万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

正気の沙汰ではないRCEP-中国は危険過ぎる国

2018年09月03日 15時11分39秒 | 国際政治
RCEP、11月首脳会議で大枠合意の可能性=シンガポール貿易相
中国や韓国が加盟しないTPP11でさえ、NAFTAを観察すれば一目瞭然であるように、域外国が賃金コストの低い加盟国に製造拠点を移し、日本市場を狙って輸出攻勢をかけるリスク等があり、必ずしも日本経済にとりましてプラスとなるとは限りません。両国がこぞって加わるRCEPに至れば言わずもがななのですが、アメリカの保護主義に対する対抗意識からか、年内での大筋合意を予測する発言も聞かれます。

 今月1日には、とりわけ歴史的に中国との関係が深い国であるシンガポールのチャン・チュンシン貿易産業相も、RCEPの大筋合意への期待を表明しておりますが、中国の現状からしますと、この試みは正気の沙汰とは思えません。

 その理由は、第一に、中国は、未だに共産党一党独裁体制を敷き、今では習近平国家主席が頂点に君臨する個人独裁国家であるからです。戦後の冷戦構造は、米ソのイデオロギー対立の様相を呈し、暴力革命を‘輸出’し、全世界に自国中心の全体主義体制を広げる野望に憑りつかれたソ連邦は、強大な軍事力と国際諜報・工作ネットワークを駆使し、その実現のために、国際社会における主権平等も民族自決の原則をも無視した行動を繰り返したのです。

当時、軍事的脅威であったソ連邦との共存共栄を目指して、自由貿易協定はおろか、通商協定を結ぼうと提案する西側諸国は一国たりともありませんでした。ソ連邦が自由貿易国ではなく、国家貿易国であったこともその一因ですが、今日、なおもイデオロギー、否、普遍的な価値や原則をめぐる対立が共産主義国家中国との間に横たわっていることを考慮しますと、ソ連邦と同様の覇権主義国家である中国と友好的な通商関係を構築する理由も見当たりません。今となりましては、天安門事件と云う民主主義も自由をも踏み躙った凄惨な事件を起こしながら、何故、自由主義諸国が、一時的に科していた制裁を早々と解除し、中国の改革開放路線をかくも無警戒に受け入れたのか、不思議でならないのです。喩え中国側が市場経済化を表明し、通商協定・条約の締結やWTO等への加盟を求めても、政治的理由を以って拒絶する選択肢もあったはずです。

そして、第二に、法の支配と云う国際秩序の根幹に関わる価値についても、南シナ海問題における仲裁判決の拒絶が示すように、中国は、横暴な破壊者の立場にあります。ロシアは現在、ウクライナ問題への介入やクリミア併合を咎められて経済制裁を受けていますが、国際法を歯牙にも掛けない中国もまた、国際社会から経済制裁を受けて然るべき国なのです。

このように考えますと、RCEPの成立は、冷戦期にあってヨーロッパ諸国が、勢力拡大の機会を虎視眈々と窺い、自国に核弾頭を向けているソ連邦と自由貿易圏を形成するに等しい行為となります。米中貿易戦争は自由貿易主義の擁護と云う共通の目的に位置付けられ、RCEPの促進要因と見なされがちですが、米中対立が先鋭化している今であればこそ、ここは慎重に徹し、危険に満ちたRCEPの成立は断念すべきではないかと思うのです。

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コメント (2)
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