写真エッセイ&工房「木馬」

日々の身近な出来事や想いを短いエッセイにのせて、 瀬戸内の岩国から…… 
  茅野 友

夫の病

2006年05月15日 | 生活・ニュース
 ボランティアの月例会があった。終わって家に帰りお茶を飲んでいる時、インターホーンが鳴った。

 「おとうさ~ん、お客さんですよ」玄関に出た妻が私を呼んだ。一緒に会で活動をしているご婦人が2人、申し訳なさそうな顔をして立っていた。

 「以前、バラの花を見にいらっしゃいと言われましたので……」といって、にこにこしている。

 以前といっても、もう半年以上も前のことである。研修旅行のバスでの雑談で、私が誘っていたことを思い出した。とっくに忘れている話だ。

 会が終わったあと、急ぎの用もないので、散歩がてら我が家のバラを見に行ってみようということになって来たようだ。

 この時期バラと言っても、まだモッコウバラしか咲いていない。サンデッキに座り、紅白の満開の花水木を見ていただくことにした。

 75歳になったという身も心も元気なS婦人は、口が達者で話がうまい。初めて対談したが、お茶を飲みながら四方山話で盛り上がった。

 ところが、ひとつ悩みがあると言う。「84歳になるうちの主人が、3年前からうつ病なの」とあっけらかんに明るく話す。

 症状を訊いてみるが、もともとおとなしいご主人の口数が、最近極端に少なくなってきたという。

 「故郷を離れていた年数が長く、友達も遠くにしかいない。最近は、身体も少し弱り、出歩くことも少なくなった」と愚痴をこぼす。

 何といってもS婦人が1番心配していることは、話をしなくなったことらしい。これを根拠に「うつ病」だと決め付けている。

 しかし、S婦人と話をしていて気が付いたことがあった。S婦人は、話し好きで、話し始めたら誰も止めることが出来ない。

 相手に話をさせることなく、ひっきりなしに自分の話を長々とする。「多分、ご主人は言葉を発しないのではなく、あなたが話をする余裕を与えていないのではないでしょうか」と、冗談半分で言ってみた。

 「ああ、そうですね。そういわれれば、そうかもしれませんね」と、素直にうなずく。

 本当のうつ病ならもっと深刻なこともありそうだが、そんなことはないと言う。話好きのS婦人にかかると、周りの男はみんなうつ病と診断されそうな気がした。

 「ところで私は周りの皆さんからいつも、そう病ではないかと言われていますよ」と、私が言ったところで、しゃべり疲れたS婦人のご帰館の時間となった。
(写真は、4月29日の「阪神・太陽選手」:うつに勝つには速球を投げる)

2 コメント

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なるほど (くじらぐも)
2006-05-15 20:53:55
ご婦人のことやご主人へのロードスターさんの診断。お見事ですね。良く観察しておられます。

その観察力が、日頃のエッセイの光景が浮かぶような描写になるのですね。

皆さんが見学に訪れるお庭。私も拝見してみたいな~
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くじらぐもさん (ロードスター)
2006-05-16 07:50:26
ぜひいちどお越しください。

見ていて楽しいにはやはり人間でしょうか。

人間ウォッチング、止められません。
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