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『若き友人たちへ』 ( 筑紫哲也氏の著書 )

2017-11-06 18:53:15 | 徒然の記

 筑紫哲也氏著『若き友人たちへ』( 平成21年刊 集英社新書 )を、読み終えました。

 氏は昭和10年に生まれ、平成20年に73才で亡くなっています。早稲田大学を卒業後、朝日新聞に入社し、政治部記者になりました。

 それから週刊誌「朝日ジャーナル」の編集長をやった後、ニュースキャスターに転じます。テレビをあまり見ないので知りませんでしたが、「筑紫哲也 news23」という番組を長く続け、多くの人に親しまれたと、本の最終ページの略歴に書かれています。

 菅直人氏のような愚かしい人物の著作なら、遠慮なく批評できますが、絵画、音楽、写真、本などについて妥当な意見が多く、偏見を感じさせる言葉遣いがありませでした。

 戦前や国家論を語るときだけ、氏は呵責ない日本批判をします。

 もしかすると氏は論理の人でなく、感性で生きるジャーナリストだったのかもしれません。その場その場で受けた直感を大事にし、直感を守ることが「自分を偽らない生き方」だと、そう信じたのかもしれません。

 氏の言葉を紹介します。

  ・今の日本の憲法論議では、ご近所が、日本が何かした時にどう見るかとか、どういうリアクションをするのだろうか、ということを、これっぽっちも考えていません。

 「ご近所」というのは、隣国である中国・韓国・北朝鮮を指しています。

  ・それどころか、外側が何を言おうが、余計なことだと開き直る。靖国について文句をいうのは内政干渉だと、言い返します。

  ・私は内政干渉だとは思いませんが、でも、このままいったら、日本は孤立するだけです。

  ・中国を目の敵にしていますが、日本の目が外側に向いていない以上、アジア諸国は中国を頼りにします。

  ・右派の人たちは、すぐに国益という言葉を使いますが、そうなったら、国益を失うのはどちらですか。

  温厚な氏がテレビで語ると、お花畑の人間はうなづいてしまいます。

 しかし今日の中国は、氏が言うような「ご近所」なのでしょうか。毛沢東と鄧小平までは、日本の援助を得ようと「熱烈歓迎」のつき合いでしたが、江沢民が指導者となった途端、「反日憎悪」に豹変しました。

 巨額の資金援助と、それに匹敵する技術援助を日本からせしめ、自力がついてくると敵意をむき出しにしたのは、中国の方だったはずです。

 どうして日本人が、中国を目の敵にするようになったのか、氏はその理由を語りません。他国から何か言われると肩をいからせ、二言目には「内政干渉だ」と拒絶する中国の傲慢さを知りながら、靖国問題ついて、氏はなぜ内政干渉と思わないのでしょう。

 こういう意見が出てくるのは、氏が東京裁判史観を信じている人間だからです。

  ・大東亜の戦争は、日本が仕掛けた侵略で、日本が暴走した間違った戦争だったからだ。

  ・日本は中国や韓国・北朝鮮には、ずっと謝り続けなくてならない

 こうした歴史観を持っていると、氏のような意見が出てきます。

 客観報道とは何かを常に考える人物でありながら、日本のことになると、途端に感情論で決めつけてしまう。ここに私は、氏の恐ろしさを発見します。

 正しい事実を説明する氏が、間違った感情論を混ぜて話すと、氏の言うことだからそうなのだろうと、普通の人間がそんな気持にさせられます。

  ・アメリカを非常に好意的に見ている人は、アメリカが非常に悪い状態になっても、必ず揺り戻しがあるというんです。

  ・マッカーシズムという、民主主義の中ではありえないような思想弾圧があったときだって、また元に戻ったじゃないかと、そんな振り子の理論でアメリカを見てきたんです。」

  ・でも私は、これはちょっと怪しいと思います。アメリカという帝国化した国は、そういう意味での劣化、レベルダウンが始まっている。

  ・しかしアメリカのことより、日本のことを考えたほうがいい、というのはもっともなことです。」

  ・この国もいろいろなものの劣化が、どんどん進んでいるように見える。本当に心配なことです。

  ・しかも、その劣化をすごく推し進めているのが、テレビです。自分のいる場所だけに、さらに深刻な気がします。

 この文章で氏が語っているのは、客観的事実でなく、氏自身の気持ちです。何が、どう劣化しているのか。心配なのは何なのか・・事実を何も述べていません。

 自分のいるテレビ界についても、危惧の念を語っています。どんな危惧なのか、具体的に言わないので、読み手が自分なりに解釈します。

 右寄りの人間は「左傾化するテレビ」のことだと思い、左の人間は「右傾化するテレビ」の話だと思い込みます。

 意識的な作為というより、氏の特有の婉曲表現だと思いますが、それだけに、次のような氏の意見に危惧の念を覚えます。

  ・私たちは今、戦後60年を過ぎた時代に生きています。

  ・中国や韓国の人たちに、いろいろ非難をされていますが、そういう時にいつも私は、一つだけ申し上げることがあるんです。

  ・確かに日本には、反省が足りないとか、多くの問題はあります。」

  ・しかし一つだけ知っておいて欲しいのは、戦後60年、日本は戦争をしていないということ。

  ・60年間、自国の軍隊で一人の外国人も殺していない。外国の軍隊に、一人の日本人も殺されていない。これは、国家として相当なことだと思うんです。

 ここでは述べていませんが、だから憲法を変えてはならないと、氏の意見はこの結論に結びついていきます。

 氏の主張は、共産党や、民進党、社民党など、反日政党の腹立たしいスローガンと、そっくり重なります。

 先日は千葉日報で、民主党の元防衛大臣だった北澤俊美氏が、まったく同じ言葉で憲法改正反対論を述べていました。氏の意見が、反日左翼政党を動かしているというより、反日左翼の人間は、同じ間違った歴史観で生きているということなのでしょう。

 日本の反省が足りないと、何をもって主張しているのか、静かな怒りが湧いてきます。日本にだけ多くの問題があると言っていますが、難癖をつけてくる中国や韓国には問題がないのか、彼らに反省すべき点はないのか。氏に問い返したくなります。

 原爆についての意見を読んでいますと、ここまで日本を愛せない人間なのかと幻滅しました。

  ・世界の多くの人たち、アジアの人たちも、そしてアメリカの多数派も、あれは日本という非情で暴虐な、独裁的軍国主義国家を懲らしめ、早く戦争を終わらせるために必要な手段だったと、

  ・そういうふうに思っている人たちが、残念ながら、世界的には多いんです。

  ・国内で私たちは、被害者として原爆被災者たちを慰霊する。私たちの感情としては当然です。

  ・ところが世界の外側の目は、加害者としての日本を忘れていないのです。

  ・ここに日本の捉え方との、ズレがあります。だから今いろんな場所で、いろんなことが起きているんです。

 やはり氏が言いたいのは、日本だけが悪かった、暴虐な戦争をしたという、東京裁判史観です。

 なんとなく客観的に見える文章ですが、氏も「日本が非情な暴虐的独裁国家」だったと思っているから、見当違いの日本批判ができるのです。

  これ以上批判すると「死人 ( しびと ) に鞭打つ」ような嫌な気分になりますから、本の紹介をここで終わりにします。

  今日は呑める日なので、楽しく酔って忘れたい気分です。次回の本は、澤田洋太郎氏の『憲法改正論争 あなたならどうする。』です。これも左系の著者らしいので、心が弾みません。しかし、「苦あれば、楽あり」です。

 「知ること」の喜びを求め、73才の学徒は明日も頑張るとしましょう。

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