李氏は1993 ( 平成5 )年に北朝鮮を脱出し、中国を経て94年3月韓国に政治亡命し、韓国が身柄を保護している重要人物です。
これから紹介するのは、亡命した氏が、韓国で語る話です。
「1994年7月9日、その日は私が韓国へ来て113日目となった日であった。テレビやラジオ放送で、金○成主席死亡のニュースを聞いた私は、テレビの前で、金縛りにあったような状態で画面に見入った。」
「正直に言えば、心臓がドキドキして、涙が流れてどうしようもなかった。それは私が韓国へ亡命するまでの26年間、金○成洗脳教育を受けてきた影響かもしれない。死亡の知らせを聞いた瞬間、私は生まれ育った故郷に眠る父母の墓を思い出し、4人の姉たちの顔が鮮明に浮かんできた。」
脱北者の複雑な気持ちが、正直に語られているような気がします。
「金○成という存在は、49年もの間北朝鮮を統治した人物である。北朝鮮の全人民は、金○成偶像化教育と政治教育を受けてきた。そのために、頭の中では金○成は人間でなく、神であると信じてきたのである。韓国に亡命してきたが、彼が突然死ぬとは思っていなかった。」
理由として彼は、次の事実を挙げています。
・米国の元大統領カーター氏が、ひと月前の6月に北朝鮮を訪問し、金○成と会談している。
・カーター氏はその足で韓国を訪問し、金日成氏が元気であり、あと10年は自信があると語った様子を伝えていた。
だから氏は、突然の訃報が信じられず、時間が経つとともに北朝鮮の報道に疑問を抱きはじめます。
「北朝鮮の放送は金○成の死亡原因について、〈心臓血管の動脈硬化症で治療を受けているうちに、度重なる疲労で強い心筋梗塞が発生し、心臓ショックが発生した〉と発表し、」「〈即時に全ての治療をしたにもかかわらず、心臓ショックが止まらなかったため亡くなられた〉と続けた。」
「さらに放送では、〈7月9日の病理解剖検査では、疾病の診断が完全に確認された〉と語った。」
氏が疑問点を、列挙します。
・自然の疾病で死亡したのならば、神様的存在である金○成の体にメスを入れるはずがない。
・同じく共産国の指導者だった毛沢東やスターリン、レーニンなどの死亡時にもメスは入れなかった。
・儒教思想の根強い朝鮮半島では、死後、人体に傷をつけないことが不文律となっている。
・原因究明のためとはいえ、神様の体にメスを入れ、解剖するとは考えられないことである。
閔妃時代の朝鮮では、反対派の政治犯の体を虐殺後バラバラにし、晒しものにした事例がありますので、氏の意見をそのまま信じる気にはなれませんが、それ以外は当たっているのかもしれません。
「次の疑問は、公式死亡発表が早すぎたのではないかということです。共産主義国の場合、国家主席の死亡時には、政権交代と体制安定のため、普通は3日間、場合によっては1週間から10日後に発表されるのが一般的である。」
「今回の金○成の死亡について、私はあえて、推論を試みてみたい。」
かって金○成は外国要人との会談中に倒れ、心臓病で1ヶ月治療を受けたことがあったそうです。つまり彼には、心臓病の持病があったということです。
「しかしカーター氏と会った時、元気な姿がテレビや新聞で報道され、非常に健康そうに見えた。」
「7月8日午前2時の死亡ということであるならば、死亡前に、彼に強い刺激が与えられたのは間違いないと考えるべきだろう。」
「以前から親子の仲が悪かったため、死亡直前に金○日が金○成に大きな不満を言い、大喧嘩となり、そのショックで持病の心筋梗塞が悪化して死亡したのではないか。」
ここで彼は韓国情報筋の話を、紹介します。
・金○成はこの時、妙香山の別荘で南北頂上会談に関する会議を何度も開いていた。
・核問題、離散家族問題を今までよりも幅広く、韓国金泳三大統領と議論するつもりだった。
・しかし金○日とその反対勢力がこれに反発し、金○成は精神的に疲れていた。
・金○成が死亡したとされる直後、妙香山へ向けて飛ぶ3台のヘリコプターが、米国諜報機関のレーダーにとらえられていた。
・この時キャッチされた電波の内容は、ひどく慌てた声で「医者はまだか、医者はまだか」であったという。
・中国延辺地域の朝鮮族の間では、医師の出発を遅らせたのは、金○成の反対勢力が止めたからだという噂も流された。
「金○日は、父親の急死の原因が自分にあると、継母金○愛や弟金○一などの反対勢力に疑われることを恐れ、医師団を通して、一刻も早く死亡原因を持病による心筋梗塞と発表してしまうよう、解剖の命令を下したのではないか。」
これが氏の個人的な推測です。
「金○成死亡についての、こうした私の疑問に回答が与えられるのには、今後、かなりの時間を要するだろう。いや、永遠の謎となってしまうことも十分考えられる。」
永遠の謎となったのかどうか不明ですが、今は金○日も亡くなり、その子の金○恩の時代になっています。彼は親たちの意思を受け継ぎ、日本に狙いを定めた核ミサイルの発射実験を繰り返し、日本を威嚇しています。
金○成の死因の推測があたったのか確認できませんが、次の予測だけは間違いなくあたっています。金○日の名前を、金○恩と置き換えれば良いのです。
「おそらく金○日は、国際的に注目を浴びている核を、〈切り札〉として利用し、アメリカとの高位級会談および南北頂上会談、日本との修交関係を調整しながら、時には強行的な態度で、また時には、平和的なポーズをとりながら最重要課題である経済問題で、アメリカからの援助を引き出し、」
「さらに日本からは、金○成が金丸氏を呼んだように、社会党を利用して、戦後の賠償金としての40億ドルを要求するだろう。」
社会党の代わりに、自民党の中の反日勢力が日朝国交回復に動いていますが、氏の本を読みますと、まともに交渉できる相手でないことが分かります。
反対した安倍氏の姿が、いっそう凛として見えてきます。惜しい政治家を失いましたが、氏の意思を継ぐ人物が自民党の中から現れると、信じています。安倍氏もそれを、天の彼方から見守っているはずです。