◆みなみ在職時、ある日の帰路、南部バスの最後尾に座っていた。 ネオンがまばゆい中心街(朔日町から六日町あたり)を走っている時だった。 同じ最後尾の窓側の席から、深いため息にまじって「困ったぁ~」というかすかな声が聞こえてきた。 チラッとみると、初老の男性だった。 周囲から孤絶し、肩を落としてうなだれている。 瞬時に、わたしのうちにも、男性の「困ったぁ~」に共振する、自分のこれまでの「困ったぁ~」「困ったぁ~」が噴出して、身につまされる思いがした。
Aか? Bか? A=50.0000001…… B=49.9999999…… どちらも選択できない。 あるいは、選択したくない。 しかし、AとBをアウフヘーベンしたところのCは見あたらない。 かといって、Dに後退、撤退、逃走することもできない(できることなら逃走したいのだけれど)……という「困ったぁ~」だ。
この「困ったぁ~」の、人前での表出の仕方について、世の中には2種類のタイプが存在する。 ひとつは、Aか? Bか? 選択不可、アウフヘーベン不可、撤退不可……という状況を、1万円札の透かしのように表出するタイプ。
表出できるタイプといったほうがいいかもしれない。 もうひとつは、A=100、B=0に変換して、平気を装うタイプ。
明け方の夢に、ウンウン、うなされるのは、後者のタイプだろう。
◆現在、わたしが管理しているサイトは3つある。 (1)この公式HP「600字の教育学」 (2)gooブログ「600字の教育学」 (3)Eduブログ「600字の教育学」 3つとも、1日の訪問者は20~30という、閉鎖寸前の、さびしいサイトだ。
ところが、ここ3、4日、(3)Eduブログ「600字の教育学」のアクセス数が跳ね上がっている。 通常の3、4倍の数だ。 Eduブログは、何という検索語で、どの記事にアプローチしたか?(だけ)がわかる。 調べてみると、アクセスのほとんどは、検索語「2学期終業式式辞」(多少、ことばのズレはあるが)。 そして、記事は「2学期終業式・式辞 ラスクの価値論(2007年12月)」だった。
あまりの不人気に閉鎖も考えていたときだったので、スゴク、うれしい(*^_^*)(*^_^*)(*^_^*)。 よって、ここに再掲載するぅ~ぅ~^^;^^;^^;。
◆以前、全校朝会で、ある文化祭バザー(1997・鮫中)の担当者から「この売れ残った本は廃品回収業者に引き取ってもらいますから、もし、好きな本があったら持っていってください」と言われて、わたしがその中から、とんでもない、スゴイ本を見つけたという話をしました。(昭和39年発行・高村光太郎詩集……今は日本中の古書店を回っても、まず手に入らない詩集。光太郎記念館にもない詩集。)
これがその本です。(と言いたかったが、この光太郎詩集を自分の古書店から持ち出すことに抵抗があり、当日は図書室から三島由紀夫『豊饒の海』の「春の雪」「奔馬」「暁の寺」「天人五衰」の「天人五衰」〈新潮社、昭46、初版、函帯〉←これだって十分スゴイ!)を借りて、光太郎詩集に見立てる。)
これは、バザーの担当者からすると、ほとんどゴミ。 ところが、わたしからすると、宝物。 金額でいうと、バザー担当者は、ま、0.1円……もないかもしれない。。 わたしは10万円。 同じものなのに100万倍の違いがあります。 全校朝会では、この話をして、「これが世の中なんですよ……」とだけ言いました。 「あとはみなさんで考えてみてほしい……」ということだったんですが、わたしはそのとき、口では言わなかったけれども、実は3つのメッセージをこめていました。 きょうはその3つのメッセージを伝えます。
◆1つ目。 この本があなただと考えください。 バザー担当者から「価値がない。役に立たない。ゴミだ」と言われたんでしょう。 でも、あなたがそう言われたくらいで、メゲないでほしい。 それぐらいでガックリしないでほしい。 ああ、わたしはもうダメなんだぁ~と絶望しないでほしい。 必ず、あなたの価値をわかってくれる人が世の中にはいる、絶対いる……絶対にいるということを信じて生きていってほしいというメッセージです。
◆2つ目のメッセージ。 わたしは10万円だ、バザー担当者は0.1円だといっているんですが、あなたはどっちに売りますか?……と言われれば、もちろん10万円のほうに売りますね。 でも、ひとりぼっちのとき、だれからも声がかからない……そういうときだとどうでしょうか? こういうとき「ああ、自分はゴミだ。ゴミでいいですよ」と、絶対に自分を安く売らないでほしい。 たとえば、だれかがあなたに「おい、いっしょに万引きしよう」と声をかけてきた。 これって、相当、あなたを安くみているんです。 やってはいけないことをいっしょにやろうと声をかけてくる、誘ってくる。 「この人は自分の宝物だ」「自分の命より大切だぁ」と思っている人にそんなことを言いません。 そういう声にのって自分を安売りしないでほしい……というメッセージです。
◆3つ目。 では、自分の価値はまわりの人で決まるのか?ということです。 たしかにそういう面もありますが、もちろんそれがすべてではありません。 やはり自分の価値は自分で高めようとしなければいけません。 この本だって、もともと価値があります。 高村光太郎が自分を高めようと努力した、その結晶です。 では、自分を高めるための努力ってどういうことなのか? これが、4月以来、言いつづけている「なりたい自分をデザインして、そのなりたい自分になろう」ということです。 多少の困難はあっても、ピンチがあっても、絶望せず、負けないで「なりたい自分をめざして」がんばれ!というメッセージです。
以上、あの文化祭バザーの話に込めた3つのメッセージです。 1つ、「ゴミだ、価値がない」と言われたくらいでメゲるんではない。 2つ、自分を安く売るな! プライドを持て! 3つ、絶望せず、なりたい自分をめざして最後までめざそう!
4つ目、5つ目は、このあとの学活で担任の先生から話があると思います。 担任の先生は、「4つ目だよ」「5つ目だよ」とは言わないかもしれません。 みなさんが担任の先生の話を聞きながら、「ああ、これが4つ目なんだ……5つ目なんだ……」と、みなさん自身で見つけ出してほしいと思います。
◆この2学期がスタートするとき、プールのそばで、青い空を背景にひまわりの花が最後の力をふりしぼるように咲いていたのが目に焼きついています。 あの日から、体育祭。 新人戦。 文化祭。 2学年は修学旅行もありました。 3年合唱の音楽祭出場もありました。 そして、もちろん毎日の学習・生徒会活動……と、もう信じられないくらいにいろいろなことがあって、もう信じられないくらいの速さで過ぎていった2学期でした。 みなさんひとりひとりにとって、また先生方ひとりひとりにとって、「なりたい自分になること」を目指して努力した、充実した2学期だったと思います。
◆ただし、「なりたい自分」にまだなっていないという人も多いでしょう。 これは当然です。 わたしもそうです。 今年はまだ10日ありますから、「なりたい自分」を目指してぎりぎりまでがんばりましょう。 そのうえで12/31大晦日に、「なりたい自分」をめざして努力してきたことをふりかえり、この努力は来年もつづけよう、ここは足りなかったから改めようと新年にむけて決意してほしいと思います。
◆3年生には3年の冬休みの「意味」「重み」についてしっかりと理解して冬休みに入ってほしい。 わたしが学級担任だったときの、ある女子の生徒のことです。 ◎高を受験したい。 ところが、内申点はギリギリ。 実力点ははっきり足りない。 かりに○高に変えてもむずかしさは同じ。 ☆高だと、ま、なんとかOK。 ところが、12月の3者面談の日に「◎高を受験したい」と彼女は言いました。 強い意志があって「わたしは小学校のときから◎高に行きたいと、ずっと考えてきました」と言います。 決意の強さに、わたしも折れて「では、◎高受験をめざして冬休みがんばろう」ということにしました。 ただし、いろいろと、かなり厳しい条件をつけました。 結論として、彼女は◎高に合格しました。 冬休みに逆転しました。 これが受験生にとっての冬休みの重み・意味です。 逆もあります。 冬休みでペースを崩す。 3年生は受験勉強の孤独のさびしさに負けず、誘惑にも負けず、奮闘努力することを期待しています。
◆最後に、12/31大晦日、みなみ中生ひとりひとりが、過ぎ去った1年に感謝し、気持ちを新たにして新年、平成20年・2008年を迎えることを強く願い、あわせて冬休み期間、道路を渡るときは右をみて、左をみて、もう一度右をみて安全に気を配り(これ、信号があって青信号でも……ですよ)、かつ、1日1回親を喜ばせるみなみ中生であることを強く願い、式辞とします。
平成19年12月21日 校長 小高 進
◆わたしの式辞は、前日の夜とか、当日の朝、バタバタと書くので、いつも荒っぽいが、これは、特に荒い、いや、「粗い」というべきか。
わたしはよくあいさつのとき「今の自分の感情に即していえば……」という修飾句(接続句)をつけることがある。 今回の終業式・式辞こそ、この修飾句をつけるべきだろうと思う。
この式辞を書きながら、あるいは語りながら、学生時代に苦しめられたエミール・ラスクの価値論を思い出した。 「存在に対する妥当の優位」……向妥当するものと向妥当されるもの、照らすものと照らされるものとの合致統一……(^0^*)。
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◆画像は、2007/12 終業式頃のみなみ。
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