唐長の襖紙

2023-02-26 21:56:03 | 東山の家


設計を手掛けている住宅には和風も多くあり、室内の建具に襖紙を用いることがよくあります。
襖紙や和紙は色柄ともにとても多くの種類があり、それらを施主と一緒に選ぶのも楽しいプロセスのひとつです。

なかでも思い出深いのは、江戸時代から続く唯一の唐紙の老舗の襖紙を選んだときのことです。
唐長というお店で、刷りに用いる板木も江戸時代から大切に受け継いできているとのこと。
そして、雲母とよばれる独特の輝きのある刷りも特徴で、なかなか他では見ることのできない趣きがあります。

施主が唐長のファンということもあり、それではぜひ採り入れましょう、ということになったのですが・・・
入手するためには、京都の修学院にある工房まで出向かなければならない、とのことでした。
んん~?京都ルールかこれは。とか思いながら施主と一緒に修学院まで出かけたのでした。
10年以上前のことですが、今もそうなのでしょうか。
ともあれ、そんなことも振り返ればいい思い出になります。
薄暗い工房内で、リクエストに応じて古いくすんだ色の戸棚から次々に出される、渋く鮮やかな和紙の数々。
仄暗さのなかで、雲母の鈍い輝きが鮮烈に印象に残ります。
インターネットショップや、街なかの明るい店内では決して体験できないことでした。

写真は「東山の家」の書斎入口のシーンです。
せっかくの唐長の唐紙を引き立てるため、壁や天井は黒く塗りこめ、照明をあてて雲母の輝きを浮かび上がらせました。
部屋に入るたびに目にする光景が、特別なものになるように。
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設計のスケッチ

2023-02-16 22:52:37 | 住宅の仕事


住宅の設計を始めたときの光景。
デスクの上にはトレーシングペーパーに描かれたスタディ・スケッチが積まれていきます。
手には、亡師からいただいたカランダッシュ製のペンホルダー。太いエンピツのようなものですが、とても軽くてスラスラ掛けるのが特徴です。

いま取り組んでいるのは、北茨城に計画中の住宅。周りを自然に囲まれ、そこには古い納屋があります。
その古びた納屋がもつ味わいと、その仄暗い空間のなかに置かれた数々のモノが放つ不思議な趣き。
そんなことを思い返しながら、イメージスケッチを重ねていきます。
間取りを描いているようでありながら、脳裏を去来するのは、その空間に現れるであろう光や影、古いモノの痕跡や記憶など。

少しずつ、これは!という輪郭が見えてきました。
そして磨き続けるのみ。
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鎌倉山ノ内の家

2023-02-13 19:07:57 | 鎌倉 山ノ内の家


「鎌倉山ノ内の家」の現場が進んでいます。大工さんの仕事も大詰めとなり、空間の輪郭がハッキリしてきました。
猛暑のなかでの「鎌倉小町の家」は鶴ケ丘八幡宮の門前町での仕事でした。
ここ「鎌倉山ノ内の家」の現場は寒さとの闘いです。平地に比べて気温も少し低くなるようです。
携帯電話の電波も届きにくく、まさに山ノ内。そのぶん、眼前に覆いかぶさる山の景色は圧巻です。

断熱性能を確保すべく、樹脂サッシの既製品を用いながらの窓辺のデザイン。
風景を大きく切り取るFIX窓と、風抜きを促す開閉窓。それらの組み合わせとプロポーションによって、窓辺のデザインに独自の表情が出ます。
どんなときでも、ここにしかないオリジナリティのあるデザインを求めたいものです。

落葉した冬の枯れた木々を通してやってくる自然光には独特の風情があります。
できあがったら、この窓辺はダイニングになり、建て主がお手持ちのアンティークのテーブルが置かれる予定。
食事が美味しく映えるダイニングになりそうです。
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鎌倉スパイス

2023-02-07 22:06:18 | 鎌倉小町の家


「鎌倉スパイス」~いなせな大人の隠し味~ という名のスパイスをご存知でしょうか。
このスパイスが、とっても美味しいんですよ。
と「鎌倉小町の家」の建て主におすそ分けしていただいたのですが・・・これがやみつきになる美味しさ!
パキスタンやインドの香辛料を配合した独自の味わいで、どんな料理にも合う程よいスパイス感がクセになります。

黒猫チー坊のイラストがあしらわれたシンプルなラベルに、ガンメタル色のキャップのついたシンプルなボトル。
スパイス類のボトルのデザインって、目立つようにカラフルだったりフォントが派手だったりするのが多いように思いますが、こんなふうにシンプルなボトルが逆に目を引きます。
テーブルに置いてあってもよい感じで、だから使いたくもなります。身の回りのちょっとしたグッズこそ、デザインに気を配りたいものですね。




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ブルーノ・タウトの桂離宮

2023-02-02 22:49:09 | アート・デザイン・建築


京都の桂離宮に心奪われた人物は多くいますが、そのなかでも有名なのはドイツ人建築家ブルーノ・タウトの逸話です。
ブルーノ・タウトは、ナチスの迫害を逃れるため渡航先として選んだ日本で、京都で、桂離宮に出会いました。

タウトは桂離宮を「泣きたくなるほど美しい」と表現し、その記憶はイメージとして図像化され、一冊のドローイング集にまとめられました。
このドローイング集が、これまたとても美しく・・・。
少数販売の希少本ですが、たまたま古本屋で発見して手に入れたときは、ぼくも泣きたくなるほど嬉しい・・・とまではいかないまでも(笑)、宝物?にしている本のひとつです。

桂離宮では、風光明媚な自然を模した庭園に、簡素古朴を装ったパビリオンが点在しています。それらの建物のモチーフは農家であったりあずまやであったり。
ですがタウトのドローイングではそれらの姿形を再現するのではなく、むしろその断片のイメージをつかみ取って表現しています。

独特の飾り模様のついた窓辺から見える風景と、それらがつくりだすイメージとは。
桂離宮では、物事の見た目の姿そのものより、それらのものが暗示するイメージの連想にこそ主題がある。そんなことをタウトのドローイングは指し示しています。

日々の住宅の設計のなかでも、そんなイメージの広がりと豊かさを宿すことができたら・・・と、そんなことを密かに思っています。


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