写真エッセイ&工房「木馬」

日々の身近な出来事や想いを短いエッセイにのせて、 瀬戸内の岩国から…… 
  茅野 友

24cm

2007年10月03日 | 季節・自然・植物
 日曜日の午後3時、奥さんとハートリーを乗せて錦川の上流に向かって車を走らせた。

 錦帯橋から7kmのところに守内という集落がある。そこには沈下橋がかかっていて、周辺には広い川原があることを知っている。

 国道187号を走り細い道を左に折れると幅は3m位だろうか、欄干のない沈下橋が架かっている。「ゆっくり渡って……」と妻は怖がるが私も少し怖い。

 川原には車が3台停まっていた。川の中ほどでアユ釣りをしている。そのうちの一人が引き揚げてきた。

 腰に結んだ生簀の中を見せてもらうと、大きなアユが十数匹元気よく動いている。「お昼から釣ったのですか?」と訊くと「朝7時から」という。直ぐ近くから来た70歳くらいの人のよさそうな男だった。

 7時間かけての釣果である。「2匹ほど分けてもらえませんか」と、恐る恐る頼んでみた。「ああ、いいよ、あげるよ。何か入れるものを持っていないかね」と言うではないか。

 どう考えてみても、ただでもらうわけにはいかない。車に乗せていたポリ袋を持って男のところに戻った。

 生簀の中に手を入れて大きそうなアユを2匹捕まえて袋に入れてくれた。今まで見たことのないほど大きく色の良いアユだった。気持ちばかりのお礼を差し出すと、やや小ぶりなものをもう1匹入れてくれた。

 何度も頭を下げて急いで家に帰った。ちょうど夕飯時である。妻の指示で、コンロに炭火をおこした。もらったアユの体長を測ってみると24・23・22cmもあった。

 デッキからぷんと香ばしい香りがし始めたころ、白ワインの栓を開けた。大中小3匹を、妻とどう分けて食べるかで議論となったが、1番大きなアユは妻のおなかに納まった。

 「馬には乗ってみよ、人には添うてみよ」。見知らぬ釣り人に思い切って声をかけてみた秋の午後であった。
(写真は、錦帯橋上流にある「守内沈下橋」)