タクシー・ドライバーは、街の代表者。
旅が楽しくなったり、とんでもないことがおきる。
街の印象が良くなったり、悪くなったりする。
43) 東ドイツの教師ドライバー
東ドイツが消滅する(1990年)前年の1989年3月のこと。
ハレという街で、毎年開催される国際見本市へ行った。
「東ドイツの購買力は、今は小さい」
「いつしか、東ドイツの購買力が上がるときが来るだろう」
「そのときを予想して、今から商品の良さを知っておいてもらおう」
と、見本市への西の出展社の多くがそう考えて、
ハレの見本市にブースを構えていた。
まさか、翌年東ドイツが消滅するとは、
予測できなかったときである。
ハレの見本市には、赤いBMWが駐車していた。
ナンバー・プレートから、
西ドイツから見本市に出展する関係者の車で、
アウトバーンを駆けて、見本市の会場の脇に駐車した。
東ドイツの若者がBMWを取り囲むようにして、
外を眺めたり、中をのぞき込んでいる。
デザインや性能、塗装、内装、装備、環境対策が、
東ドイツの“トラバント”とはダンチである。
洗練されたBMWを一目見ようと、
若者が引きも切らずに集まって来てはのぞき込む。
そして、
「西は進んでいる」
「東ドイツは遅れている」
「追いつくのはむずかしい」
と、感想を抱く。
そして、いけないものを見たかのように、
すごすごと、その場を去っていく。
これは、生きた見本市だ。
西も東も、つくっているもの(車)は同じだった。
だが、差は歴然としている。
市場経済と計画経済の違いからくる差をみた。
東ドイツの国民車トラバント。ハレ。
廃車置場ではない。等間隔にならんでいるし、
ちゃんと、ナンバー・プレートがついている。
1日の見本市の見学を終えると、疲れてグッタリする。
見本市会場から郊外のホテルまでは、タクシーで帰る。
高校の教師をしながら、ドライバーをしているという、
タクシーに乗り合わせた。
疲れて座席に沈みこんでいると、
「昼間は、化学の教師をしている」
「夜は、こうしてタクシー・ドライバーになる」
と、英語で話しかけてきた。
身をおこして、ドライバーを見ると、
やせ気味で、年は40歳くらい。
インテリジェンスが感ぜられて、
“化学の教師”といわれると、そう見える。
それに、きれいな英語を話す。
「今、家を建てているので、その建築資金を稼いでいるのだ」
「木材は手に入り易いが、タイルなどの磁器、
トイレのバスタブやシンク、便器などの陶器が、
手に入らない。それに、照明器具も手に入らない」
と、生活の状況やら国の状況を話す。
「教師の給与は1万円だが、
アパートメントの家賃は200円で、
子どもの学校の授業料はタダだ」
と、生活には問題がないことを言う。
東ドイツ人と話ができるとは、ありがたい。
一市民が言うことは、飾りがない、重みがある。
しかも、教師ドライバーは積極的に、話しかけてくる。
国の状況が聞けるいいチャンスだ。
旅が楽しくなったり、とんでもないことがおきる。
街の印象が良くなったり、悪くなったりする。
43) 東ドイツの教師ドライバー
東ドイツが消滅する(1990年)前年の1989年3月のこと。
ハレという街で、毎年開催される国際見本市へ行った。
「東ドイツの購買力は、今は小さい」
「いつしか、東ドイツの購買力が上がるときが来るだろう」
「そのときを予想して、今から商品の良さを知っておいてもらおう」
と、見本市への西の出展社の多くがそう考えて、
ハレの見本市にブースを構えていた。
まさか、翌年東ドイツが消滅するとは、
予測できなかったときである。
ハレの見本市には、赤いBMWが駐車していた。
ナンバー・プレートから、
西ドイツから見本市に出展する関係者の車で、
アウトバーンを駆けて、見本市の会場の脇に駐車した。
東ドイツの若者がBMWを取り囲むようにして、
外を眺めたり、中をのぞき込んでいる。
デザインや性能、塗装、内装、装備、環境対策が、
東ドイツの“トラバント”とはダンチである。
洗練されたBMWを一目見ようと、
若者が引きも切らずに集まって来てはのぞき込む。
そして、
「西は進んでいる」
「東ドイツは遅れている」
「追いつくのはむずかしい」
と、感想を抱く。
そして、いけないものを見たかのように、
すごすごと、その場を去っていく。
これは、生きた見本市だ。
西も東も、つくっているもの(車)は同じだった。
だが、差は歴然としている。
市場経済と計画経済の違いからくる差をみた。
東ドイツの国民車トラバント。ハレ。
廃車置場ではない。等間隔にならんでいるし、
ちゃんと、ナンバー・プレートがついている。
1日の見本市の見学を終えると、疲れてグッタリする。
見本市会場から郊外のホテルまでは、タクシーで帰る。
高校の教師をしながら、ドライバーをしているという、
タクシーに乗り合わせた。
疲れて座席に沈みこんでいると、
「昼間は、化学の教師をしている」
「夜は、こうしてタクシー・ドライバーになる」
と、英語で話しかけてきた。
身をおこして、ドライバーを見ると、
やせ気味で、年は40歳くらい。
インテリジェンスが感ぜられて、
“化学の教師”といわれると、そう見える。
それに、きれいな英語を話す。
「今、家を建てているので、その建築資金を稼いでいるのだ」
「木材は手に入り易いが、タイルなどの磁器、
トイレのバスタブやシンク、便器などの陶器が、
手に入らない。それに、照明器具も手に入らない」
と、生活の状況やら国の状況を話す。
「教師の給与は1万円だが、
アパートメントの家賃は200円で、
子どもの学校の授業料はタダだ」
と、生活には問題がないことを言う。
東ドイツ人と話ができるとは、ありがたい。
一市民が言うことは、飾りがない、重みがある。
しかも、教師ドライバーは積極的に、話しかけてくる。
国の状況が聞けるいいチャンスだ。