タクシー・ドライバーは、街の代表者。
旅が楽しくなったり、とんでもないことがおきる。
街の印象が良くなったり、悪くなったりする。
9) ガイドの資格を持ったタクシー・ドライバー
ローマの日曜日、
郊外へ行くことにした。
古代ローマの道、「アッピア街道」か、
泉をふんだんに使ったデステ家の別荘「ヴィラ・デステ」か。
いいローマの休日になりそうだ。
Bさんは、郊外バスの発着場へ行った。
現金3万円とトラベラーズ・チェック20万円を持って。
バス停の時刻表を見ながら、
「今の時間、都合のいいのは、アッピア街道か?
それとも、泉の別荘ヴィラ・デステか?」
を、見比べていた。
一人でバスをさがしているBさんを見て、
やさしそうなイタリア人が近づいて来た。
「日本の方ですか?」
日本語である。
「………そうです…」
Bさんは、警戒しながらイタリア人を見た。
「ローマは初めてですか?」
「……いや、何回か来ているが…」
「どこに行きますか?」
「……ローマの郊外へ行くが…」
「美しいペインティングがありますよ」
「………」
Bさんが、英語を話すことがわかると、英語に代えて、
しきりに話しかける。
「洞窟(どうくつ)に描かれたペインティングです」
「ポンペイの壁画のように、今でも残っています」
「私はガイドの資格を持ったタクシー・ドライバーです」
「洞窟には、15分くらいで着きます」
「タクシー料金は1,000円です。それに、拝観料が500円です」
「2,500円で、ローマ郊外の有名な壁画が見れますよ」
「ローマに来て、洞窟を見ないと、後悔しますよ」
「現地までご案内して、説明します」
ガイドの資格を持つというタクシー・ドライバーは、
しきりに、ローマ郊外の洞窟の壁画を勧める。
このイタリア人は、背も高くない、威圧感もない。
影のない明るさと、人なつっこいイタリアの笑みだ。
やさしそうなドライバーに、Bさんは少し安心した。
――ローマ郊外に残っている洞窟か?
ポンペイの遺跡のような壁画だという。
ローマでは、ルネッサンス芸術もバロック芸術も見た。
ルネッサンス芸術では、ラファエロの「キリストの埋葬」(1507年)が、
ローマのボルゲーゼ美術館にある。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/40/ed/48ffd4c0c683666bc72ef1705f9eab08.jpg)
世界の美術、朝日新聞社から、1979年。
バロック芸術はローマから誕生している。
バロック絵画の代表者、カラヴァッジオの「キリストの埋葬」(1604年)は、
ヴァチカン美術館にあるから、くらべることができる。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/44/24/956e6753cc281ce925651afa0cc3b4d4.jpg)
世界の美術、朝日新聞社から、1979年。
調和や美しさのルネッサンスと、写実や躍動のバロックの違いが見えた。
バロック彫刻の代表者、ベルニーニの「プロセルピナの略奪」や、
「アポロンとダフネ」、「ダビデ像」が、ボルゲーゼ美術館にある。
それに、サン・ピエトロ大聖堂の中には、ベルニーニの、
天蓋「バルダッキオ」と「聖ペテロの司教座」がある。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6c/63/c92b5320f4d63c3a13b4c3b70c3844c3.jpg)
「聖ペテロの司教座」。サン・ピエトロ大聖堂。
これで、ローマの主な観光地は、ほとんど見たし、
ルネッサンス芸術もバロック芸術も、くらべることができた。
Bさんはだんだんと、洞窟の古い壁画にひかれてきた。
――ローマに来て、後悔はしたくないな。
ローマの休日を、洞窟で壁画を見る!
――なんだか、ロマンがありそうだ。
タクシーで往復して、拝観料込みで2,500円に、
現地で説明してくれるチップを入れても、
手持ちの現金3万円で十分に間に合う。
もし、洞窟がおもしろくなかったら、ローマにもどればいい。
15分でもどるから、それから泉の別荘ヴィラ・デステへ行ける。
ドライバーは、
「ガイドの資格を持っている」
と、言っているし、
かっぱらいや強盗ではなさそうだし、
それに、人がよさそうだ。
と、Bさんの警戒は解けた。
盗難にあったとしても、現金3万円と、
トラベラーズ・チェック20万円になる。
が、トラベラーズ・チェックの上には、
漢字でサイン済みだから、
下に、スラスラと漢字でサインができない限りは、
使いものならない。
――決めた。
「その洞窟へ行ってくれ」
ドライバーは満面の笑みを浮かべて、
Bさんを駐車場へ案内した。
ドライバーは携帯電話で、どこかと交信していた。
イタリア語で短めに。
短めの交信は、
このときは、気にも留めなかった。
でも、あとで思い出すことになる。
旅が楽しくなったり、とんでもないことがおきる。
街の印象が良くなったり、悪くなったりする。
9) ガイドの資格を持ったタクシー・ドライバー
ローマの日曜日、
郊外へ行くことにした。
古代ローマの道、「アッピア街道」か、
泉をふんだんに使ったデステ家の別荘「ヴィラ・デステ」か。
いいローマの休日になりそうだ。
Bさんは、郊外バスの発着場へ行った。
現金3万円とトラベラーズ・チェック20万円を持って。
バス停の時刻表を見ながら、
「今の時間、都合のいいのは、アッピア街道か?
それとも、泉の別荘ヴィラ・デステか?」
を、見比べていた。
一人でバスをさがしているBさんを見て、
やさしそうなイタリア人が近づいて来た。
「日本の方ですか?」
日本語である。
「………そうです…」
Bさんは、警戒しながらイタリア人を見た。
「ローマは初めてですか?」
「……いや、何回か来ているが…」
「どこに行きますか?」
「……ローマの郊外へ行くが…」
「美しいペインティングがありますよ」
「………」
Bさんが、英語を話すことがわかると、英語に代えて、
しきりに話しかける。
「洞窟(どうくつ)に描かれたペインティングです」
「ポンペイの壁画のように、今でも残っています」
「私はガイドの資格を持ったタクシー・ドライバーです」
「洞窟には、15分くらいで着きます」
「タクシー料金は1,000円です。それに、拝観料が500円です」
「2,500円で、ローマ郊外の有名な壁画が見れますよ」
「ローマに来て、洞窟を見ないと、後悔しますよ」
「現地までご案内して、説明します」
ガイドの資格を持つというタクシー・ドライバーは、
しきりに、ローマ郊外の洞窟の壁画を勧める。
このイタリア人は、背も高くない、威圧感もない。
影のない明るさと、人なつっこいイタリアの笑みだ。
やさしそうなドライバーに、Bさんは少し安心した。
――ローマ郊外に残っている洞窟か?
ポンペイの遺跡のような壁画だという。
ローマでは、ルネッサンス芸術もバロック芸術も見た。
ルネッサンス芸術では、ラファエロの「キリストの埋葬」(1507年)が、
ローマのボルゲーゼ美術館にある。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/40/ed/48ffd4c0c683666bc72ef1705f9eab08.jpg)
世界の美術、朝日新聞社から、1979年。
バロック芸術はローマから誕生している。
バロック絵画の代表者、カラヴァッジオの「キリストの埋葬」(1604年)は、
ヴァチカン美術館にあるから、くらべることができる。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/44/24/956e6753cc281ce925651afa0cc3b4d4.jpg)
世界の美術、朝日新聞社から、1979年。
調和や美しさのルネッサンスと、写実や躍動のバロックの違いが見えた。
バロック彫刻の代表者、ベルニーニの「プロセルピナの略奪」や、
「アポロンとダフネ」、「ダビデ像」が、ボルゲーゼ美術館にある。
それに、サン・ピエトロ大聖堂の中には、ベルニーニの、
天蓋「バルダッキオ」と「聖ペテロの司教座」がある。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6c/63/c92b5320f4d63c3a13b4c3b70c3844c3.jpg)
「聖ペテロの司教座」。サン・ピエトロ大聖堂。
これで、ローマの主な観光地は、ほとんど見たし、
ルネッサンス芸術もバロック芸術も、くらべることができた。
Bさんはだんだんと、洞窟の古い壁画にひかれてきた。
――ローマに来て、後悔はしたくないな。
ローマの休日を、洞窟で壁画を見る!
――なんだか、ロマンがありそうだ。
タクシーで往復して、拝観料込みで2,500円に、
現地で説明してくれるチップを入れても、
手持ちの現金3万円で十分に間に合う。
もし、洞窟がおもしろくなかったら、ローマにもどればいい。
15分でもどるから、それから泉の別荘ヴィラ・デステへ行ける。
ドライバーは、
「ガイドの資格を持っている」
と、言っているし、
かっぱらいや強盗ではなさそうだし、
それに、人がよさそうだ。
と、Bさんの警戒は解けた。
盗難にあったとしても、現金3万円と、
トラベラーズ・チェック20万円になる。
が、トラベラーズ・チェックの上には、
漢字でサイン済みだから、
下に、スラスラと漢字でサインができない限りは、
使いものならない。
――決めた。
「その洞窟へ行ってくれ」
ドライバーは満面の笑みを浮かべて、
Bさんを駐車場へ案内した。
ドライバーは携帯電話で、どこかと交信していた。
イタリア語で短めに。
短めの交信は、
このときは、気にも留めなかった。
でも、あとで思い出すことになる。