写真エッセイ&工房「木馬」

日々の身近な出来事や想いを短いエッセイにのせて、 瀬戸内の岩国から…… 
  茅野 友

旗揚げ

2013年03月21日 | 岩国時遊塾

 1か月前、ひょんなことをきっかけに「時遊塾」という、もっともらしい名前の塾を開いた。塾といっても松下村塾や松下政経塾何ぞとは訳が違う。趣味や遊びを主体とし、時に少しはお勉強らしきことをしてみようかという、定年後のおじさんたちを対象とした溜まり場的なものである。塾生は目下3名。

 塾を開いたといっても、私の名刺の肩書に「時遊塾主宰」と書いているだけである。塾のレパートリーは幅広く、いろいろメニューは取り揃えているが、公表していないので人は集まってこない。子供が遊ぶかくれんぼのようなもので、「かくれんぼするもの この指とまれ」と家の中で人差し指を立てているだけである。

 「よしっ、看板をぶら下げよう!」。わが家の庭の入口には、すでに何枚かの木製の看板がぶら下がっている。お役御免ですでに撤去したものもある。今残っているものは「工房木馬」「Essay club」の2枚だけ。この下に3枚目として「時遊塾」を作ることにした。

 今まで作ってきたものは全て堅い板に糸のこを使って文字をくりぬいたものであったが、「時遊塾」という文字は字画も多く切り抜くにはちょっと難しそうである。ここは何十年ぶりに筆を取って墨で書いてみることにした。筆は小学生の時以来持ったことはない。うまい下手ではなく、それなりに味のある文字でいい、という結論で墨をすって書いてみた。

 縦の長さに比べて横幅のある板に出来るだけ大きな文字を書こうとすると、新聞の活字のようにやや扁平な文字となった。言い訳はこのくらいにして、まずは書き終えたあと、風雨に耐えるように表面に透明なニスを塗っておいた。

 出来上がった看板をぶら下げて離れた所から眺めてみると、ある建物思い出した。現役時代、駅前の飲み屋街を酔っぱらって「さあ、次はどの店に行くぅ?」などと千鳥足で歩いていた。そのときに見上げていたビルの壁に掲げられていたネオンの看板群の風情によく似ている。

 「時遊塾」の看板を掲げたはいいが、通りがかりの人が、一杯飲み屋と間違えて入って来ても困るがと思いながら目下様子見をしている。


布袋竹

2013年03月19日 | 生活・ニュース

 散歩中に出会って話しかけたのをきっかけに、時にわが家の庭先でコーヒーを飲みながらよもやま話をする仲になった男性Kさんがやってきた。長い竹の杖をもっている。「これを持ってきましたが、いりませんか」という。

 手に取ってみるとどうやら普通に見る竹ではない。「ホテイチクというものです」と言い、蘊蓄を聞かせてくれた。直径2~5cm、高さ5~12mの中形の竹。原産は中国の長江流域山野に分布する。茎の基部から枝下あたりまでの節が斜めになって、節間が不規則に短く詰まって膨らんでいる。それが七福神の布袋様の膨らんだ腹を連想させることから布袋竹と名付けられた。

 そう言われて、手で握る太い部分の節を良く見ると、説明してもらった通り、約5cm間隔の節が極端に斜めになっていて、次の節と接触しそうなまでになっている。真横から眺めると、節間が三角形に見えるほどである。その三角形の底辺に当たるところがふっくらとしていて、この形こそが布袋様のお腹を思わせる所である。

 このホテイチク、節の斜めになった部分が握りやすく、また乾燥したものは折れにくいため釣り竿としてよく使われる。見ても美しいが実用にもなっている。Kさんは夕方の散歩を日課にしている私に、杖を作って持ってきてくれた。

 普通の杖に比べると少し長く、測ってみると120cmもある。立ち上がって突いてみると胸のあたりまである。歩いてみたとき、見たことのある誰かの姿が思い浮かんだ。そうだ、テレビドラマでやっていた水戸黄門である。ちなみに、あの黄門さまの杖は、テレビでの見栄えがいいように独特な膨らみのある亀甲竹を使っているという。まあ、似たようなものだ。

 私は黄門さまと比べて年に不足はない。これからの散歩には、このホテイチクを突いて出かけてみよう。唯一のお伴は、助さん格さんならぬハートリーであったが今となっては誰もいない。職務質問でもされた日にやぁ「徘徊黄門」とでも言ってみよう。 はっ、 はっ、 はっ、……。


70首

2013年03月18日 | 生活・ニュース

 70首になった。70才でリストラにあいクビになったということではない。このところ首の左から肩にかけての筋肉が、頭を上げたときや左に回したりしたときに痛みを感じる。40肩という病名があるが、今の私はさしずめ70首といったところか。

 原因を考えてみるに、これはパソコンに違いない。遠近両用の眼鏡をかけているため、パソコンの画面の小さな文字を読むようなときには、頭を少し上向きにし眼鏡の下半分を通して読んでいる。その結果、首の前側は伸ばし後ろ側は極端に圧縮するような格好となる。

 痛みを緩和するには、首をうなだれるような仕草をすると気持ちがいい。日に何度かこんなことをしている。又、風呂に入ったときには首まで湯につかり、うなだれた姿勢で指圧をしている。こんなことで少しは痛みが軽くなってきているが、まだ治ったとはいえない状況だ。

 十数年も前から同じような姿勢でパソコンを扱ってきているが、こんなことは初めての経験である。体のバランスのどこかが少しずつ変化しているからだろう。そういえば、サラリーマン時代の何十年間、ヒラメのように目はいつも上目づかい、頭もいつも上げて上役の顔を拝んでばかりいた。そんな習性が板に付き、目と首は鍛えていたはずだったが、この年ともなると少し衰えてきたのかもしれない。

 ひとつ良い対策をとってみた。椅子の座面に座布団を置くなどして目の位置を高くすれば、自然と頭は下向きになってパソコンの画面を見るようになる。現在はそれを試行中。40肩は3年前に経験済みだが、時間しか解決策はないと知った。70肩も時間しか解決策はないのかもしれないが、我が身かわいさ、いろいろとない知恵を絞っている。

 散歩の途中、小川の岸辺でカモが立ち泳ぎで水浴びをしていた。きれいな同心円が次々に出てくる。ひょっとするとこのカモ、人間でいう40肩にでもなって小さなリハビリでもやっているのカモ。


老いては老いに教えられ

2013年03月16日 | 生活・ニュース

 昨年の12月初め、岩国検定の試験を実施した。それを周知するため9月初旬、ポスターを市内の各所に貼って歩いた。その内の1枚は、雨が降っても大丈夫なようにラミネートして、我が家のアルミ製の白い塀に、黒色の両面接着テープを使ってしっかりと貼っておいた。

 この接着テープは、試験実施の日までポスターが絶対に剥げないように強力なものを買い求めた。検定試験が終わり、用済みとなったポスターを取り外しにかかった。ところが、塀に貼り付けた接着テープは、爪先を使って取り除こうとするも全く剥がすことができない。

 強力な接着テープというだけあって中々手ごわい。しばらく放置しておき、紫外線で劣化してポロポロと自然に剥げ落ちることを期待することにした。ところが正月になっても健在であった。雪が舞っても、冷たい雨が降っても、頑固に接着している。時々爪で剥ぎ取ることを試みるがびくともしない。

 白い塀に、上下2本の黒いテープが意味もなくいつまでも貼り付いているのは見苦しくもある。気になってしようがないまま3月に入った。自然の力に頼っているだけでは剥離は期待できない。強硬手段に出る決心をした。

 薄い金属性のヘラを持ち出し、ごしごしと力仕事で剥ぐことを試みたが、かなりの力を入れてもやっぱり剥げない。手首や指も疲れてくる。そんなことを2、3回試みたがうまくいかないのでまた放っておいた。しかし、やっぱり気になる。またまた、それまでと同じやり方でごしごしやっているとき、裏の団地に住む顔見知りのおばあちゃんが通りがかった。

 「あ~、それはねぇ、温めたらすぐとれるよ。わたしゃあ、ホテルに勤めていたとき、ガラス窓に貼ったテープは湯をかけて剥いどったよ」と教えてくれた。そういえば昔、子供が窓ガラスに貼ったシールを温めて剥がしていたことを思い出した。ヘアドライヤーを持ち出して助言通り温めてみると、なんてことはないきれいに剥げて悩みは一挙に解消した。

 この方法、やったことはあったが忘れていた。おばあちゃんのおかげで、きれいにはなったが、今度会ったときにどや顔をされることがちと悔しいが、そこは我慢するしかない。ここは素直に「おばあちゃん、ありがとう!」と頭を下げるしかない。


襟飾り

2013年03月08日 | 岩国時遊塾

 このところ針金自転車に凝っている。凝っているというよりか生活をかけていると言った方が当たっているか。10年も前から、時に針金自転車を作ってサイドボードに飾ったり、訪ねてきた知人に小さなプレゼントとして渡したりしていた。

 ところが最近になって、今まで作ってきたものとは異なった形の針金自転車を見つけ、いくつか作ってみた。以前のものとは違って、割と簡単に作れる。針金の材質も、従来のアルミから真鍮や黄銅など色のきれいなものを作ってみた。小型のものは小粋な飾り物に使えそうだ。

 そうだ、これを背広の襟飾りにしてみよう。背広といえば 左襟にボタン穴があるがこれを使って飾る。そもそもこのボタン穴は一体何なのか。もともと西洋の紳士用の服は立て襟だったが、簡略化され窮屈さを取り除いていくうちに、現在の背広の形になったと言われている。その立て襟時代の第一ボタンの名残が、あのボタン穴だという。

 19世紀ごろ、襟に花を差してオシャレをしてパーティに出かける風潮が生まれた。一般にラベルホールと呼ばれているが、別名フラワーホールともいわれる所以である。小型の針金自転車をこのフラワーホールに取り付けて飾ろう。

 金色の真鍮針金で3台作ってみた。据え置き用のものと違って襟飾りとあれば、ピンバッジのような取り付け金具がいる。インターネットで調べてみると、ピンバッジの取り付け金具だけが販売されている。私と同じような買い手がいるのだろうか。10個が300円。直ぐに発注したものが今日届いた。

 早速針金自転車と組み合わせてブレザーの襟に取り付けてみると、男の飾り物としてはいい感じだ。当面これをつけて出かけるようなパーティなんぞはない。病院へ行くときにはちょっと似合わないし、はてさて使い道に困っている。そうだ、これを商品化してインターネットオークションで売って生活の足しとしてみるか。

 そんなことよりも、欲しい人にプレゼントして喜んでもらう顔を見る方がいいか。それとも開店したばかりの「時遊塾」の塾章とすることにするか。春の宵、針金を曲げながら一人悩んでいる。