ミタニ・グランプリ

2007-05-29 17:10:42 | アート・デザイン・建築

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ついに、手に入れました、三谷さんの小さな木の器。

「木の匙」と題された作家自身のエッセイ集で、僕ははじめて工芸作家・三谷龍二を知りました。そのなかで語られる穏やかな語り口や写真を通して、ものづくりに対する氏の実直で真摯な態度がしのばれました。

簡素。 三谷さんの創る木の器は、この言葉の意味をもっとも簡潔に本質的に表しているのではないかと僕には感じられます。

実は今日までの2週間ほど、自由が丘にあるテーブルウェアのギャラリー「WASALABY」で、三谷さんの個展が開かれていました。以前から氏を私淑していた僕は、オープニングの日に初めて三谷さんとお話をすることができたのでした。穏やかで優しい語り口調でありながら、その目は求道的な鋭さがあり、若い僕にとって励みになる言葉をかけていただくことができました。

今日、再び店を訪れ、人の少ない店内で三谷さんの言葉を思い返しながら、器の並ぶ空間を味わいました。そうしてはじめて選んで購入した器がこの写真のもの。ぐい呑みのような、小鉢のような、小物入れのような。

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山桜をこりこりと削ってつくられたその小さな器の表面には、三谷さんがふるったノミの跡が浮かび上がっています。簡潔なフォルムと、手の跡。言葉にしてしまえば、たったそれだけのことですが、その静かな作風から滲み出る美しさは無限のもののように感じられます。

カンヌ映画祭で、河瀬直美監督作品「殯の森」がグランプリを受賞しました。低予算であるという。しかし作り手の真摯な思いが深い感動を誘うのだという。そして審査員は、その小さな映画に宿る輝きを見逃さなかったのだという。どこか三谷さんの器のことを思い返しました。そして僕自身が求めたい建築の有り様も。決して派手ではなく、内部から光るような美しく確かなものを創っていきたいし、そういうものを評価されたら、本当に報われた気持ちになるのだと思う。

今晩、BSで放映されるとのこと。早めに仕事を切り上げて、じっくり観ることにしよう。

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住宅の窓

2007-05-22 11:51:11 | アート・デザイン・建築

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最近、ガラス張りの外観を持つ建物が増えてきました。ショーウィンドーが必要な店舗はもちろんのこと、住宅でもなるべく窓を多く、明るく、という傾向がどんどん高まってきているように思います。デザイン的な流行でもあるのでしょう。

ですが、あまりに全部が見通せてしまったり、すべての部分が明るすぎると、せっかくの空間の情緒が消え失せてしまうように僕は思います。特に住宅においては、しっかりとした壁があるから、その中に穿たれた窓ガラスが美しいのでしょうし、ほの暗い翳りがあるから、光が美しく栄えるのだと思います。

僕が設計する住宅は、外観は壁が多くて窓が少ない印象がある、と言われることがあります。一方で室内に入ると、思いのほか明るいことに驚かれることもあります。実際には、生活の所作と居心地を考えたうえで、必要な場所に窓を明けるようにしています。

明るいところと、ほの暗いところ。

そのふたつのバランスをいつも意識するようにしています。窓のデザインを考えるときは、なるべく原寸大の図面を描くようにしています。どのような光がはいってくるのか、どのような影が落ちるのか、風は、温度は。そんなことを考えながら、窓の在り方を探っていきます。そうしてできあがった窓辺の空間には、得も言われない居心地の良さと美しさが宿るように思います。

写真は、現在設計をしている住宅の、メインの窓の手描きの原寸図。コンピュータで作図することが常となった今でも、窓廻りだけは、昔ながらの大きな製図版に向かい鉛筆を動かさないと、リアルなものはイメージできないと思っています。

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堀商店のカレンダー

2007-05-07 15:36:33 | アート・デザイン・建築

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東京・新橋に、堀商店という老舗の建築金物メーカーがあります。そこで製造されるドアノブや錠前などは堅牢で美しいことに定評があります。タイムスリップしたようなレトロな社屋に入ると、真鍮などを使った味わい深い製品がずらりと並びます。

建築やインテリアの写真は、全体を撮ることが多いので、ドアノブや錠前などが写真の中心になることはあまりありません。しかし実際に日々の生活のなかでは何回も何回も繰り返し使われる、最も働き者の部分です。昔、師匠に「建築の造作は、繰り返しの使用に耐える堅牢さをいかに保持できるかが大切だ。狂いの少ない金物を選ぶ目も、設計者にとっては重要な技能だ」と言われたことがありました。

僕も独立以後、堀商店の金物には随分とお世話になっていますが、その製品の他に気に入っているのが、同社発行のカレンダー。手元には独立した2005年から2007年まで3年分があります。毎年、国別の鉄細工や錠前を、風合いある写真に収めています。

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ポルトガル・リスボン、ベルギー・ドイツ、そして今年はモロッコ。

パラパラとカレンダーをめくりながら、細部に宿るいろいろな国の文化に思いを馳せるのも、仕事の合間のちょっとした楽しみになっています。

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