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708 多治見①(岐阜県)陶磁器の最大産地はオリベ色

2016-07-05 15:12:35 | 岐阜・愛知・三重
多治見市役所のエントランスロビーは、大胆に土を抉って逆巻く渦を表現した、巨大な陶壁で飾られている。釉はもちろん「オリベ」である。そのことが、ここが美濃焼の本場であると語りかけてくる。多治見市と、隣接する土岐市、瑞浪市など岐阜県東南部は、国内産陶磁器の50%超を出荷している大窯業地帯なのだ。私はこのところ「美濃焼」なるものに関心を持っている。窯業についての疑問もある。そのことが私を多治見に誘った。



私が「美濃焼」に関心を持ったのは、伝統的な織部や志野に憧れるからではない。妙に「安い」からである。かつては商店街に必ずあった「瀬戸物屋さん」は、このところめっきり減って、陶磁器を買いたいとなったらおしゃれなセレクトショップなどに出かける方が手っ取り早い。そしてその店頭で、セール品として客寄せに並べられている品が美濃焼なのである。質もデザインも他産地に見劣りすることはないのに、なぜ安いのだろう?



こうした疑問を解消するには、産地に出向くしかない。美濃焼というからには岐阜であろう。調べると多治見市の郊外に「セラミックパークMINO」があって、そこに県立の現代陶芸美術館があると知った。老後の趣味に「陶芸」を得た私は、産地行脚も熱心で、唐津・有田・波佐見・薩摩・萩・瀬戸・益子・笠間、さらにはファエンツァ・マイセンへと足を延ばし、作陶意欲を刺激されている。そして遅まきながら、日本最大の産地を目指す。



現代陶芸美術館では伝統と現代をじっくり対比鑑賞し、居合わせた若手作家が我が家の近所生まれという偶然もあって遠慮なく話を聞いた。街に出て、老舗の産地問屋で業界の現状を取材し、伝統的窯元では工房を見学させてもらった。そして諸々のレポートを読み、日本の陶磁器産業の現実を知ることになった。結論を言えば、産業的には目を覆いたくなる衰退ぶりである。衰退どころか、どの産地も存続の瀬戸際にあるようなのだ。



例えば食器類は、美濃、有田、波佐見、瀬戸・常滑の4産地で国内シェアの80%以上を占めているが、その出荷額はピーク時(1991年)の4分の1にまで縮小している。生活様式の変化に伴う国内消費の低迷と、価格競争力による輸出急減のためだ。最大産地の美濃にしても、分業化による大量生産体制が行き詰まりを見せている。オリベストリートに並ぶショップで50%割引きは珍しくない。おそらく倒産品か問屋の在庫処分なのだろう。



陶磁器の流通には独特の流れがある。生産者と小売店の間に産地問屋と消費地問屋が存在する。問屋は商社機能を持ち、消費者動向やデザイン情報を仲介し、販路の開拓も行う。生産者の取り分は小売価格の25〜30%で、価格決定権は問屋(商社)の方が強い。だから大量に出荷される美濃焼は、価格を抑えてでも売り捌く傾向になる。織部や志野、黄瀬戸など、陶磁史に残る名品を産出した美濃だが、いま「美濃焼」にそのブランド力はない。



では陶磁器に未来はないのか? そんなことはない。明治以来の主要輸出品目の地位は失ったけれど、深化した技術は受け継がれ、アーティストの表現手段の一つとして磨かれ続けるだろう。その過程でより洗練された「用の美」が生まれ、新たな需要が掘り起こされる。その兆しは、この旅で触れた若手作家の作品で確認した。だから多治見の高校に陶磁専攻科があり、市が陶磁器意匠研究所を運営していることは貴重なのだ。(2016.6.21-22.)










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