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万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

矛盾に満ちたテスラの中国製モデル

2020年10月20日 12時30分04秒 | 国際政治

 日本企業は、しばしば、SDGsへの取り組みが遅れているとして批判を受けることがあります。SDGsは「ESG投資」として金融機関の投資先の基準としても採用されているため、特に環境問題に敏感なヨーロッパ諸国では、各企業とも、積極的にこれらへの対応に努めているとも伝わります。こうした中で報じられたのが、電気自動車の開発で知られるテスラが中国製の「モデル3」をヨーロッパ市場に投入するという情報です。

 

 電気自動車は、ガソリンを動力源として使用しませんので二酸化炭素を排出せず、地球温暖化二酸化炭素犯人説に立脚した環境の観点からしますと、SDGsに合致しているようにも見えます。SDGsを推進している国連を含む国際組織からしますと、電気自動車の世界大での普及は望ましく、電気自動車こそ‘未来ヴィジョン’の実現に不可欠な要素として見なしているのでしょう。もっとも、自動運転のテクノロジーが確立されれば、全ての自動車を電子ネットワークの下で統制することができますので、‘歓迎’とばかりはいかないようにも思えます。ネットに接続されていない現行のガソリン車やハイブリッド車では、人々が自らの行きたいところに自由に移動できますので、環境問題に不熱心な中国が、電気自動車や自動運転テクノロジーの開発を急ぐのも、エンジン技術における劣位よりも国民監視体制の強化が本音なのかもしれません。香港における民主化運動の弾圧に際しても、大学に立てこもった学生が自動車で逃げることができなかったのも、自動車が‘ロック?’されており、移動手段を失ってしまったからとする怖いお話もあるそうです。

 

 こうした中国と電気自動車、否、‘未来ヴィジョン’との密接な関係を理解する上でのキーパーソンとなるのは、テスラの共同設立者であるイーロン・マスク氏であるのかもしれません。同氏は、中国との繋がりが深く、本気の発言なのかは疑わしいものの「テスラの本社は将来中国に置かれ、将来のCEOも中国人になる」とも語ったとされます。また、清華大学の経済管理学院顧問委員をも務めており、中国への異常なまでの傾斜が見られるのです。

 

 そして、上記の‘冗談’は実のところマスク氏の実像を言い当てており、同氏は、今日、なかば‘中国人’と化しているようにも見えます。同氏は、2017年にトランプ政権の大統領戦略政策フォーラムのメンバーを務めたものの、同大統領によるパリ協定離脱に反発して同職を辞しています。その一方で、2018年には、一人の人物が米中両国の二枚の‘マスク(仮面)’を取り換えて演じたかのように、米中交渉に臨む米トランプ政権に対しては、中国政府に自動車関税の引き下げと外資の単独出資を要求させる一方で、中国に対しては、これを認めさせることに成功しています。この両国の合意の結果、海外初の工場として建設されたのが、今般の中国製テスラを製造した上海の「ドレッドノート」なのです(‘ドレッドノート’とは、イギリス海軍の艦船の名称であるところも示唆的…)。

 

 同氏が地球環境の行方を心から懸念しているのであるならば、パリ協定を離脱したアメリカよりもさらに環境問題に不熱心な中国に肩入れするのは矛盾した態度と言わざるを得ません。また、SDGsや「ESG投資」の基準からしますと、テスラ社は投資対象としては低評価となるはずなのですが、同社には、相当の資金調達力があるようなのです。僅か3年足らずで上海の更地から大規模な製造工場を建設し、輸出体制を整えたのですから。テスラの筆頭株主はマスク氏自身であって20.8%を保有していますが、株主リストを分析すれば、中国を含む全体像が見えてくるかもしれません。そしてそれは、今日、米中対立の最中にあって、人類を混乱させる要因、即ち、中国とその背後に潜む国際組織との協力関係を解き明かすきっかけともなるのではないかと思うのです。


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