写真エッセイ&工房「木馬」

日々の身近な出来事や想いを短いエッセイにのせて、 瀬戸内の岩国から…… 
  茅野 友

「バンドネオンの響き」

2013年03月04日 | エッセイ・本・映画・音楽・絵画

 友人から「バンドネオンの演奏を聴きに行かないか」と誘われた。「バンドネオン?」、初めて聞く言葉であった。その昔、ネオンきらめく夜の町の、とあるスタンドバーでギターやアコーディオンを抱えた蝶ネクタイ姿のおじさんが「1曲いかがですか?」とドアを開けて入って来ることがあった。あのネオンの町の流しのバンドのことかと思ったが、そうではないらしい。

 バンドネオンとは、アコーディオンに似た楽器で、ドイツで1847年に考案された。鍵盤はボタン型で蛇腹をはさんで両側についている。1880年代、アルゼンチン人がタンゴで用いたことから、タンゴ楽団により広まっていった。

 蛇腹を押すときと引くときで別な音が出る。音階配置が不規則。演奏の習得が非常に難しく、「悪魔が発明した楽器」と呼ばれている。演奏は、椅子に座ってバンドネオンを膝に置き、アコーディオンを弾くように両手で押したり引いたりして弾く。タンゴの鋭いスタッカートは、膝を使いながら蛇腹を瞬時に引くことによって出される。 

 そんな演奏会が「バンドネオンの響き」と題して、3月2日の15時から、広島の東区民センターで開催され、奥さんと出かけてみた。200席ほどの小ホールに入った。私と同年輩の人達で満席となった。演奏者は「ロス・チフラードス」という広島在住のタンゴのトリオで、女性のピアニストとバイオリストと共に、恵島広幸さんというバンドネオン奏者が熱演した。

 2部に分かれていて、「碧空」「黒い瞳」など知っている曲を含めて全10曲を演奏した。第2部では、プロのタンゴダンスペアが、キレのよい踊りを見せてくれた。真っ赤なドレスを着て、バンドネオンが奏でるタンゴをバックに踊るダンスは妖艶の一語に尽きる。

 1時間半のショウーの終わりは、アンコールに応えて2曲も演奏してくれた。1曲目は、数年前にヨーヨー・マがサントリーのCMをチェロで演奏した「リベルタンゴ」、2曲目はアルゼンチンの第2の国歌といわれている「ラ・クンパルシータ」であった。タッ・タッ・タッ・タッ・・・タタタタッタとの鋭いスターカットをバンドネオンで初めて聞いた素敵な午後であった。少しは感性が磨けたような気がしたがさて……。