写真エッセイ&工房「木馬」

日々の身近な出来事や想いを短いエッセイにのせて、 瀬戸内の岩国から…… 
  茅野 友

布袋竹

2013年03月19日 | 生活・ニュース

 散歩中に出会って話しかけたのをきっかけに、時にわが家の庭先でコーヒーを飲みながらよもやま話をする仲になった男性Kさんがやってきた。長い竹の杖をもっている。「これを持ってきましたが、いりませんか」という。

 手に取ってみるとどうやら普通に見る竹ではない。「ホテイチクというものです」と言い、蘊蓄を聞かせてくれた。直径2~5cm、高さ5~12mの中形の竹。原産は中国の長江流域山野に分布する。茎の基部から枝下あたりまでの節が斜めになって、節間が不規則に短く詰まって膨らんでいる。それが七福神の布袋様の膨らんだ腹を連想させることから布袋竹と名付けられた。

 そう言われて、手で握る太い部分の節を良く見ると、説明してもらった通り、約5cm間隔の節が極端に斜めになっていて、次の節と接触しそうなまでになっている。真横から眺めると、節間が三角形に見えるほどである。その三角形の底辺に当たるところがふっくらとしていて、この形こそが布袋様のお腹を思わせる所である。

 このホテイチク、節の斜めになった部分が握りやすく、また乾燥したものは折れにくいため釣り竿としてよく使われる。見ても美しいが実用にもなっている。Kさんは夕方の散歩を日課にしている私に、杖を作って持ってきてくれた。

 普通の杖に比べると少し長く、測ってみると120cmもある。立ち上がって突いてみると胸のあたりまである。歩いてみたとき、見たことのある誰かの姿が思い浮かんだ。そうだ、テレビドラマでやっていた水戸黄門である。ちなみに、あの黄門さまの杖は、テレビでの見栄えがいいように独特な膨らみのある亀甲竹を使っているという。まあ、似たようなものだ。

 私は黄門さまと比べて年に不足はない。これからの散歩には、このホテイチクを突いて出かけてみよう。唯一のお伴は、助さん格さんならぬハートリーであったが今となっては誰もいない。職務質問でもされた日にやぁ「徘徊黄門」とでも言ってみよう。 はっ、 はっ、 はっ、……。