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万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

丸山議員戦争発言問題を考える

2019年05月18日 14時03分55秒 | 日本政治
自民、丸山議員への辞職勧告で対応苦慮
日本維新の会の片山虎之助共同代表と馬場伸幸幹事長の両氏は、除名処分とした丸山穂高衆議院議員の戦争発言について、ロシアのガルージン駐日ロシア大使に陳謝したと報じられております。近く、松井一郎代表も北海道を訪問して元島民に直接謝罪する方針を示しており、同党は謝罪行脚の様相を呈しております。加えて、野党6党は丸山議員の辞職を求める決議案を衆議院に提出していますが、この一件、しばし考えてみる必要があるように思えます。

 「戦争でこの島を取り返すのは賛成ですか、反対ですか」という同議員の発言を聴きますと、‘北方領土をロシアから取り戻すための唯一の方法は戦争しかない’と考えている節があります。しかしながら、望みは薄いとはいえ、日ロ交渉を通して北方領土の全島が返還される可能性はゼロではありませんし、司法解決という手段も残されています。元島民の方に対して戦争一択への同意を求めるような発言には、確かに首を傾げざるを得ません。

その一方で、同発言は、議員辞職に価するほどの許されまじき発言なのか、と申しますと、同議員が主張するように言論の自由に関わるだけに慎重な扱いが必要です。辞職を要求する側の言い分としては、新党大地の鈴木宗男代表の弁を借りれば、「政治家の究極の目的は世界平和。戦争による解決を持ち出す発想はあり得ない。」ということなのでしょう。日本国憲法の第9条には、‘国際紛争を解決する手段’としての戦争を放棄していますので、特に強い反発を招いたのかもしれません。しかしながら、国際社会は不変ではなく、自国を取り巻く状況が暗転すれば、日本国もまた、その変化への対応を迫られる可能性はあります。例えば、国際法秩序が崩壊し、国家間の合意を意味する条約や協定も紙屑となるような時代ともなれば、武力のみが解決手段であった時代に逆戻りすることでしょう。国際社会が無法地帯となった場合には、日本国もまた、最後の命綱が防衛力となるケースも想定され得るのです。

将来的な国際情勢の変化を考慮すれば、たとえ現行の憲法には反するものであっても、危機管理の一環としての政策提言や仮想の事態を想定した議論に対して、一切、言論を封じてしまうことには疑問を感じます(そもそも、憲法改正を主張することさえ違憲行為となってしまう…)。ましてや、北方領土がまさしく戦争、即ち、ソ連邦の侵略によって奪われた日本国の領土であった点に思い至りますと、武力による自国領土の回復は、倫理に照らして絶対に間違っているとは言い切れない側面があります。北方領土は自国領ですので、他国の領土を武力で奪う利己的他害性を有する侵略行為ではなく、正当防衛の論理が成り立ち得るからです。拒絶反応的に言論の自由に制約を課しますと、結果として、重大なリスクを招くこともあるのです。

もちろん、丸山議員は、唐突に問題となった質問をぶつけるよりも、戦争に至るまでの国際情勢の変化や憲法問題への対応、さらには、実際に戦争に及んだ際に問題となる日ロ間の戦力差などについても詳しく語るべきでした(一つ間違えると日本国は核保有国であるロシアによって焦土にされてしまう…)。政策議論として語れば、かくも激しい反発を招くこともなかったかもしれません。なお、私見を述べれば、日本国の政治家としては、国際法秩序の維持・発展に全力を尽くすと共に、対ロ政策としては、両国間の領土交渉が決裂したとしても、最終的には司法解決に持ち込める道筋を付ける方が得策となのではないでしょうか。

 以上に丸山議員の戦争発言について考えてみましたが、少なくとも、この件でロシアに対して謝る必要がないことだけは確かなことです。カルージン大使は、「戦争という言葉や、ロシアの混乱を望むようなことは、非常に不快だ」と述べたそうですが、ロシアこそ、北方領土を含め、国際法を無視して戦争で周辺諸国の領土を奪い続けてきた国家なのですから。否、丸山議員の発言は、むしろ、北方領土をロシアの戦利品と見なすプーチン大統領の主張に沿っているとも言えるかもしれなせん(プーチン大統領は、秘かにほくそ笑んでいるかもしれない…)。何れにいたしましても、戦争という言葉に対して条件反射的に批判したり、議員辞職を要求するよりも、これを機に、戦争という手段に訴えざるを得なくなるケースや現実的な手段としての是非を議論すべきなのではないでしょうか。議員辞職の問題も、北方領土を取り戻す政策手段については、同議員も参加するオープンな議論に付した上で、有権者の判断に任せるべきではないかと思うのです。

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コメント (2)
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