ハンマースホイの絵

2011-02-22 23:20:56 | アート・デザイン・建築

季刊誌「住む。」の今冬号の表紙を見たとき、その独特の風合いの写真に目が吸い寄せられました。ほの暗い空間のなかに木の家具が二つ三つ、置かれています。フェルメールの絵画と同じように、画面の左側からやわらかくやってくる光。「静かな、木の家具。」という名の特集のための表紙写真。表紙を飾るにはあまりに「静かな」その写真を見ながら、数年前に展覧会で知ったある画家のことを思い出しました。

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ヴィルヘルム・ハンマースホイという名の画家。国立西洋美術館に並んだ作品群は、モノクロームを基調とした静かな画風で満たされていました。画面に描かれた正面の窓から、あるいはフェルメールと同じように画面の脇から静かにはいってくる光のなかで、たんなる事物が、ある尊厳を帯びているように見えたのです。

モチーフとなった室内のもともとの壁の色は「白」なのだろうと思うのですが、ハンマースホイの絵画のなかで、それは豊かなモノトーンの諧調に置き換えられています。壁の色にあえて翳りをもたらすこと。それは「静けさ」をもたらし、そこにある家具や道具などの事物に「趣をあたえる」ために欠かせないことのように思います。僕は設計する住宅の室内の壁や天井を、灰色を混ぜた白で塗るのですが、それは師である村田さんからの影響でもあります。こうすることで、フローリングから反射した光で室内が黄色っぽくなるのを抑え、美しい陰影の諧調のみを残すことができる、というようなことを教わりました。実際の住宅で、ハンマースホイの絵画や、あるいは「住む。」の写真のような深い陰影を室内にもたらすように設計することは非常に勇気がいることですし、難しいことではあるのですが、そこにある深い詩情は心のなかにしっかりと留めておきたいと思います。

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ハンマースホイの展覧会のカタログからの引用によると、「ハンマースホイは、急いで語らなければならないような芸術家ではない。彼の作品は長くゆっくり語るべきであり、そして理解したいと思った時はいつでも、芸術の重要で本質的な事柄について話す充分な機会となるであろう。~ライナー・マリア・リルケ~」とも評されています。そんな懐深く奥行きのあるものを創り出したいと、常々思います。建物そのものが主張するというよりも、その内外にある事物の良き背景になろうとすることが、「懐深く奥行きのある」ものへの道筋のような気がします。

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タルコフスキー的

2011-02-04 20:33:24 | 東山の家

しばらくブログを休んでしまっていた間に、いくつかの住宅の現場が少しずつすすんできました。現場に赴いていろいろなチェックや打合せを終えた後のフリータイムは、楽しみの時間でもあります。建設途中のその瞬間にしかない雰囲気というか、空間性みたいなものを、仕事から離れて楽しんだりしています。

例えば、「東山の家」の鉄筋コンクリート造の現場。1階の型枠が組みあがり、コンクリートを打設する前のこと。床版を支える多くのパイプの列柱が林立するなかに、型枠を洗浄した水が、水滴となって型枠の隙間から降ってきます。

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コンクリートを勢いよく流し込んでいく前に訪れる一瞬の静寂。

事物を映し込む水溜り。

暗くよどんだ闇。そして光。

不安定なリズムを刻む、水滴の音。

そんななかに身を置いていると、これから創り出そうとしている空間とは別の類の、謎めいた雰囲気の空間を感じます。お、この感じは、もしやタルコフスキー的!?なんて、勝手な想像を巡らせるのも、大声では言えないけどちょっと楽しい時間です。

ソ連の映画監督アンドレイ・タルコフスキーの映画を観ていると、どの作品にも共通して「水」が印象的に登場します。廃屋の屋根の合間から落ちてくる雨水 が、床の上に、そして、暗示的に置かれた数々の空き瓶に降ってくる光景。独特の音を奏でながら、ずっとそんなシーンが長映しにされます。映画「ノスタルジ ア」の1シーン。

下の写真は、アンドレイ・タルコフスキーが映画のロケハンのために自ら撮ったポラロイドの写真集"Instant Light"からの1カット。この写真集のなかに満ちる独特の暗示に満ちた雰囲気に一番近いのは、完成した建物の空間よりも、建設中のときなのかもしれません。

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