タクシー・ドライバーは、街の代表者。
旅が楽しくなったり、とんでもないことがおきる。
街の印象が良くなったり、悪くなったりする。
3) 「料金メーターが、錆(さ)びついた」
イギリスのロンドンからギリシャのアテネへ飛んだ。
アテネの空港に着いて、市街のホテルまではタクシーを利用する。
アテネでは、まずはホテルにバッグを置いてから、お客さんを訪問する。
初めての街だから荷物をホテルに置いて、身軽になって、
ここを拠点にして動き回りたい。
それに、チェック・インを済ませておけば、
今夜の宿は確保できたわけだから、
客先では落ち着いて打合わせができる。
あとはホテルに帰るだけだ。
初めての街に行くときには、ガイドブックをロンドンで買って、
前もって見ることにしている。
「なぜ、ガイドブックをロンドンで買うのか? ギリシャで買わないで」
それは、現地の言葉ギリシャ語で書いてあっても、
私にはガイドブックにならないから。
ロンドンにいるときに、空港から市街までの交通手段と、
だいたいの料金を調べておくのである。
有能なイギリス人の秘書がいるにしても、
彼女は、イギリス以外は詳しくはないから、
ガイドブックで調べることになる。
秘書にお願いするのは、ホテルの予約である。
ヨーロッパの空港では市街まで、たいがいシャトル・バスであったり、
タクシーに乗るのだが、今回のアテネの場合はタクシーにした。
シャトル・バスで市街へ入っても、その後、初めてのホテルまで、
タクシーに乗り換えて行くことを考えると、
空港から直接タクシーでホテルまで直行するのが便利である。
ホテルがシャトル・バスのターミナルに、あまりにも近ければ、
タクシーは行ってくれないだろうから、
荷物を持ってオロオロとホテルを探すハメになる。
それに、ガイドブックによるタクシー料金「Xドグマ」は、
ロンドンのタクシーに比べれば、バスのように安いではないか。
アテネの空港に降り立つと、
――アテネの太陽は、何と、ま・ぶ・し・い・ん・だ!
――ロンドンには、この太陽と青空は、ないな。
――太陽のエネルギーは、ほとんどギリシャに吸い取られてしまっている。
――ロンドンには、カスしか届かない。
アクロポリス。
プロピュアライン(前門)とピナコテーケー絵画館(左)
あとで、訪問したお客さんは、
「ロンドンを訪問したが、寒くて暗くて、あの気候には気分が滅入った」
「仕事が終わったら、すぐにギリシャに舞い戻ったよ」
と、ロンドンに滞在する私の目の前で、控え目に言ったから、
「よくも、あんなところに住んでいるもんだ」
「ギリシャの太陽を知ると、住めたもんではないな」
と、相当に同情していた。
アテネに到着して、空港のタクシー乗場にならんで、タクシーに乗って、
「○○ホテルまで」
と、市街のホテルを告げた。
料金メーターは、後部座席にいる乗客にも見えるところに取りつけてある。
40歳代、眉毛が濃くて、背中が丸くて屈強そうなドライバーは、
走り始めても、料金メーターのボタンを押さない。
メーターを表示させないでいる。
そして、
「メーターが、錆(さ)びついて動かない」
と、英語でポソリと言う。
ひとり言とも、私にわからせようとも、
どちらともとれる声の大きさである。
メーターをもう一度見ると、それは電子式のメーターである。
旧式の機械式とは違うから、回転するメカニズム(機械部分)はない。
錆びつくところはないはずだが、と思っていると、
「日本から来たのですか?」
と英語で聞いてきた。
「そうです」
ロンドンに住んでいるが、ここは簡単に答えておこう。
「アテネは、初めてですか?」
「そう、初めて」
「いつ帰るんですか?」
「あしたです」
しばらくすると、
「メーターが錆びついていて、動かなくて困っている」
と、また言う。
これで、私にわからせようとしていることが、はっきりした。
さっきから会話で、私が英語を理解していることもわかっている。
しかしメーターは日本製のようだし、
表示は電子式の発光ダイオードを使っているから、
錆びつくようなメカニズムはないはずだが。
――おかしなことを言うな?
それで、
「それは、電子式のメーターですか?」
と、聞いた。
「……?」
ドライバーから返事がない。
「発光ダイオードを使っているようだが」
「…………!」
それでも、返事がない。
料金メーターを使わなければ、料金はどうやって計算するのだろう?
――ボッタクルのだろうか?
イヤな予感がする。
旅が楽しくなったり、とんでもないことがおきる。
街の印象が良くなったり、悪くなったりする。
3) 「料金メーターが、錆(さ)びついた」
イギリスのロンドンからギリシャのアテネへ飛んだ。
アテネの空港に着いて、市街のホテルまではタクシーを利用する。
アテネでは、まずはホテルにバッグを置いてから、お客さんを訪問する。
初めての街だから荷物をホテルに置いて、身軽になって、
ここを拠点にして動き回りたい。
それに、チェック・インを済ませておけば、
今夜の宿は確保できたわけだから、
客先では落ち着いて打合わせができる。
あとはホテルに帰るだけだ。
初めての街に行くときには、ガイドブックをロンドンで買って、
前もって見ることにしている。
「なぜ、ガイドブックをロンドンで買うのか? ギリシャで買わないで」
それは、現地の言葉ギリシャ語で書いてあっても、
私にはガイドブックにならないから。
ロンドンにいるときに、空港から市街までの交通手段と、
だいたいの料金を調べておくのである。
有能なイギリス人の秘書がいるにしても、
彼女は、イギリス以外は詳しくはないから、
ガイドブックで調べることになる。
秘書にお願いするのは、ホテルの予約である。
ヨーロッパの空港では市街まで、たいがいシャトル・バスであったり、
タクシーに乗るのだが、今回のアテネの場合はタクシーにした。
シャトル・バスで市街へ入っても、その後、初めてのホテルまで、
タクシーに乗り換えて行くことを考えると、
空港から直接タクシーでホテルまで直行するのが便利である。
ホテルがシャトル・バスのターミナルに、あまりにも近ければ、
タクシーは行ってくれないだろうから、
荷物を持ってオロオロとホテルを探すハメになる。
それに、ガイドブックによるタクシー料金「Xドグマ」は、
ロンドンのタクシーに比べれば、バスのように安いではないか。
アテネの空港に降り立つと、
――アテネの太陽は、何と、ま・ぶ・し・い・ん・だ!
――ロンドンには、この太陽と青空は、ないな。
――太陽のエネルギーは、ほとんどギリシャに吸い取られてしまっている。
――ロンドンには、カスしか届かない。
アクロポリス。
プロピュアライン(前門)とピナコテーケー絵画館(左)
あとで、訪問したお客さんは、
「ロンドンを訪問したが、寒くて暗くて、あの気候には気分が滅入った」
「仕事が終わったら、すぐにギリシャに舞い戻ったよ」
と、ロンドンに滞在する私の目の前で、控え目に言ったから、
「よくも、あんなところに住んでいるもんだ」
「ギリシャの太陽を知ると、住めたもんではないな」
と、相当に同情していた。
アテネに到着して、空港のタクシー乗場にならんで、タクシーに乗って、
「○○ホテルまで」
と、市街のホテルを告げた。
料金メーターは、後部座席にいる乗客にも見えるところに取りつけてある。
40歳代、眉毛が濃くて、背中が丸くて屈強そうなドライバーは、
走り始めても、料金メーターのボタンを押さない。
メーターを表示させないでいる。
そして、
「メーターが、錆(さ)びついて動かない」
と、英語でポソリと言う。
ひとり言とも、私にわからせようとも、
どちらともとれる声の大きさである。
メーターをもう一度見ると、それは電子式のメーターである。
旧式の機械式とは違うから、回転するメカニズム(機械部分)はない。
錆びつくところはないはずだが、と思っていると、
「日本から来たのですか?」
と英語で聞いてきた。
「そうです」
ロンドンに住んでいるが、ここは簡単に答えておこう。
「アテネは、初めてですか?」
「そう、初めて」
「いつ帰るんですか?」
「あしたです」
しばらくすると、
「メーターが錆びついていて、動かなくて困っている」
と、また言う。
これで、私にわからせようとしていることが、はっきりした。
さっきから会話で、私が英語を理解していることもわかっている。
しかしメーターは日本製のようだし、
表示は電子式の発光ダイオードを使っているから、
錆びつくようなメカニズムはないはずだが。
――おかしなことを言うな?
それで、
「それは、電子式のメーターですか?」
と、聞いた。
「……?」
ドライバーから返事がない。
「発光ダイオードを使っているようだが」
「…………!」
それでも、返事がない。
料金メーターを使わなければ、料金はどうやって計算するのだろう?
――ボッタクルのだろうか?
イヤな予感がする。