拝島正子のブログ

をとこもすなるぶろぐといふものを、をんなもしてみむとてするなり

トムとジェリーとドホナーニ

2022-01-23 12:25:58 | 音楽

昨日は、夜のシュッツの会の前に、鶴見で室内楽を聴いてきた。昨年、二俣川でサン=サーンスのカプリッチョを聴いたときと同じ団体。ピアノの金澤亜希子さんは前回と同様だが、前回は管楽器のアンサンブルだったのに対し、今回は弦楽器が入って、シューベルトの「鱒」とドホナーニの六重奏曲(ピアノ+弦+クラリネット+ホルン)が演奏された。金澤さんのピアノは、前回のサン=サーンスは重厚でブリリアントな音だったが、今回は宝石がころがるようなきらきらした音。曲によって弾きわけてらっしゃる。金澤さん以外はアマチュアだというが、これほどにレベルの高いアマチュアを聴かされたわれわれの態度は二つ。その1。よし、こちらも負けないようにがんばろうと励む。その2。やる気をなくしてやけ酒を飲む。2は、われわれしがないアマチュアに限らず音大生にも見られるパターンのようで、声楽科を出た黒柳徹子さんは、テバルディを生で聴いて、「オペラは歌うものではなく聴くもの」と思ったそうだし、音大を訪問したカール・リッダーブッシュ(バイロイトで活躍したバス)の生声を聴いた学生の半数はやる気をなくしたそうだ(残りの半分は、自分もがんばろう、と思ったそうだ)。実は、私は以前合唱団でバス・パートを歌っていたことがあるが、私にバスを歌う気をなくさせたのも誰あろうカール・リッダーブッシュである。生ではなくオペラ映画だったが(オットー・ニコライの「ウィンザーの陽気な女房たち」)。その声はメガトン級。帰り道で真似するつもりで「ガオー」と出した声はまるで卵のおやじのピーヨコちゃん(耳の中にリッダーブッシュの声が残っていたせい)。もうバスは歌うまいと思った。昨日のコンサートの話に戻る。ハンガリー人のドホナーニの六重奏曲は、曲も演奏もすばらしかった。ハンガリーに留学経験のある金澤さんがやりたかった曲だそうで、曲目紹介も金澤さんが書いていたが、ご自身の経験を基にした解説は読み応え十分。こういう解説を聞きたいんだよね。その中に、ハンガリーの音楽院で教授から「この部分はトムとジェリーのように弾きなさい」と言われたという話があった。おおっ、と思った。移行作業中の録画の中に「ららら♪クラシック」が「トムとジェリー」を特集している回があり、「トムとジェリー」の音楽はクラシック音楽の粋を集めたもので、かつ、アニメの映像とぴたっと合っていてすばらしい、という話を聞いたばかりである。そしたら、リスト音楽院の教授までもが「トムとジェリー」。トムとジェリー、おそるべし、である(因みに、ネズミのジェリーにとって捕食者であるトム(猫)は、おそろしい存在である。日本版の主題歌に「トムとジェリー、仲良く喧嘩しな」とあるが、捕食者と被捕食者の関係に「仲良く」などあり得るか、と思う。だが、一度だけだったか、トムが完全に捕まえたジェリーを食べずに逃がした回があった)。そんな案配だったから、六重奏曲の演奏を聴いている間、私の全神経はどこが「トムとジェリー」なのかを探すことに向けられていた。すると、うねるような重厚な音圧のところどころに軽妙なパッセージが入る。ここかな?と勝手に合点のいったワタクシであった。とにかく、素晴らしい演奏を、響きのいいサルビアホールで、演奏者の間近で聴けて大満足であった。その後、新宿に移動してシュッツの会。こちらはサルビアホールでの重厚なアンサンブルとはひと味違う、軽やかで透明なアンサンブル。私も歌の一員であるが、同時に、他のメンバーの素晴らしいアンサンブルを楽しんで聴いている自分もいる。その中に交じるのであれば、(先ほど「歌うまい」と書いた)バスだって喜んで歌う。でも、やっぱり、歌うときは円くなった方がいいね。次回は、机を片付けて円くなりましょう。