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万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

北朝鮮との交渉は徒労では?-期限を設ける意味

2019年12月29日 17時32分37秒 | 国際政治
 アメリカに対して交渉の期限を年内と決めて決断を迫ってきた北朝鮮。この期限も残すところ後僅かとなり、アメリカの反応を見る限り、期限切れとなるのはほぼ確実なように思えます。こうした中、同国では、28日から首都平壌において、金正恩委員長主催の下で朝鮮労働党中央委員会総会が開かれているそうです。国際社会の関心は、同総会において金委員長が表明すると予測される新たな対米方針に集まっていますが、北朝鮮の一連の行動をからしますと、交渉による解決には最初から無理があったように思えるのです。

 外交交渉による解決とは、双方がお互いに妥協しながら受け入れ可能な解決策を見いだせる場合にのみ有効な手段です。ところが、今般問題とされている核・ミサイル問題は、外交交渉による解決には適さない事案のように思えます。何故ならば、現状にあっては国際社会においてNPT体制が成立しており、核保有国であれ、非保有国であれ、核兵器の不拡散が行動規範となっているからです。このことは、現行のNPT体制を維持したいのであるならば、国際社会の選択肢は、北朝鮮による完全なる核廃棄の一択であったことを意味しています。同問題は、米朝二国間のみに限定されているのではなく、国際社会における安全保障体制全体に関わりますので、北朝鮮に対して核保有を許すという選択肢はなかったのです。

 その一方で、仮に金正恩委員長が先代の遺訓を継承しているならば、北朝鮮には、核放棄という選択肢はあり得ないはずです。しかも、核保有やICBMの開発が、同国がアメリカと対等の立場で交渉できる唯一のカードであるとしますと、このカードを手放すとは考えられません。北朝鮮にとりましての対米交渉とは、できる限り有利な条件の下で核を保有する、あるいは、核のみならずICBM等の運搬手段を開発するまでの時間稼ぎに過ぎないのでしょう。

 かくして、問題の性質上双方の主張がかみ合うはずもなく、また、当初から双方ともに妥協の余地はなかったはずです。仮に、アメリカ、あるいは、国際社会が、如何なる形であれ北朝鮮の核保有を認めるとすれば、それは、NPT体制の放棄と引き換えとなるのであり、北朝鮮が核を放棄するのか(核の軍事的な強制排除であれ…)、国際社会がNPT体制を放棄するのか、どちらか一方しか選べないのです。

 もっとも、金委員長が先代の遺訓を継承せずに独自路線に転じるとすれば、核放棄と同時に朝鮮戦争を終結させてアメリカに核の傘を提供してもらう、もしくは、朝鮮戦争の延長線上において中国との同盟関係を維持し、同国の核の傘に入るという選択肢もあったはずです。この決断ができれば、一先ずは、NPT体制は維持されることとなりましょう。しかしながら、今般、北朝鮮は、年内における交渉妥結を一方的に要求しています。交渉期限を設けて決断を迫る行為は相手国に選択肢を与えているようにも見えますが、これは、事実上の交渉打ち切り、いわば、戦争に至るプロセスの一つである‘最後通牒’の通告に近い行為として理解されます。相手国に対して、自国の要求を呑みのかどうか、‘イエス’か‘ノー’かのどちらかの回答を迫っているのですから。

 ‘最後通牒’とは、一般的には大国が中小国に対して突き付けるものですので、北朝鮮が超大国のアメリカに対してこうした強圧的な態度をとるのは奇異なことではあります(中国やロシア、あるいは、国際組織がバックに控えている可能性も…)。しかしながら、軍事大国を相手にかくも自信に満ちた態度で臨んでいるとしますと、同国は、既に核を保有し、かつ、ICBMも実戦配備の段階に達しており、対米核攻撃が可能な状況にあるのかもしれません。となりますと、今後注目されますのは、北朝鮮の対米政策よりも、トランプ大統領の対北政策なるのではないでしょうか。交渉による解決が徒労に終わろうとしている今、残された選択肢は、軍事力による強制排除か、あるいは、NPT体制の終焉かの二者択一となるのですから。

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