どうも人間あれこれ小細工をしようとすると失敗する、自然に任せるのが一番いい。
見慣れない用語が多く出てきてだいぶ戸惑っていたがふと懐かしい言葉に出会った、「自然法爾」、そういえばこの陶芸家も浄土宗の住職である。
宗教的なこの言葉の意味とはちょっと違うが人工から自然への転換がこの人にとって決定的だったのだろう。
陶芸家の名前は松井康成、その回顧展が全国巡回中だがその最後の開催地に日本橋三越が選ばれた、とってつけたように会期は2/6-11の六日間だけ。
しかしなかなか興味深い展覧会ではある。
この人は工芸の「練上げ」の人間国宝だというが、練上げを説明すると面倒なので勝手に調べてください、中国は磁州窯の伝統を受け継ぐものだ。
初期のこの人は「化石の森」とか「シルクロード」とか発表しているがどうも人をうならせる力はない、やはり1985に「破調」と呼ぶ練上げで自然に戻ってからがいい。
1989にはニュージーランドのカオリンを用いて作品を発表するようになるがこのころはだいぶ落ち着いた境地が見られる。
そして晩年は「ハリ光」と名づけられた作品を発表するが「ハリ光」とは仏教の七つの宝物のひとつという、僕らはここで美と宗教の幸福なる融合をみることができる。
たとえば展示195,198のピンクの色合いはどうだ!あるいは展示200のアジサイの紫はどうだ!
しかしこの陶芸家が最も表現したかったのは、あるいは到達した境地は環であろう。
展示206の「涅槃」が小さな円の集まりであること、そしてそのすぐそばの展示も円の集まりであることがそれを示している。
そのほか1991から手がけた「クレイ画」というのもあれこれ展示される。
招待券で久しぶりにいい展覧会を観た、この人が急性呼吸不全で75歳で亡くなったことが惜しまれる。
練上げを百字で説明しろという問題でたらすらすら答えちゃいそう。
僕ははじめて知りました。
東京の巡回はとってつけたようで会期が極端に短いからお客さんもかなり入っていましたね。
光の中で見るよりは、闇の中で見たくなるような作品だと思います。
工芸館にもときどき展示される作品もあるようです。