ライプツィヒの夏(別題:怠け者の美学)

映画、旅、その他について語らせていただきます。
タイトルの由来は、ライプツィヒが私の1番好きな街だからです。

なかなかいい記事を読んだ

2016-08-04 20:39:17 | 社会時評

Yahoo!で読んだ記事です。なかなかいい記事ではないかと思います。

>【救急医の立場から】<延命治療>救急医が台無しにしやがって……

読売新聞(ヨミドクター) 8月4日(木)15時0分配信

岩田 充永(いわた・みつなが)=藤田保健衛生大学救急総合内科学教授
テーマ:「延命治療」とは何か? 無意味な治療と必要な治療を分けるもの

 救急医は本能的に、苦痛を感じている患者さんを目の前にすると、「苦痛を取り除きたい」「救命したい」という本能を持っている人種です。夜中の救急外来で多忙を極める時など、冷静な判断力が低下しているときほど本能が前面に出てくるものです。

 ずいぶん前になりますが、救急外来で勤務をしている後輩救急医から午前2時に「心不全の治療で悩んでいます」と電話がありました。

 50歳代の男性が夜中に息苦しくなって救急車で搬送されたとのことです。血圧が非常に高く、血液中の酸素濃度も非常に悪い。胸部エックス線写真では肺に血液がうっ滞している肺水腫という状態で、急性心不全としては典型的な病状です。

 緊急の治療が必要な状態なのですが、呼吸状態を改善するためにNPPV(Noninvasive Positive Pressure Ventilation:非侵襲的陽圧換気というマスクによって行う人工呼吸)を行い、血管を広げる薬剤を投与すれば、多くの場合は数時間で状態は良くなる――。この治療方針は、数年の救急医療のトレーニングを積めば迷いなくできるはずです。

 救急専門医の彼が、夜中に心不全の治療で悩むとはどういうことなのだろうと、不思議に思いながらさらに話を聞くと……。

 この方は、ALS(筋萎縮性側索硬化症)という病気で、年齢は若いのですが、ベッド上での生活をされていました。病状が進行すると呼吸筋も働かなくなって、呼吸をすることも十分でなくなり、亡くなる可能性がある病気です。

 ALSという病気は尊厳死、あるいは終末期医療で必ず話題になる病気です。この方の場合、かかりつけの医師、ご家族、本人との話で、ちょうど3か月前に、「気管に管を通すなんてとんでもない。マスクによるNPPVを含めて人工呼吸器の装着は望まない。心臓が止まった時も蘇生治療は行わない」という方針が確認されている、とご家族からはっきり聞いている。ただ、正式な書面は確認できていません。

 つまり、呼吸をする筋力が低下して息苦しくなっても、「人工呼吸器をつけるということはしません」という意思表示をしている人が、心不全で息苦しいという症状で受診した症例なのです。

 現場の救急医は、「今回、息苦しくなった原因は、ALSによる呼吸をする筋力の低下ではなくて、心不全によるところの方が大きいのではないかと判断できる。この状態であれば、心不全の治療を実施することで息苦しさが改善する可能性が高い。NPPVを数時間装着すれば、8割以上の可能性で良くなり、もう一度NPPVを外すことができるのではないか」と考えました。

 しかし、NPPVの装着は望まないという意思確認が、これまでの患者さんと医療者間の協議で行われています。この方にもしNPPVを装着し、「自分の予想が外れて、NPPVを外せない状況になったらどうしよう、今後の治療はどうしたらいいのか」と後輩は悩みました。家族からも「その機械は使わないことになっていますから」とはっきり言われているので、どうすべきか意見を聞きたい――という相談でした。

 救急医としては治療を行えば80%以上の高い確率で、症状は改善しNPPVも外すことができると考えているが、患者さん本人は苦しんでいて、コミュニケーションを図るのも困難な状況です。家族には「今回の病態はNPPVを装着しても、朝までに外せると思うのですが」と説明しても、「やめてください」という返答です。

私たちはどうすべきか? 電話で数分間ですが、以下のような議論を行い頭の中を整理しました。

 行おうとする治療は医学的に妥当か?

 医学的には、急性心不全で呼吸が苦しいのであれば絶対にNPPVを装着するべきです。患者さんの意向は「つけない」ということですが、それはALSで苦しくなった場合ならつけないということであって、心不全の場合の話し合いはなされていません。

 治療によって、その後のQOL(生活の質)はどうなるか?

 治療をすることで、80%以上の可能性で救急搬送される前の状態には回復することができるでしょう。しかし、呼吸状態が改善しなければ、NPPVを外すことができず、気管に管を通す行為(気管挿管や気管切開)など、本人が望まない状態になることもあり得ます。

 では、治療をしなかったとしたらどうなるか?

 息苦しさだけをとるためには塩酸モルヒネなど呼吸苦を改善する薬剤を使用することを検討しなければならない。ただし、苦しさは改善できますが、ALSで呼吸をする筋力が弱っていたとすると薬剤によって呼吸停止、あるいは呼吸がさらに弱まり、死期が早まる可能性があります。

 1~2分の議論でしたが、私は「8割以上の確率で治療をすべきと思ったのであれば、それは、やりなさい。その後に、なにか問題が生じたら責任者の私が対応するから」と言いました。

 結局、現場の救急医はNPPVを装着しました。この方は、幸運に数時間で呼吸苦は改善し、朝にはNPPVは外すことができました。

 しかし、ご家族としては当然、納得がいきません。つけないと言っていた機械を救急外来で初めて出会った医者に装着されたのですから……。

 かかりつけ医に連絡がいき、
 「先生、NPPVを外せなかったら、どう責任をとるんですか? これまで本人やご家族と話し合ってきたことを台無しにする延命治療になってしまうのですよ」とお小言を 頂戴ちょうだい しました。

 ずっと長く関係を築かれているかかりつけ医の先生に違うお考えはあることも理解できますが、救急医の立場としては、現場の医師が8割以上、この治療をすれば苦痛がとれる、という見込みがあってやった判断は、夜中の2時としては正しかったのではないかとも感じます。もしも、この事例でNPPVを外すことが出来なかったら――。私は後輩と一緒に患者さんやご家族、かかりつけ医の先生にただ頭を下げて謝罪することしかできませんし、「これまでのことを台無しにした延命治療」の代償は謝罪で許していただけるものではないのだろうと思います。

 しかし、「お前が診ているのは、その人の人生のほんの一瞬だけで、それで、何がわかると言うのか」というお叱りがあることも覚悟して述べますが、目の前に呼吸苦の人が現れ、適切な治療を行えば、苦痛を取り去って、救命することができる可能性が高い――。このような状況では、救急医は本能的にその方向に動いてしまう習性があります。たとえ、それが望まれないことであっても、予想しない悪い結果につながったとしても。

 救急の現場では、インフォームドコンセント(十分な説明を受けたうえでの同意)のために十分な時間を割くことが困難な場合があります。説明もままならず、理解や同意が得られない状況で、家族が望まない治療を、医師が「改善する可能性が高いから」と始めてしまったら、それは延命治療でしょうか?
(岩田充永・藤田保健衛生大学救急総合内科学教授)

私の父もALSで死亡しました。非常に進行が速く、正直人工呼吸器の装着うんぬんの話をする前に呼吸不全を起こしてしまい、死亡しました。こういうことも、本人への意志の確認が実質的に困難だったので、非常に悩ましいですね。そう考えると、意思の確認の前に父が死亡したのは、遺族である立場からするとある意味責任や後悔とは無縁だったとも言えます。難しい問題です。

コメント
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