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「大潟村に行ってみる」と言うと、周囲は「なぜ?」と怪訝な顔をする。広大な八郎潟を干拓し、大規模な米作りが行われている、ということはみんな知っている。しかしわざわざ出掛ける場所だとは誰も思わない。その怪訝さであろう。私だって何故と訊かれて明確には答えられない。ただそうした大地があるから行って見てみたい、と言うしかない。問題は、列車とバスしか移動手段のない私に、村へ行く方法はあるか、という点だ。
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調べると最寄り駅は、奥羽本線の八郎潟駅ということだ。大潟村は居住区や行政施設が西端(日本海側)の一角にまとめられていて、あとはすべて水田だ。子供のころ、日本で2番目に大きい湖と覚えた八郎潟だから、歩いて横断するのは不可能なことは調べなくても分かる。あとは日に数本、村営の巡回バスが運行しているだけである。諦めかけた時、居住区にホテルが1軒あり、宿泊客は八郎潟駅に迎えに来てくれることを発見した。
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八郎潟町はかつての潟の東縁にある。承水路と呼ばれる潟の名残りを渡ると、そこからが大潟村になる。道はまっすぐ延びている。周囲に広がっているはずの稲田は並木に隠れてよく見えない。並木は桜で、古木といってもいい風格だ。開村から50年を経ているのだから、樹木が立派に育って不思議はない。私は大きな勘違いをしていたのだが、干拓は埋め立てではない。水を抜いて干上がらせるのだ。だから私は海抜以下にいる。
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八郎潟は最深部でも5m足らずの浅い湖だった。そこで干拓は江戸時代から幾度も提案されて来た。実現の原動力は戦後の食糧難で、昭和32年に国営事業として着工が決まる。そして20年と852億円を費やし、17229haの大地が生まれた。この大事業にどこかピンとこないものがあるとすれば、完成した時、日本は米余りの時代を迎えていたことだ。八郎潟で新田が生まれる一方で、米の生産調整に追い込まれたニッポン農政。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0d/fd/20d4d68868323abb89b6197ce510538c.jpg)
入植者は589人。半数余は秋田で、あとは全国から選抜された農家だ。住宅地を歩くとどの家も3世代同居の時代になり、増築された豪邸が並ぶ。都市近郊の住宅地にいる気分だ。こうした街並を見た司馬遼太郎氏に「見通しを誤った農政に税金が使われ、一部の農民だけが潤っている」と読める一文がある(「街道を行く」)。他者への配慮がくどいほどのこの作家が、米作りとなると筆がヘンになる。根っからの町人気質の人なのだろう。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/69/df/d12b39c9a537e3b4c1491390fdccc64d.jpg)
農家1戸あたりの耕作面積は15ha。全国の平均的農家の約10倍だ。米価は下落しても、大規模効果は大きいのだろう、大潟村民の一人当たり所得は県内で突出している。ということは人口が減少し、余って来る農地を集約化して農家の一戸あたり耕作面積を現在の10倍にできれば、そうした農家は県内で最も豊かな所得層になる、という理屈が成り立ちそうである。国内消費が減るわけだが、人口減少社会をむやみに怖れる必要はない。
干拓博物館を見学した。農家の団体が次々やって来る。小さな島が砂州で本州と繋がって男鹿半島が生まれ、八郎潟が形成されたことや、干拓直後の泥土に苦闘した入植者のジオラマに見入っている。長年米作りに携わって来たお年寄りは、私などには知る由もない視点でこの国家的事業をチェックしているのだろう。TPPはどうなるか、日本の食糧安保はどう進めるべきか、私なりに考えようとするのだが、これがとても難しい。(2015.6.28-29)
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調べると最寄り駅は、奥羽本線の八郎潟駅ということだ。大潟村は居住区や行政施設が西端(日本海側)の一角にまとめられていて、あとはすべて水田だ。子供のころ、日本で2番目に大きい湖と覚えた八郎潟だから、歩いて横断するのは不可能なことは調べなくても分かる。あとは日に数本、村営の巡回バスが運行しているだけである。諦めかけた時、居住区にホテルが1軒あり、宿泊客は八郎潟駅に迎えに来てくれることを発見した。
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八郎潟町はかつての潟の東縁にある。承水路と呼ばれる潟の名残りを渡ると、そこからが大潟村になる。道はまっすぐ延びている。周囲に広がっているはずの稲田は並木に隠れてよく見えない。並木は桜で、古木といってもいい風格だ。開村から50年を経ているのだから、樹木が立派に育って不思議はない。私は大きな勘違いをしていたのだが、干拓は埋め立てではない。水を抜いて干上がらせるのだ。だから私は海抜以下にいる。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7f/88/61eb225d6d79ec63aff174846e7530e1.jpg)
八郎潟は最深部でも5m足らずの浅い湖だった。そこで干拓は江戸時代から幾度も提案されて来た。実現の原動力は戦後の食糧難で、昭和32年に国営事業として着工が決まる。そして20年と852億円を費やし、17229haの大地が生まれた。この大事業にどこかピンとこないものがあるとすれば、完成した時、日本は米余りの時代を迎えていたことだ。八郎潟で新田が生まれる一方で、米の生産調整に追い込まれたニッポン農政。
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入植者は589人。半数余は秋田で、あとは全国から選抜された農家だ。住宅地を歩くとどの家も3世代同居の時代になり、増築された豪邸が並ぶ。都市近郊の住宅地にいる気分だ。こうした街並を見た司馬遼太郎氏に「見通しを誤った農政に税金が使われ、一部の農民だけが潤っている」と読める一文がある(「街道を行く」)。他者への配慮がくどいほどのこの作家が、米作りとなると筆がヘンになる。根っからの町人気質の人なのだろう。
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農家1戸あたりの耕作面積は15ha。全国の平均的農家の約10倍だ。米価は下落しても、大規模効果は大きいのだろう、大潟村民の一人当たり所得は県内で突出している。ということは人口が減少し、余って来る農地を集約化して農家の一戸あたり耕作面積を現在の10倍にできれば、そうした農家は県内で最も豊かな所得層になる、という理屈が成り立ちそうである。国内消費が減るわけだが、人口減少社会をむやみに怖れる必要はない。
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干拓博物館を見学した。農家の団体が次々やって来る。小さな島が砂州で本州と繋がって男鹿半島が生まれ、八郎潟が形成されたことや、干拓直後の泥土に苦闘した入植者のジオラマに見入っている。長年米作りに携わって来たお年寄りは、私などには知る由もない視点でこの国家的事業をチェックしているのだろう。TPPはどうなるか、日本の食糧安保はどう進めるべきか、私なりに考えようとするのだが、これがとても難しい。(2015.6.28-29)
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