになりました。雨上がりのちょっとした晴れ間に、こんな光景を見ると、昔、バラガンの修道院に憧れた時の気持ちが蘇ってくるようです。姿カタチのデザインという意味では、どうということのないものですが、そんな気持ちになれる場所をつくれたのは幸せです。いえ、「つくった」というより、8年という時間が、少しずつそんな雰囲気にしてくれた、と言うべきなのでしょう。