ライプツィヒの夏(別題:怠け者の美学)

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タイトルの由来は、ライプツィヒが私の1番好きな街だからです。

交渉や仲介してくれる国のありがたさをあらためて認識する(北朝鮮に(理由はともかく)入国した米兵の北朝鮮出国・米国帰国について)

2023-09-29 00:00:00 | 北朝鮮・拉致問題

非常に興味深い記事が出ましたね。


北朝鮮、越境米兵を中国へ国外追放 米国が身柄保護・帰国へ
ロイター編集
2023年9月28日午前 4:01 GMT+915時間前更新

[ワシントン/ソウル 27日 ロイター] - 北朝鮮国営の朝鮮中央通信(KCNA)は27日、7月に南北軍事境界線を越え北朝鮮に渡ったトラビス・キング米軍兵士の国外追放を当局が決定したと伝えた。

その後、米政府関係者はロイターに対し、キング氏は北朝鮮から中国に追放され、同氏の身柄を米国が保護し帰国させると述べた。詳細は明らかになっていないが、関係者によると、キング氏は心身ともに良好で帰国できることを「非常に嬉しく思っている」という。また北朝鮮からの追放後、家族との会話もできたとした。

また、今回の件を巡り北朝鮮に対するいかなる譲歩もなかったとした。

米当局者によると、スウェーデン政府が北朝鮮でキング氏の身柄を引き受け、国境を越えて中国に連れて行き、米国に引き渡したという。この当局者はスウェーデンと中国の双方に感謝の意を表明した。

スウェーデン外務省は、キング氏の帰国にスウェーデンが支援できたことを「うれしく思う」とした。米国は北朝鮮に外交代表を持っておらず、スウェーデンが北朝鮮に対する米国の「利益保護国」となっている。

在ワシントン中国大使館も現時点でコメントしていない。

米国務省のマシュー・ミラー報道官は記者団に対し、キング氏は数時間以内に帰国すると発表。また、キング氏の帰国は北朝鮮との関係改善につながる兆しとはみなしていないとしたほか、中国はこの件を仲介したわけではなく、乗り継ぎ地点としての役割を果たしたとした。

KCNAはキング兵士についての最終調査結果を報道。同兵士は違法に北朝鮮に侵入したことを認めるとともに、米軍内での非人道的な扱いと人種差別に対して反感を抱いていたと述べたという。

当局が国内法にのっとり国外追放を決定したと報じたが、追放の時期や手続きなどは触れていない。

北朝鮮は中間調査結果として、キング兵士が同じ理由で北朝鮮などへの亡命を希望していると公表していた。

ついこの間の記事でも引用しました佐藤優氏の論説を。元のサイトはすでにリンク切れの模様。


ハバナ勤務の米国務省職員

 外交を断絶すると、「利益代表国」を指定する。外交がなくなった国と連絡を取る必要が生じた場合は、利益代表国を通じて行う。大東亜戦争中、米国における日本の利益代表国はスペインで、日本における米国の利益代表国はスイスだった。

 1980年代末、ソ連とイスラエルは外交関係を断絶していた。ソ連におけるイスラエルの利益代表国はオランダだった。オランダ大使館には、オランダ人外交官のパスポートを持ってイスラエルの外務省と秘密組織「ナティブ」(ヘブライ語で「道」の意味。ソ連・東欧からユダヤ人を秘密裏に出国させるための機関)の代表者が赴任していた。表面上、対立しているように見える国でも、裏では交渉のチャンネルを作っているという事例は多い。

 キューバに関しても、これがあてはまる。キューバにおける米国の利益代表国はスイスだ。ハバナのスイス大使館には100人以上の米政府職員(主に国務省)が勤務しているという。この話を筆者が初めて聞かされたのは、85年に外務省に入省し、情報調査局情報課で研修生をしていたときだ。先輩の課長補佐が、キューバ勤務から戻ったばかりで、「アメリカとキューバの関係は、外から見ているほど、悪くはないよ」と言って、スイス大使館の話を聞かせてくれた。外交の実態とはこういうことかと筆者は興奮した。

で、ロイターの記事にこうあります。


スウェーデン外務省は、キング氏の帰国にスウェーデンが支援できたことを「うれしく思う」とした。米国は北朝鮮に外交代表を持っておらず、スウェーデンが北朝鮮に対する米国の「利益保護国」となっている。

私が何回もご紹介しているように、2002年の小泉訪朝による日本人拉致被害者帰国に関しては、韓国の金大中大統領や林東源統一相(肩書はいずれも当時)らの北朝鮮への働きかけが功を奏したと思われます。そういったことは、「不都合な真実」「表立って認めたくないこと」「金大中大っ嫌い」とかで日本ではほとんど語られることはないようですが(たまに語られても、「ほれみろ、金大中なんて金正日と癒着しているとんでもないやつだ」みたいなスタンスで評される)、ともかくそういったことが日本人拉致被害者の帰国に寄与したのは疑いのないところです。というわけで、金大中氏をほかの面でどう評価するかはともかく、こと日本人拉致被害者帰国の件については、家族会も救う会(拙表記では「巣食う会」)も金大中氏に感謝をすべきだと思いますが、それが全然そうなっていないのはどういうことか。安倍晋三なんぞより、はるかに金大中氏の方がありがたい存在でしょうに。ところが家族会のメンバーは、安倍については神のごとくありがたがっていて金大中氏のことは語られないというのでは、まさに木が沈み、石が浮くのたぐいです。お話にもなりません。

米国のキューバへの対応から、日本の北朝鮮への対応を考えてみる

それでWikipedia「利益代表国」には、現在や過去の実例・具体例も紹介されていますので、興味のある方は乞うご確認。さらに同じくWikipediaの「日本が承認していない国一覧」の、北朝鮮に関する「交渉関係と代表機関に関して」では、

双方の在中国大使館(北京)が政府間連絡窓口であり、担当官が配置されるなど事実上の兼轄大使館状態となっている。この北京ルートが確保されるまでは政府間の直接連絡すらままならず、日本側は赤十字組織ソビエト連邦政府に個別の協力を依頼する他なかった(よど号ハイジャック事件など)。

日本側は国家承認の問題に加え、現在直接交渉のルートがあるためか、米国のように利益代表国を指定していない。この関係もあって朝鮮北半部には日本の政府代表部を担う機関が置かれていない。

日本政府は「北朝鮮拉致問題の解決後」に予定される国家承認・国交正常化を目的として、2002年には臨時の連絡事務所[6]2011年[7]には政府の臨時事務所をそれぞれ平壌直轄市に開設していたが、常設化には至っていない。朝鮮半島エネルギー開発機構現地駐在も同様。

日本側には、中華民国(台湾)のように統一された窓口機関もないため、政治交渉は北京ルート、貿易関係は民間団体の東アジア貿易研究会、航空交渉は実務当局の協議と分散している上、現地で旅券などの領事業務すらできていない。

一方、北朝鮮側は、東京に所在する在日本朝鮮人総聯合会中央本部(朝鮮総聯)を「利益代表部」と扱うよう主張しており、旅券、公用査証や親善交流の窓口機能をすでに担っている状況にある。

(後略)

とあります。今回は、注釈の番号も残しておきます。

で、現況朝鮮総連(総聯)て、日本における利益代表部としての役割となっていますかね? 昨今はだいぶ落ち着いたように思いますが、ひところは、やれ総連の建物を壊して更地にするとかやたら声高に叫ばれていませんでしたっけ。ケンカを売るとかそんなレベル以前でしょ、こんなの。

さらに日本側はというと、


日本側は国家承認の問題に加え、現在直接交渉のルートがあるためか、米国のように利益代表国を指定していない。この関係もあって朝鮮北半部には日本の政府代表部を担う機関が置かれていない。

とありますが、現状とても「直接交渉のルート」なんてものに実質があるとは思えませんね。すくなくともその「直接」のルートって、キング2等兵の米国帰国に関するスウェーデン大使館ほどの機能を持っているんですかね? 持っているのかもしれませんが、少なくとも威張れるようなものとは思えませんね。上にもあるように、


日本側には、中華民国(台湾)のように統一された窓口機関もないため、政治交渉は北京ルート、貿易関係は民間団体の東アジア貿易研究会、航空交渉は実務当局の協議と分散している上、現地で旅券などの領事業務すらできていない。

というのでは、不合理もはなはだしい。で、これも何回でも引用しますけど、横田拓也・家族会事務局長のこのような主張を、読者の皆さま方はどうお考えになるか。


拉致被害者達を帰国させず、双方の国に事件究明の為と称する連絡事務所の設置や調査委員会の立ち上げと言う「聞こえの良い隠蔽工作」には絶対反対する立場を私達は貫きます。

いやだからそれでええんでっかということでしょう。ぜんぜんよくないじゃないですか。これは2019年の発言ですが、それ以降でも、横田氏の父親である横田滋氏や家族会会長の飯塚繁雄氏が亡くなっているし、またこの人たちがやたら崇め奉っている安倍晋三も殺されちゃう始末です。つまり横田事務局長の言っていることは、けっきょくは何もしないということに等しいことです。たぶん彼は、いずれ米国が北朝鮮を破壊してくれればとか考えているのかもしれませんが、現段階そんなことになる見込みは高くなさそうです。今年で北朝鮮は、建国75年です。

北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)が、旧ソ連より長く国家として存続していることをあらためて認識する

横田拓也氏は、日本政府が、利益代表国をどこかの国に依頼することも否定されるんですかね。たぶんそうなのでしょうが、そういう態度では私は自信をもって断言すると、拉致問題なんか解決に絶対近づきませんね。近づくわけがない。このままなにもなされなければ、関係者皆年を取って死んでいくだけでしょう。まったくいつものことながら、お寒い光景です。そして岸田政権は、「家族会の意向」というのを大義名分にして連絡事務所設置や利益代表国の依頼などをしないわけです。つまりは自分たちの不作為が免責される。こんなことで双方の利害が一致しているのだから、まったく拉致被害者たちというのも救われない人たちです。呆れ返るにもほどがあります。それでいて岸田政権は、朝鮮戦争の終戦宣言問題とかでは、無責任に偉そうなことをほざきまくるのですから、こいつらの大言壮語ぶりというのは、まさに最低のクズといっていいのではないか。ひどいものです。

そもそも日本政府がそんな意見を言える立場なのか疑問だし、日本がその件でどのような努力をしているのかきわめて疑わしい(朝鮮戦争の終戦宣言)


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3 コメント

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21年前(2002年)の今日(10/15)は拉致被害者5人(地村夫妻、蓮池夫妻、曽我ひとみ氏)が帰国 (bogus-simotukare)
2023-10-15 08:09:09
 以下のコメントは拙記事https://bogus-simotukare.hatenadiary.jp/entry/2023/10/15/074452の流用ですが。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231015/k10014225631000.html
 北朝鮮に拉致された被害者のうち5人が帰国して15日で21年です。その1人の蓮池薫さんは(中略)帰国から21年となるのを前に、NHKのインタビューに応じ(中略)ました。
 政府が認定した、安否がわからない被害者のうち、親が健在なのは、横田めぐみさんの母親の早紀江さん(87)と、有本恵子さんの父親の明弘さん(95)だけとなったことに触れ、「2人も高齢化されて、体調もすぐれないと聞いている。本当にもどかしい、早く決着をつけなければならない、そういう思いがますます強くなっている」と話しました。
 そして、岸田総理大臣が日朝首脳会談を実現させるため、みずからが直轄するハイレベル協議を始めたいという考えを示していることに触れ、「今こそ、拉致問題の解決や進展のために、日本が具体的にどういうことができるかを、どんどん北朝鮮の指導者にすり込んでいく重要なタイミングだ。親御さんが存命の間に帰国させるという期限は日本にとっても大事だが、北朝鮮にとっても解決の最後のタイミングだ」と述べ、日本政府の具体的な取り組みと世論の後押しを求めました。
(引用終わり)

 今日がそういう日だと言うことに気づいてない方が多いでしょう。
 小生も実はこのNHK記事を読んで気づいたにすぎません。それまでは全く忘れていました。実際「帰国後1年」なら他にも新聞(朝日、読売、毎日、産経等)、民放(日本テレビ、TBS、フジ、テレビ朝日等)等で「多くの関連記事」があったでしょうが、今となっては以下のNHK記事ぐらいしかヒットしません。
 産経ですら今日(10/15)の社説も産経抄も「拉致被害者帰国から21年」ではない。そしてこんな蓮池発言は全く話題にならない。
 むしろ「ジャニー喜多川の性加害」「ビッグモーターの不祥事」「藤井の八冠達成」「ハマス問題」「ウクライナ戦争」「統一協会問題」等の方がよほど報じられている。
 なお「最後のタイミング」といったところで北朝鮮も「帰国させることによって利益が得られなければ」帰国させないでしょう。
 「バーター取引狙いなんて北朝鮮は汚い」というのはその通りです。
 でも「世の中」なんて残念ながらそんなもんでしょう。「バーター取引」以外に解決手段がないならそうせざるを得ないでしょう。
 なお、「最後のタイミング」という指摘が「今が親(早紀江も明弘も高齢化の上に体調が悪く何時死去してもおかしくない)が子(拉致被害者)に会える最後のタイミングではないか」という「単なる客観的事実の指摘にすぎない」なら同感ですが「親が子(拉致被害者)に会えないなら帰国しても意味がない」という価値表明ならそれには俺は反対です。
 例えば横田めぐみ氏の場合「母・早紀江」が死んでも弟は存命である。
 姉と弟が会うことには意義があるでしょう。
 いや「親が死ぬことによって全く身寄りが亡くなった場合」でも当人が帰国することそれ自体に意味があるでしょう。
返信する
子連れ去りでカタール仲介 ロシアから4人ウクライナ帰還 (bogus-simotukare)
2023-10-17 04:37:16
https://www.sankei.com/article/20231017-6NIQTYGQ2NJABBDD52VIZJKXLU/
 ロシアが侵攻するウクライナで子供が連れ去られている問題で、中東のカタールが仲介に動いていることが明らかになった。ロイター通信は16日、カタールが仲介した枠組みにより、2~17歳の計4人がウクライナに帰還すると報じた。
 ロイターによると、カタールの高官は、枠組み構築はカタールがロシア、ウクライナ両国と数カ月間の秘密交渉を行った結果だと明かした。
 ウクライナ政府はロシアにより連れ去られた子供約2万人の身元を特定。これまでに帰還した子供は約400人にとどまる。国際刑事裁判所(ICC)は子供の連れ去りに関与したとしてロシアのプーチン大統領らに逮捕状を出した。
(引用終わり)

 貴記事をもじれば「交渉や仲介してくれる国のありがたさをあらためて認識する(ロシアに拉致されたウクライナ児童の帰国について)」ですね(今回の仲介者はカタール)。
 ロシア、ウクライナ双方があれほどお互い激しい非難の応酬をしていたので意外です。カタールの仲介でウクライナとロシアの間でどんな交渉がされたのか気になるところです。何らかのバーター取引がされたのか。「拉致被害者の帰国」と言う意味では「日本人拉致問題」解決の参考になるかもしれない。
 戦争はしていても個別に交渉でこうした成果が出るのであれば大いにして欲しい。また、「停戦(または終戦)」と「ウクライナ人拉致被害者の帰国」はレベルが違う(勿論前者の方がより困難)とは言え、この一件は「ロシアとの間に外交など成り立たない」として、停戦(または終戦)交渉を否定してきた面子への反論になるかと思います(その場合の仲介国が今回同様カタールかどうかはともかく)。
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>bogus-simotukareさん (Bill McCreary)
2023-10-17 23:22:57
ほんと過去の話になっちゃいましたよねえ。これも、巣食う会の連中とつるんだ家族会の不徳のいたすところですね。


子連れ去りでカタール仲介

カタールは、アラブ系の区にということもあって、このような交渉にはむしろ宗教もなにも違う国の方が、的確に対応できるということはあるのかもしれませんね。
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