写真エッセイ&工房「木馬」

日々の身近な出来事や想いを短いエッセイにのせて、 瀬戸内の岩国から…… 
  茅野 友

トレモロ

2005年07月30日 | エッセイ・本・映画・音楽・絵画
 梅雨も明け、朝から真夏日の様な日差しであった。一日中、家から一歩も出られず、気だるく過ごした。

 ようやく陽が傾き始めた頃、ハートリーに水遊びをさせようと河口に近い堰へ行った。幼い子供たちが水遊びに興じている。

 傍の堤防には、天然記念物指定の楠の木の巨樹群がある。その大きな緑陰にある古びたベンチに、やせた老人がひとり佇んでいた。

 前を通り過ぎた時、ハーモニカの懐かしく控えめなトレモロが追っかけてきた。

 子供の頃、木造の小学校の教室で聞いて以来、何十年振りに聞く震音だったろうか。

 振り返ってその老人と目を合わせると、「七十年も昔の、ぶち古いもんじゃ」と言って、ハーモニカを片手で持ってこちらに向けた。

 私が笑顔でうなずくと、老人の欠けた 歯もニカッ と自慢げに笑った。
 (写真は、懐かしく思い早速買い求めたドイツ製の「HOHNER」)