万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

米中貿易戦争は第三次世界大戦を誘発するのか?

2018年09月19日 14時38分59秒 | 国際政治
中国、米と同時に報復関税へ 新たな対抗手段も
トランプ政権による対中制裁関税の第三段が発動される運びとなり、当事国のみならず、日本国内でも警戒論が広がっております。とりわけ、列強を中心としたブロック経済化が第二次世界大戦を誘発した事例が前例として取り上げられ、危機感を煽る向きも少なくありません。米中貿易戦争は、戦争への道であると…。それでは、今般の米中貿易戦争は、現代という時代にあって第三次世界大戦を招くのでしょうか。

 政府による高い関税障壁の構築という側面だけを見ますと、米中貿易戦争は第二次世界大戦前夜と類似しています。アメリカは、1930年6月にスムート・ホーリー法を制定して、2万品目を越える輸入品の関税率を大幅に引き上げ、保護主義に向けて舵を切ります。加えて、1932年にカナダのオタワで開かれた大英帝国の帝国経済会議でも、イギリスは自由貿易主義を放棄し、保護主義的な帝国特恵関税制度の採用に踏み切りました。この動きは各国に及び、列強を中心とした通商・通貨ブロックが各地域に形成され、資源囲い込み競争も激化するのです。このプロセスのみに注目しますと、米中貿易戦争は、第三次世界大戦に至る道程の途中に位置しているようにも見えます。それでは、今日、歴史は再び繰り返すのでしょうか。この点を考えるに際して、以下の相違点に注目するのは有意義なように思えます。

 第一に、第二次世界大戦前夜にあって、自由貿易主義国が関税率の引き上げに転じた最大の理由は、1929年におけるニューヨーク株式市場での株価大暴落を機に全世界に連鎖的に拡大した大恐慌にありました。経済の急激な縮小はこの時に起きており、大量失業や企業活動の停滞等に対応するために、各国政府は、自国産業を保護する必要性に迫られたのです。一方、今日の米中貿易戦争の発端は、グローバル化による失業問題や中間層の破壊を伴うアメリカの国内産業の空洞化、すなわち、衰退にあります。

 第二の相違点は、ブロック経済化を最初に開始した国にあります。米中貿易戦争を仕掛けたのはアメリカであるとする論調が強く、メディア等もそのような印象を刷り込んでいます。しかしながら、国際経済におけるブロック経済化は、既に始まっておりました。乃ち、中国が打ち上げた「一帯一路構想」こそが、中国を中心としたブロック経済圏の形成に他ならないからです。そして、この視点からすれば、自由貿易主義の砦ともされるTPP、あるいは、TPP11でさえ、中国のブロック化に対する対抗的ブロック化とする見方もできます。実際に、日本国内でTPPが保守層からも支持を得られた理由は、中国が参加しないこの枠組みを、広域化を目指す中国経済に対する経済圏の形成と理解したからです。

 以上に、二点ほど主因の違いを挙げてみましたが、この違いから、一体、何が見えてくるのでしょうか。第1の相違点は、第三次世界大戦の発生要因を取り除くためには、行き過ぎたグローバリズムを是正する必要性を示しています。因果関係からしますと、原因がなくなれば、結果も起きないのですから。むしろ警戒すべきは、世界大恐慌に匹敵するような金融危機の再発であり、今後、リーマン・ショックレベルの危機に襲われた場合、各国の財政や中央銀行には救済余力が残されていないとする指摘もあります。

第2の相違点である中国によるブロック経済化に注目すれば、原因の有無や相違に関わらず、今般の米中貿易戦争は、既に大国による囲い込み競争、あるいは、大国間の覇権争いの段階に至っていることとなります。この相違点は国の違いに過ぎませんので、どの国が口火を切ろうとも、地球規模のブロック化を伴う経済的な対立が軍事的対立へと至る可能性は否定できないのです。しかも、中国が、自国の世界大での覇権を確立するためにグローバリズムの是正を許さないとするならば、第1と第2の二つの相違点は結びつき、さらに第三次世界大戦が発生する可能性は増幅されることでしょう。

このように考えますと、中国という国の危険性がより明確に浮かび上がってくるのではないでしょうか。第三次世界大戦を未然に防止するためには、若干の損失を覚悟してでも民間企業の協力を得つつ、対中抑止策に努めるべきではないかと思うのです。

 よろしければ、クリックをお願い申し上げます。

にほんブログ村 政治ブログへ
にほんブログ村

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする