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万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

皇統は正統性の問題-皇位継承争いを避けるには

2019年05月30日 14時56分02秒 | 日本政治
最近の週刊誌等の報道をみますと、皇室関連の批判記事が秋篠宮家に集中しているように見受けられます。もちろん、国民に対する正確な情報提供はマスメディアの使命ですので、報道自体には問題はないのでしょうが、仮に、皇位継承問題が背景に潜んでいるとしますと、一連のマスメディアの動きも‘皇位継承争い’の一環なのかもしれません。世論を味方に付けるという…。実のところ、皇位の継承順位を変更する皇室典範の改正問題は、立法という現代的な手段を用いるものでありながらも、紛れもない‘皇位継承争い’なのですから。

 古今東西において散見される皇位や王位の継承権争いの常からしますと、ライバル候補者の陣営側が仕掛けたとも推測されるのですが、今般、新天皇の即位により、女性・女性天皇や女性宮家の問題が浮上してきている点も気に掛かるところです。どれ程世論を正確に反映しているのかは怪しいものの、最近の世論調査を見ますと女性・女系天皇を容認する容認派は過半数を越えているようです。もっとも、国民の多くが女性天皇と女系天皇の区別さえ付けていない状態でのアンケートですので、皇室に関する知識や情報が拡がれば、この数字は大きく変化するかもしれません。何れにしましても、女性の継承権問題は、今日、皇室の制度改革において最も注目を集めている、否、マスメディアが集めたい課題なのです。

 ところで、世襲にあっては、ポスト就任の正統性を支えるのは、唯一、その血統にあります。日本国の天皇位は世襲制を採っており、かつ、初代天皇である神武天皇の即位以来、男系を正統とする継承法を維持してきました。仮に、女系天皇、すなわち、皇統を引く女性を母としても、父親が皇統を有さない天皇が即位するとなりますと、伝統的な日本国の皇位継承法に照らせば正統性のない天皇が日本史上はじめて登場することとなるのです。乃ち、国家開闢以来、辛酉改元という制度まで設けて慎重に避けてきた革命(王朝交替)が起きるのですが、ここに、世論は大きく分裂することとなりましょう。あくまでも古来の皇位継承法を尊重し、内心において女系天皇にその正統性を認めない人々と、皇位継承法の変更を認め、女系天皇にも正統性を承認する人々です。あるいは、醜い皇位継承争いにうんざりし、これらのどちらの立場にも与しない無関心派も出現するかもしれません。

 そもそも、正統性とは、人々の心の問題です。言い換えますと、たとえ法律によって、女性天皇に合法性を付与されたとしても、内心においてその正統性を認めない国民が多数存在していれば、それだけ、天皇の地位は不安定化することを意味します。この側面は、皇族の婚姻についても言えることであり、皇室と姻戚関係を結んだ正田家、小和田家、及び、川島家につきましても、その血筋が天皇家の半分を構成するのですから、たとえ国民との距離が縮まり、親近感が増したとしても、天皇位の正統性を薄める方向に働いたのは否定し難い事実です。代を重ねる毎におよそ半減して行く皇統に加えて(かつては母系の血筋は関係ないとされたが、今日の遺伝学は、子は両親のDNAを継承することが判明している…)、況してや男系継承の原則をも放棄するとなれば、たとえ法律を以ってその皇位を保証し、新継承法を認める国民があったとしても、伝統的な世襲制度としての皇位の正統性は限りなくゼロに近づくことでしょう。つまり、世襲制の維持と皇統の維持が両立しないという深刻なジレンマに陥るのであり、このことは、天皇の正統性の危機とも言えましょう。この点を考慮すれば、女系天皇を認める案は、旧皇族復帰論よりも遥かに分裂リスクが高いと言えます。

 それでは、解き難いジレンマを伴う問題に対して、国民の多くが納得するような解決策は存在するのでしょうか。皇族に婚姻の自由を認めている以上、将来にわたって皇統は希薄化することが予測されますので、天皇については、憲法の第一条から第八条までを占める程に、国制上にあって重要な地位を維持すべきかどうか、という問題が生じることとなりましょう。特に、明治期に西欧から導入した立憲君主制の名残とも言える形式的な国事行為については、日本国の伝統ではありませんので、政治から完全に切り離す上でも見直しを要するかもしれません。その一方で、天皇位の維持には、国家祭祀や宮中文化等の日本国の歴史や伝統を後世に伝える意義があるとするならば、これらの継承を担う公職とし、その就任要件については、皇籍の有無に関係なく(明治期に造られた皇籍制度は廃止しても構わないのでは…)男系の皇統を引く日本国民の中から選任するのも一案のように思えます(資格要件や選任手続き等の詳細については、法律で定める…)。

この案ですと、政治の領域にあって民主主義と抵触することもありませんし、皇位継承の正統性の問題が世論を二分する事態を招くことも回避できます。また、内外勢力による天皇の政治利用や皇族利権がなくなれば、国民も、見たくもない名誉欲、権力欲、支配欲が渦巻く皇位継承争いを見なくても済むのではないでしょうか。

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コメント (8)
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