受け継がれるもの

2020-06-29 21:53:14 | 住宅の仕事


ぼくが師・村田靖夫の設計アトリエで最初に担当した18年前の住宅。経年で劣化したところを直し、また元気な姿になりました。
家守りのお役目は、設計した村田さんからスタッフだった僕のところに。
施工は、当時の監督さんが引退し、その後輩監督へ引き継がれています。



テレビ台はもともと設計したものではなかったけれども、ナラの無垢材でできたしっかりした造り。
ただ精緻な造作のため、扉の開けたても硬くなっていました。
そこで現在の使い方に合わせて、スライド棚を増設し、動かなくなった引戸を撤去して開き戸をつけなおしました。
色合わせをして、また新たな家具として生まれ変わりました。



玄関ホールの写真。ここの眺めは、いつまで経っても古びることなく、いつ見ても静かな雰囲気です。
18年経って、変わるところがあり、変わらないところもあります。
そんなところが、家の「奥行き」というものになっていくのだと思います。
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須賀敦子のヴェネツィア

2020-06-24 21:04:12 | 


ヴェネツィアは観光の街ですから、明るく賑やかな雰囲気が似合います。
でも、そんな明るく賑やかなヴェネツィアの姿とは別に、多くの文学やコラムや映画や写真では、ヴェネツィアの孤独で虚無に満ちた気分を浮かび上がらせ、それをヴェネツィアが本来もっている神髄とする志向があるように思います。

早世した作家・須賀敦子がエッセイで紡ぎだしたヴェネツィアの姿も、寄る辺のない寂しさに包まれています。
ですが、島のひとつトルチェッロにある古い教会のなかで、素朴で美しい聖母子のモザイク壁画に出会います。
美しいとしてきたものがすっと消えていって「これだけでいい」。そんなふうに思い、眠たくなるほどの安心感と満たされた気持ちに包まれたことが綴られます。

建築書では「大建築家の面目躍如たる作品」として称えられるアンドレア・パッラーディオの白亜の教会についても、須賀敦子は独自の解釈を向けます。
治癒の見込みのない患者が集められた病院の窓の前に鎮座する教会が、建てられた当時に真っ暗な夜の中で、月明かりを受けて、守り神のように立ち姿を見せていたであろうことを。

物事の内奥に迫ろうとすれば、目の前の光景であったり評価であったりに惑わされず、イメージのなかで観照する力が必要なのでしょう。
コロナ禍のヴェネツィアで一時期、街から人の姿が完全にいなくなったことが報道されていました。
その街の様子は、ともすればヴェネツィアの内奥がもつ気分を眼前に浮かび上がらせていたかもしれません。

写真はエリオ・チオル写真集「ヴェネツィア」(岩波書店)より。氏の写真には人物が登場しません。ヴェネツイアを撮った写真、でさえも。
そこには、ふだん我々が目にすることのないヴェネツィアの気分が広がります。
そして氏がライフワークとして撮り続けた写真集「アッシジ」(岩波書店)は、須賀敦子が、「俗を排して聖を浮かび上がらせた」として絶賛したものでした。






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大磯にて

2020-06-19 18:54:01 | 大磯の家


大磯にて住宅の現場が始まりました。
地山を背に絶好のロケーション。傍に小さな神社があり、その参道も趣があります。
大磯らしく大きな松がそびえ、梅雨時期の湿気を帯びた空気と木漏れ日が、独特の幽玄な雰囲気を作り出しています。
そんな環境での仕事は幸せです。



平屋の住宅ですので、基礎の鉄筋もゆったりと広がります。
桂離宮のようにクランクする間取りは、庭との関係を親密にしてくれることを狙ったものです。
造園家との打ち合わせも同時に進み、建物と庭を一体的にデザインする家づくりを目指しています。

近接して著名な建築家の作品もいくつかあって、ちょっと身の引き締まる思いです(笑)
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西の窓

2020-06-11 21:27:13 | 自由が丘の家


僕の設計アトリエには西向きの窓があります。
西に向いているからあんまり大きな窓にすると眩しくなってしまうけれど、ちょうど庭に面していて、眺めもよいはず。
そんなことをよりどころにしながら窓辺のデザインを決めていきました。

外の風景を額縁のように切り取る、きれいな正方形のシルエットにしよう。
せっかくきれいに風景を切り取るなら、木の窓枠でシンプルにつくろう。しかもFIX窓で。
窓辺に座って過ごしているときにちょうどよくするために、高さは低めに抑えよう。
ついでに座れると居心地がよいから出窓にしよう。
ロースクリーンも隠れるように格納できるようにしよう。

そんなふうにして窓辺のデザインができあがっていきました。
毎年、この季節になると黄色い花が咲き誇ります。

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バーバパパの家

2020-06-06 22:47:08 | 桜坂の家


家の設計を考えるときは、その土地でどうしたら落ち着きと安心感が得られるだろう、というようなことを考えるところからスタートします。
特に住宅街では、道行く人の視線や、隣家との関係がありますから、窓ばかり開けると逆に落ち着かなくなってしまいます。

壁に護られた家。
そんなキーワードを、いつしか考えるようになりました。
土地の形と状況に応じて、変幻自在の壁の位置を操り、安心感のある家の内部をつくります。
そして、ここぞ!というところに窓を開ける。
ここに窓を開けたら、どんな雰囲気で「外」と出会うのだろう?
そんなことをイメージしながら壁と窓をデザインしていくのは楽しいものです。

普通の窓ではなくて、特別な光と風景が入ってくる窓。
そんな雰囲気に満ちた家は、変化に富んでいて飽きることがありません。



状況に応じてどんな風にも変幻自在な家づくり。
子どもの絵本を見ていて、あれ、これだ!!と思ったのは、ご存じバーバパパ。
ピンク色の体が、どんなかたちにも変幻自在。
こんなところに源泉があったとは!
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