ついに、手に入れました、三谷さんの小さな木の器。
「木の匙」と題された作家自身のエッセイ集で、僕ははじめて工芸作家・三谷龍二を知りました。そのなかで語られる穏やかな語り口や写真を通して、ものづくりに対する氏の実直で真摯な態度がしのばれました。
簡素。 三谷さんの創る木の器は、この言葉の意味をもっとも簡潔に本質的に表しているのではないかと僕には感じられます。
実は今日までの2週間ほど、自由が丘にあるテーブルウェアのギャラリー「WASALABY」で、三谷さんの個展が開かれていました。以前から氏を私淑していた僕は、オープニングの日に初めて三谷さんとお話をすることができたのでした。穏やかで優しい語り口調でありながら、その目は求道的な鋭さがあり、若い僕にとって励みになる言葉をかけていただくことができました。
今日、再び店を訪れ、人の少ない店内で三谷さんの言葉を思い返しながら、器の並ぶ空間を味わいました。そうしてはじめて選んで購入した器がこの写真のもの。ぐい呑みのような、小鉢のような、小物入れのような。
山桜をこりこりと削ってつくられたその小さな器の表面には、三谷さんがふるったノミの跡が浮かび上がっています。簡潔なフォルムと、手の跡。言葉にしてしまえば、たったそれだけのことですが、その静かな作風から滲み出る美しさは無限のもののように感じられます。
カンヌ映画祭で、河瀬直美監督作品「殯の森」がグランプリを受賞しました。低予算であるという。しかし作り手の真摯な思いが深い感動を誘うのだという。そして審査員は、その小さな映画に宿る輝きを見逃さなかったのだという。どこか三谷さんの器のことを思い返しました。そして僕自身が求めたい建築の有り様も。決して派手ではなく、内部から光るような美しく確かなものを創っていきたいし、そういうものを評価されたら、本当に報われた気持ちになるのだと思う。
今晩、BSで放映されるとのこと。早めに仕事を切り上げて、じっくり観ることにしよう。