季節の変化

活動の状況

英語をやめたタクシー・ドライバー

2010-01-13 05:06:05 | Weblog
タクシー・ドライバーは、街の代表者。
旅が楽しくなったり、とんでもないことがおきる。
街の印象が良くなったり、悪くなったりする。

4) 英語をやめたタクシー・ドライバー
料金メーターを使わずにタクシーは走る。
――料金の計算はどうするのだろう?
料金表がべつにあるのだろうか?

アテネの市街に近づくにしたがって、
ギリシャ時代の遺跡がゴロゴロころがっている。
美術の時間にならった、エンタシスの柱が無造作に横たわっているから、
「これがギリシャだ! アテネに来たのだ」

ついに、アクアポリスの丘が見えてきた。
――あれが、あこがれのパルテノン神殿か!

――人類の最高峰の遺産だ。夢じゃないかな、ゾクゾクする!

右を見たり、左を仰ぎ見たりする“おのぼりさん状態”だから、
ドライバーは、
「乗客は日本人で、アテネは初めてだ。そして、あした帰る」
ということを確信している。

それに、さっき、
「日本から来たのですか?」
「そうです」

「アテネは、初めてですか?」
「そう、初めて」

「いつ帰るんですか?」
「あしたです」
と、会話でも、はっきりと確認している。

市街のにぎやかなところへ到着して、タクシーは止まった。
――どの建物が、目指すホテルだ?
わからないから、キョロキョロとさがしていると、
「アレが、そうだ」
と、ドライバーは小路の先にあるホテルを、あごと目で指してくれた。

30メートルほど先の、にぎやかなアーケードの中にホテルはあった。
入り口はわかりにくいが、構えはマアマアだな。
ここから先の小路には、タクシーは入れない。

「XXXドグマ」
と、ドライバーはブッキラボウに料金を告げた。
「早く金を払え」
とばかりに。

ガイドブックに書いてあるタクシー料金は「Xドグマ(2,000円)」
それより3倍高い。
「高い……高ーすぎる」

するとドライバーは、これまでしゃべっていた英語を、
ピタリッと止めた。
ギリシャ語でまくしたててきた。
両手を腹の前でグルグルと派手に回しながら、
「αβγΔΕ……」

何のこっちゃ、さっぱりわからないが、
「XXXドグマを払え、マゴマゴしないで」
という、ことだろう。あるいは、
「メーターが錆びついて使えないが、永年の経験からXXXドグマだ」
まァー、こんなところだろう。

ドライバーがギリシャ語になって、
「英語は、わかりませ~ん」
という振りをしたのは、予想外だった。

それにドライバーが「αβγΔΕ……」と、大声でわめくほどに、
周りのギリシャ人の注目が私に集まる。
ギリシャ人にさらして……私をますます困らせる。
そして、浮き上がらせて……料金を払わない日本人、
という、悪者にする。

「早く料金を払ってくれ、日本人よ」
「迷惑をかけるなよ!」
とばかりに、さらし者にする。

――気分が悪いじゃないか!
早く払えば、さらし者は終わるが。
どうしよう?

それにしてもドライバーは、暴れ回る熊のようにわめく。
タクシーの中の静けさからは豹変である。

私は、ギリシャ人の真っただ中で、まったく孤立した。
助っ人はいない。
それで、
「ちょっと待ってくれ、ホテルで料金を聞いて来る」

ドライバーの、ギリシャ語のわめきがピタリッと止んだ。
そして、英語がわかった振りをしなければならない。

なぜならば、私は荷物を持って歩き出したから、
逃げるように見えるわけで、
「まてェー! 日本人。金を払え、逃げるのか」
と、追いかけてこなければならない。

ドライバーにとっては、“奇襲作戦”だったようだ。
ドライバーはキョトンとして、私の行き先を見ている。
コメント
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