ライプツィヒの夏(別題:怠け者の美学)

映画、旅、その他について語らせていただきます。
タイトルの由来は、ライプツィヒが私の1番好きな街だからです。

『大島渚全映画秘蔵資料集成』が、昨年末についに発売された

2022-01-03 00:00:00 | 映画

今回の記事は書評ほか書籍関係のカテゴリーもありですが、映画のカテゴリーの記事を増やしたいのでそうすることとします。

以前にこのような記事を書きまして、その本をようやく昨年末に入手することができました。

高額な本だが、大島渚研究家(を自称しているの)なら、やはり購入しなければね

昨年12月23日、国書刊行会から『大島渚全映画秘蔵資料集成』が発売されました。

この本自体は、もっと早めに出るはずだったのですが、大島家に調査が入るに従い、どんどん貴重な情報が出てきて、発売日がおそくなり、またページ数もどんどん増え、さらに価格もぐっと上がりました(苦笑)。消費税10%込みで13,200円です(おいおい)。というわけで、何らかの方法で割安に買える可能性があるのなら、そのように購入することをお勧めします。私はもちろん購入しました。

そしてこの本がすごいのは大島渚監督の秘蔵ショットばかりでなく、独立後の「創造社」や「大島渚プロダクション」での契約書類といったものも見せてくれるところです。さらにこれもものすごく貴重なのは、大島監督の最大(といっていいと思います)の側近スタッフであった美術監督の戸田重昌氏(大島監督の妹である大島瑛子氏夫人の夫でもありますので、大島監督の義弟でもあります。年齢は、1927生まれなので1933年生まれの大島監督より年上)の作成した『戦場のメリークリスマス』のセットの貴重な図面なども収録されていることです。戸田氏は、映画が終わるとそういった書類も徹底的に破棄した人だということで、実のところまったく,戸田氏の仕事の軌跡は極端な話戸田氏が設計した大島渚邸だけなそうですが、その大島邸に戸田氏のたぶん唯一の破棄されなかった戸田氏の遺産が残っていたのは、考えてみれば「それしかない」という話ではありますが、まったくもって僥倖なことではあります。戸田氏と違って大島監督は記録魔で資料は捨てられない人物でした。

それで私もまだこの本の読み込みは足りないのですが、本としては1ページ目から読むというものではなく、自分の好きな映画、好きなページから読めばいいものでして、現段階で私が一番印象に残っているのが、『愛のコリーダ』に出てきた男性器の小道具の契約書です。つまり映画のラストで、藤竜也の石田吉蔵が、松田暎子阿部定に絞殺されて、男性器を阿部定が切り取ります。そして切り取られたペニスがアップで写ります。作り物のペニスを、70,000円で「雑費」として制作されました。デザイナーに50,000円、作った業者に10,000円、モデル(ペニスのです)代が10,000円だとのこと。当たり前ですが、あのペニスは藤のものではなく特定されていない誰かのものをモデルとして作成されていたわけです。

実は、このブログでも記事にした大島監督の『少年』が、主演の阿部哲夫氏がゲストで登場して上映された際、この本の著者である樋口尚文氏が、予定よりだいぶ遅くなるが、この映画館(シネマヴェーラ渋谷)で注文していただければ割安で入手できるとうまい宣伝をしたので、どっちみち買うつもりだったのと、その時はめずらしく金があったので、さっそく注文しました。

大島渚監督の『少年』で主人公の少年を演じた阿部哲夫さんのトークショーがあった(追記あり)

上の記事で引用した記事では、本は4月中に出版の予定とありますが、トークショーでは「遅れることになる」という話でした。その後音沙汰がなく「どうしたものか」と考えていましたら、9月に電話があり、国書刊行会の担当の人が、「大変申し訳ございません」と陳謝しました。「もうしばらく待っていただきたい」とのことで、しょうがないから待っていたら、12月になってから、正確には7日に連絡があり、23日に発売が決定しましたというので、映画館に取りに行くという約束だったのですが、遅れて大変申し訳ないので、送料はこちら負担でご自宅へ送らせていただきますというのです。普段の私なら丁重に遠慮するところですが、その時は「じゃあそうするか」と思い送ってもらいました。これが24日に届きました。その本の厚さと大きさに圧倒され、これは送ってもらって正解だったなと思いました。すごいボリュームです。つまりはそれだけ大島監督という人物が、映画ばかりでなくさまざまな表現活動に長きにわたって携わったわけです。たとえば『少年』は、制作時に予算が徹底的に足りなかったので、大島夫人の小山明子が時には地方企業のCMに出たりして金を作り、完成後は地方では興行されにくいATG映画であるため、公開前にこの映画のロケ地でもあった群馬県高崎市を皮切りに地方都市で興行をしたりするなどしました。それらの記録も本に収録されています。大島監督と同じ年に松竹の助監督になった山田洋次では全く経験しなかった苦労(もちろん山田には、山田の苦労があったわけですが)を大島はしたわけで、それ自体映画が大手の制作だけではやっていけなくなった、映画の監督をも営業をせざるを得なくなった、そんな時代を大島監督はまさに最先端で経験することとなったわけです。そしてテレビのコメンテイターなどとしても活躍する。「映画作れよ」という大きな声にもかかわらず彼はそういった道をも進みました。独立プロに進んだ監督はほかにもたくさんいますが、大島監督ほど映画以外の世界で活躍した映画監督は現段階空前絶後です。彼が学生運動家としても幹部、大物だったことなど彼自身の特異なパーソナリティもありましたし、そういった大島監督の全体像を理解するにも必読書ということになりそうです。高い本ですので、図書館に入れてもらってぜひご一読いただければよろしいかと思います。

長い記事になりましたが、これだけすごい映画の本は、そうそう出るものではないと思います。大島監督でなければ出はしない。興味のある方は是非どうぞ。


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