万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

日本国は‘元徴用工問題’で韓国に譲歩したのか?

2019年12月25日 16時31分58秒 | 日本政治
日本国の安倍晋三首相と韓国の文在寅大統領は、昨日、中国の成都で1年3か月ぶりに首脳会談の形で顔を合わせることとなりました。直前の世論調査では、日本国民の対韓感情は過去最低を記録しており、両国間の関係悪化は政治や経済に留まらず、民間レベルにも及びつつあります。両首脳としても、今般の会談を機に関係改善の糸口を掴みたかったのかもしれません。

 もっとも、同首脳会談を以って日韓関係が好転するとする予測には乏しく、会談後のマスメディアの論調も、会談が双方譲らずに平行線に終わった結果をあたかも織り込み済みかのように淡々と報じています。しかしながら、同会談の内容を伝える文面の行間を丁寧に読みますと、日本国側が韓国側に対して譲歩した疑いがないわけではないのです。

 確かに、‘元徴用工問題’、GSOMIAの延長問題、日本製素材の輸出管理規制問題、さらには北朝鮮問題など、両国間に横たわる難題のどれ一つをとりましても、解決に向けた具体的な合意がなされたわけではなく、双方が従来の立場を主張するに留まっています。全く以って接点さえも見出せそうにもなく、マスメディアが多用している‘平行線’という表現に嘘偽りはないように思えます。ところが、両首脳の間では、一つだけ、一致点があったと言うのです。それは、問題の解決方法です。

 韓国大統領府の関係者は、同会談について「互いの肉声を通じて相手方の立場の説明を聞く席だった。対話での問題解決に両首脳が合意をしたことに大きな意味がある」と説明したと伝わります。日本国のマスメディアも同様の論調であり、主張については平行線をたどったものの、今後については、話し合い解決で合意した点については強調しています。それが、同会談の唯一の成果のように…。

思い出してもみますと、つい最近まで、日本国政府は、韓国に対して国際司法裁判所への単独提訴といった国際司法解決をも視野に入れながら、‘元徴用工問題’については、日韓請求権協定において明記されている調停による解決を求めていたはずです。仮に、日本国政府が、今般の会談において同案を取り下げ、話し合い路線に転じたとしますと、これは、明らかに韓国に対する決定的な譲歩となりましょう(仮に、安倍首相が、国際法や日本国民の民意を無視して‘対話での問題解決’を決めたとなりますと、法の支配や民主主義の危機…)。韓国側が最も恐れていた事態とは、同問題が国際司法解決に持ち込まれることであったのですから(韓国側に勝ち目がない…)。

もちろん、対話路線に関する両首脳の合意については、韓国側がとりわけ強くアピールしていますので、実際には、どの程度の合意であったのかは正確には分かりません。しばしば、何れのレベルの協議であれ、日韓両国間での会談内容については、発言の内容や解釈についてしばしば食い違いが生じるからです。今般の話し合い解決に関する一件も、韓国側の主観的な解釈であることを祈りたいところなのですが、あるいは、韓国が譲歩したGSOMIAのケースとバランスさせるために、アメリカ等から日本国側に圧力がかかったのかもしれません(もっとも、アメリカとしては、事実上の仲介者として日韓請求権協定に関しては責任があるので、同協定が定めた原則を曲げることには反対なはず…)。

何れにしましても、日本国政府は国際司法解決のカードを手放すべきではなく、このカードを失えば、対韓交渉の立場は一気に弱体化します。また、話し合い路線は、双方とも一ミリたりとも情報誌得ない平行線の状態に既に陥っているのですから、これ以上の進展も望み薄です。問題解決の順序としては、先ずは、中立・公平な機関を介した司法解決が可能な元徴用工問題を司法解決の手続きに付すべきなのではないでしょうか。

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