万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

南北首脳会談-悪しき南北トップの利害一致?

2018年09月17日 14時57分52秒 | 国際政治
南北会談2日目に合意内容発表も 18日から開催
本日の産経新聞朝刊の第一面の記事に拠りますと、文大統領は、今月18日から20日にかけて予定されている南北首脳会談に際し、財界のトップを含む200名を超える大訪朝団を結成して平壌に赴くそうです。国連の制裁決議違反とする指摘がありながら、何故、南北両国は、かくも融和を急ぐのでしょうか。

 訪朝団の規模としては、前回2007年の規模を100名ほど下回るものの、それでも、訪朝団リストには、サムスン、SK、LG、現代自動車、ポスコなど、韓国を代表する財閥系企業のトップが名を連ねています。その意味するところは、米朝首脳会談以来、先軍政治から‘先経政治’へと方向転換を図っている金正恩委員長の姿勢に同調し、韓国側にも経済協力の準備があることを示したかったのでしょう。両国が手を結べば、両国ともウィン・ウィンの関係になると…。

 しかしながら、南北の経済協力による‘勝者’は、何れも両国のトップ層に偏ることになりそうです。何故ならば、韓国財閥は、北朝鮮の安価な労働力と天然資源を利用して、グローバル市場での価格競争力を高める思惑があり、北朝鮮の独裁者である金委員長は、韓国の財閥系企業を自国に誘致することで、天然資源の売却益を得ると共に、韓国系企業に雇用された自国民に支払われる賃金から中間マージン(表向きは課税?)を採ることもできるからです。両者の思惑は見事に一致しており、韓国の財閥系企業が利益と市場シェアの拡大を期待する一方で、北朝鮮の独裁者とその取り巻きは、中国の改革開放時の共産党員と同様に、独占的な利権者として特権的利益を貪ると共に、韓国から体制保障を取り付けたに等しくなるのです。

 韓国財閥と北朝鮮の特権階級のみに注目すれば、確かに両者は共に‘勝者’となるのですが、この協力関係は、両国の国民にとりましては、期待外れとなるかもしれません。当初は南北融和ムードに両国とも歓迎一色となるのでしょうが、この熱狂は、長続きしそうもないのです。韓国の財閥系企業が北朝鮮に製造拠点を移せば、目下、失業率の高さに悩む韓国の雇用状況はさらに悪化するでしょうし、北朝鮮に対する経済支援の費用も、韓国国民の肩に重くのしかかります。北朝鮮側でも、韓国企業の席を切ったような進出は、韓国系企業に職を得た国民とそれ以外の一般国民との所得格差を実感させますし(韓国系企業に雇用された国民も、低賃金労働を搾取と見なすかもしれない…)、中国と同じ道を歩み、独裁体制下における特権階級の利権独占に対する不満も高まることでしょう。そして、日本企業を含む他国の企業にとりましても、韓国企業群による戦略的北朝鮮利用は、コスト競争力において脅威と映るはずです。

 韓国側は、南北経済協力が実現すれば、莫大な利益が転がり込む金委員長に対する、いわば、非核化への‘呼び水’として、訪朝団に財閥メンバーを加えているのかもしれません。そして、この基本方針が韓国経済トップと北朝鮮政治トップとの間だけの‘握手’であるならば、北朝鮮が非核化してもしなくとも、何れにしても両国の国民には将来に向けた明るい展望が描けないこととなります。このように考えますと、北朝鮮の独裁体制を残したまま南北を融和させようとする文政権の方針は、‘握手’ならぬ‘悪手’であって、何かが根本的に間違っているように思えるのです。

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