李氏の著書の61ページに、次のように書かれています。
「私が亡命したことによって、姉たちも強制的に離婚させられ、どこか山の中にある強制労働収容所で苦労しているかもしれない。そんな姿が、瞼から離れない。なんの罪もない姉たちに、どうか害が及ばないようにと、毎日、ただ祈るばかりである。」
核と生物兵器の開発機関に勤務していた氏が、機密情報を持って脱北したのですから、残された4人の姉たちが無事であるはずがありません。また98ページには、退学処分を受けた氏が、人生の再出発を賭け入隊し、故郷を離れた時の回想がありました。
「その日の夕方、身の回りの品を持って、一番上の姉の家に行った。姉は涙を浮かべながら、〈こんなに急に入隊することがわかっていたら、ウチへ呼んで、忠国の好きなものを料理して食べさせたかった〉と、声を詰まらせた。」
「私も胸がいっぱいになり、俯いて泣いた。両親が揃っている他の家庭とは違い、わが家は姉弟が力を合わせて生きてきたし、姉は長女として、下に続く妹弟のため本当に苦労してきた。」
「三番目の姉も、私の入隊の知らせを聞いて、泣きながら入ってきた。どうして何も言わずに行ってしまうのかと、姉たちは急な私の入隊について責めた。」
そして翌日、氏は姉たちや友人、知人に見送られながら、駅で別れをしました。
「見送りに来た友人たちと別れを惜しもうとしたが、姉たちが泣きながら抱きついてきたので、どうすることもできなかった。私は嗚咽をこらえ、姉たちに笑顔を見せた。」「汽車の出発時間が迫り、汽車に乗った途端、それまでこらえていた涙が頬を伝って流れた。」
「これが、姉たちとの最後の別れになろうとは、夢にも思わなかった。それが分かっていたのなら、姉の手をもう一度握りしめ、抱きしめてあげればよかった。」
「多くの人たちが故郷を捨て、シベリアや中国地方で今も彷徨っている。いつになったら北朝鮮にいる可哀想な私の姉たちや同胞、またシベリアや中国にいる人たちが、幸せな日を送ることができるのか。今の私には、その日の来るのを指折り数えて待つしかない。」
私は9年前に読んだ、高英煥氏の著書『平壌25時』を思い出しました。著者は、平成3年に韓国へ亡命した北朝鮮外交官で、李氏が亡命するたった2年前に脱北しています。情報の遮断された国に住む二人は、同じ亡命者でも、互いを知らないままなのではないかと思います。
・ゴルバチョフと金○成は仲が悪く、金○成の独裁体制は、彼が非難してやまないものだった。
・終戦後に日本から帰国した朝鮮人は、すべて日本のスパイとして扱われ、監視され隔離され、不幸な人生を送っていること。
なども、高氏の著書で初めて知る事実でした。氏の悲劇は、ソ連の崩壊から始まりました。
「世界の多くの人びとが、憧れの的としていた偉大なロシアが、社会主義・共産主義の理念を放棄している。社会主義は、机上の楽園だったのだろうか。」
「無階級社会だといいながら、北朝鮮には厳然とした階級が、存在している。」
内部告発の監視社会であることをつい忘れ、ふと心の内を洩らしたため、彼はたちまち政府上層部に睨まれることとなりました。結果がどうなるのかを知る彼は、故国に妻と子を残したまま、懸命の工夫で亡命をします。
妻子や親たちを案じ、彼は今も、夜ごとに号泣すると言うのが、『平壌25時』の中身でした。李氏と同じく高氏もまた、悲惨な人生です。
だから私は、こうした非道な国を賛美するわが国の左翼主義者たちと、自民党内のリベラル議員が今もって理解できません。
ソ連崩壊の現実を目の当たりにし、自国の体制に疑問を抱いたこの北朝鮮外交官と、李氏の爪の垢でも煎じて飲むべきでないのかと思う時があります。
人権を守れ、政権の横暴を許すなと主張するのなら、反日左翼政党の議員たちは、拉致被害者を含め、北朝鮮で抑圧されている人々を救うことが先ではないのでしょうか。政権与党である自由民主党と公明党の議員は、金一族の延命に協力するのでなく、多数の国民の苦境を無くす方に力を入れるべきです。
日本の政治家は、大切な順番を、敗戦後は間違ったままです。この原因はとりもなおさず、GHQが残した「トロイの木馬」を手つかずのままにしていることにあります。耳にタコができるほど繰り返していますが、ここでも繰り返します。「トロイの木馬」は、次の三つです。
1. 「日本国憲法」・・平和憲法という美名で、日本の歴史と伝統を崩壊させた悪法
2. 反日左翼学者 ・・悪法を改正させないため、世間を惑わす反戦左翼理論を発信する組織に集まっている著名学者。( 日本学術会議、日本学士院等 )
3. 反日左翼マスコミ・・反日左翼学者の意見を全国に発信し、「憲法改正」反対のための情報操作をする組織
長く続けてきましたが、次回で書評を終わります。