設計を手掛けている住宅には和風も多くあり、室内の建具に襖紙を用いることがよくあります。
襖紙や和紙は色柄ともにとても多くの種類があり、それらを施主と一緒に選ぶのも楽しいプロセスのひとつです。
なかでも思い出深いのは、江戸時代から続く唯一の唐紙の老舗の襖紙を選んだときのことです。
唐長というお店で、刷りに用いる板木も江戸時代から大切に受け継いできているとのこと。
そして、雲母とよばれる独特の輝きのある刷りも特徴で、なかなか他では見ることのできない趣きがあります。
施主が唐長のファンということもあり、それではぜひ採り入れましょう、ということになったのですが・・・
入手するためには、京都の修学院にある工房まで出向かなければならない、とのことでした。
んん~?京都ルールかこれは。とか思いながら施主と一緒に修学院まで出かけたのでした。
10年以上前のことですが、今もそうなのでしょうか。
ともあれ、そんなことも振り返ればいい思い出になります。
薄暗い工房内で、リクエストに応じて古いくすんだ色の戸棚から次々に出される、渋く鮮やかな和紙の数々。
仄暗さのなかで、雲母の鈍い輝きが鮮烈に印象に残ります。
インターネットショップや、街なかの明るい店内では決して体験できないことでした。
写真は「東山の家」の書斎入口のシーンです。
せっかくの唐長の唐紙を引き立てるため、壁や天井は黒く塗りこめ、照明をあてて雲母の輝きを浮かび上がらせました。
部屋に入るたびに目にする光景が、特別なものになるように。