和風の家

2011-05-30 11:42:26 | 

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オノ・デザインで設計した「桜坂の家」を、本に載せていただきました。ニューハウス出版刊「住まいの和モダン2」と題した、和モダンの住宅事例の特集本です。いくつかのカットを載せていただいたのですが、和室からの空間のつながりを示した写真を、大きく載せていただいています。

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「桜坂の家」は、5年前に竣工した住宅です。師匠である故・村田靖夫さんの事務所から独立して、最初に設計を手がけたものでした。特に和風であることを意識したわけではなかったですし、茶室をつくったわけでもないのですが、ご近所から、茶室のある家らしい、とウワサがあったようです。たしかに、低く抑えられた窓の位置や、壁が大きく窓が小さく見える外観を見ていると、茶室のある家という風に思われても不思議ではないかも・・・とも思います。

もともと大学や村田さんの事務所で、和風の造作を専門的に勉強したわけでもない僕が、なぜ和風の気配をもつ住宅をつくったのか、はっきりとはわかりません。ただ、穏やかで、静かで、奥行きのある場所をつくりたいと考えていたときに、和風の造作がしっくりと感じられたのは事実です。低く開けられた窓。障子からの柔らかい自然光。襖紙の、塗装では得られない色と質感、など。この住宅は、それらを大切にそっと作り込むことができた住宅でした。今は外の緑もさらに大きくなって、独特の陰りを室内にもたらしてくれていることと思います。

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林檎の礼拝堂

2011-05-17 14:16:40 | アート・デザイン・建築

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学生時代に、ある一冊の本に出会いました。「林檎の礼拝堂」と題されたその本は、美術家・田窪恭治さんが、フランス・ノルマンディーにわたり、廃墟と化していた小さな礼拝堂を、作家活動を通じて再生させていくプロセスが記されたものでした。

床一面に敷き詰められた錆びた鉄の量塊。

壁一面に描かれた林檎の絵。

屋根から降り注ぐ、色ガラスを通した美しい光。

それらのイメージ写真に目が吸い寄せられました。そして何よりも心打たれたのが、以前から存在したものたちを大切にしたい、という思いに貫かれていることでした。ただ漠然と過ごしていると、身の回りに存在する「当たり前」のものごとの価値に気付かずにいることもありますが、田窪さんが礼拝堂のしつらえに手を入れることによって、「当たり前」のものごとが、かけがえのないもののように美しく浮かび上がっているように思いました。

学校で建築を学ぶなかでは、新しいものを創り出すことにどうしても意識の比重が傾いてしまって、すでに存在している当たり前のものを、つまらないもの、としてしまうような間違いに陥りがちだったように思います。僕は卒業論文でアントニ・ガウディに向き合うことを通じて、一見奇異に映るカタチのなかに、「日常」こそを大切にして美しく浮かび上がらせようとするガウディのイメージが溢れていたことに気付き、そのような価値観について考えるようになりました。そのような時期に、僕は田窪さんの本に出会い、いろいろな影響を受けました。ガウディのことについて触れられているわけではないのですが、どこか共通した普遍の意義が、詰め込まれているように思ったのです。

この度、東京都現代美術館で田窪さんの個展が開かれたのを機に、観に行きました。そこで何しろ感銘を受けたのが、結果を出すために費やされた数多くの辛抱強い探求でした。カタログを見て色や形を選ぶ、という類のものではなく、まだはっきりと判らない自分のイメージを具体的なものとしていくために、とにかくいろいろな手法を試してみる、その粘り強さの痕跡は、観ているだけで心が打たれました。

田窪さんの活動から受けた大きな影響を、学生時代の「マイブーム」としてしまっては、僕自身の考え方には一貫性や粘り強さがなくなってしまいます。でも幸いなことに、田窪さんの本を見ながら考えたいろいろなことは、今も僕の考えの核心にあります。

貸画廊で発表していた若かりし田窪さんが、恩師・東野芳明氏に、しょせん自己満足なんじゃないか?と問いかけをされたそうです。美術を志す人間にとっては、とても厳しい言葉だっただろうと思います。この本のなかでは、その問いに対する答えはまだ見つかっていない、とありましたが、この礼拝堂のプロジェクトは、個人の活動を超えて、社会的な行為になっています。それを支えているのは、10年以上も粘り強くこの礼拝堂のために表現方法を探求してきた、その粘り強さに他ならないと思うのです。そうしてはじめて、一人の個性は「普遍」になり得るのだと思います。

「林檎の礼拝堂」。もう表紙も外れて、フセンもたくさん貼られたままのこの本は、僕にとって思考の後押しをしてくれた、大切な「味方」本です。

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にぎやかで、静かな家

2011-05-03 22:20:32 | 富士の二つの家

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富士市で手がけてきた住宅「富士のふたつの家」が、引き渡しの日を迎えました。この住宅は2軒の家が隣り合って建っているのですが、ひとつの群造形として一体的にデザインしたものでした。ひとつは平屋。もうひとつは2階建て。それぞれの特徴を活かした設計に取り組んできました。

雄大な富士山を間近に望みながらも、交通量の多い街道の交差点にある大きな敷地。風光明媚で開放的というよりも、少し寄る辺のない印象をもちました。
だからこそ、このなかに落ち着きのある「奥行き」のある居場所をつくろう。設計の当初から、そんなことを考えていました。

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最初に考えたのは、ふたつの家の中心に、濃く緑が植わる中庭を築くこと。そしてそのまわりに生活の場が広がるようにすること。友人知人が集まる賑やかな場所と、一人でゆっくりと時間を過ごすための静かな場所の両方を、中庭の廻りに散りばめたいと思ったのです。

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木漏れ日が心地よい場所。
白い壁に映り込む陰影の美しい場所。
天井が高く開放的な場所。
座ったときにちょうどいい、とても天井が低く落ち着く場所。
いろいろな場所を散りばめました。
考え続けてきたのは、居心地の良い自然の光と陰影。場所に応じたスケール感。そして手ざわり。

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