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土佐いく子の教育つれづれ~またあしね〈27〉

2013年11月08日 | 土佐いく子の教育つれづれ

「うちの子、賢うしたってや」全国学力テスト公表問題

 政治的なことにはあまり発信してくることの少ない学生たちが、学力テスト公表問題には関心を寄せている。「今なぜ?」「どんな目的で?」と投げかけてきた。どんな意見を持っているのか聞いてみた。

◎学歴社会に怒る学生たち

「成果主義が強く求められる現代に於いては、数字抜きには生活できない。だが、教育に成果主義は導入できるだろうか。数字に足りないのは、感情を伴った想像力である。今の学校教育に足りないのは、まさにこの『想像力』である。『数字』ではない。私の高校の担任は、生徒を数字=点数で判断する人物であった。今の状況を見ているとあの苦々しい記憶を思い出す(幸い、私の級友は、批判精神に充ちた者が多く、担任に反撥していたので救われた)。今また、『数字』という狭く平面的な世界に閉じ込められ、非人間的に評価されるという状況が生じようとしている。『グローバル化』という大義名分をふりかざして、国の経済活動のために都合良く子どもを教育するのは、暴力である。臣民を育てた大日本帝国と構図が似ているように思う。数字ではなく子どもをこそ見るべきである」

 教育の経験をふまえた考えをきっぱりと書いてきた大学院生だ。

 受験競争を勝ち抜いてきた一回生もこう書いている。

「よい子であれ、勉強ができる子であれと、追い立て、追い詰められてきた。今、こんな自分が嫌いで仕方がない。今も失敗するのがコワい!勉強だけが全てじゃないと教えてほしかった。今思えば、だまされながら勉強しかしてこなかった…」

「たしかに勉強も大事。しかし、一部の優秀な研究者を育成するために人の夢をつぶそうとするこの学歴社会が僕は、大嫌いです!『教師になりたい』と言うと、『成績優秀なんだから、もったいない、研究者になったら』と言われた。先生、教師は『もったいない』と言われるような仕事なんですか。先生になったら、子どもの夢は絶対につぶさないで、成績の結果より大切なことがあるって伝えていきたい」

 こんな熱い想いを抱いて明日の教育に夢をもって学んでいる学生がいる。

◎学力全国一の秋田では

 学力全国一という秋田に住んでいた学生の話も興味深い。

「全国一になったというので全国から視察の先生もたくさんこられました。私たちは、少人数学級制で、一人ひとりていねいに教えてくださったし、支援学級では、一人の子どもに一人の先生がついて指導されていました。これって納得です。もう一つは中学受験をする子がすごく少なかったこと。まず私立中学が少ないし、地元の公立中学が優秀だったからです。その分、受験勉強に時間を費やす必要がなく、考える力をじっくり身につける余裕があったと思います。今の大阪みたいに、学力テストの低い学校を潰すなんて、一番傷つくのは子どもたちです。『オレらのせいで学校つぶされた』と。行政は、そんなことするより、秋田みたいに少人数にしたり、先生や生徒に余裕を作ることが大事なのではないかと思いました」

 私は、大阪大学の講師を引き受けるとき、強く思ったことがある。それは、優秀な学生たちが教壇に立ったとき、勉強のわからない子の悲しみがわかる先生になってほしい。勉強ができない子ほど賢くなりたいと願っていることを知ってほしいということ。

 全盲の母親が私に「先生、私は、この子より先に死ぬでしょう。この子が一人になっても生きていけるような力をつけてやってください。賢くしてやってください」と手を合わせて頼まれたあの時のことを語りたい。借金を返すため夜遅くまで働く親を待ちながら幼い兄弟だけで夜を過ごしている暮らしに心寄せ、この子たちを切り捨てないでほしい。

「ひきざんができたよ。せんせいがだっこして、くるくるまわしてくれたよ。わたしは、あしたのがっこうがたのしみです」

 一緒に賢くなる教育でなく、過度の競争で切り捨て、子どもの心と親の願いを踏みにじる学力テスト公表問題。ゆゆしき事態だ。全国のテストのランク付けが発表された翌日、「先生、大阪の子ってアホなん? オレらバカなんやなあ」と言いながら登校して来た日の子らの顔を思い出す。

(とさ・いくこ 和歌山大学講師・大阪大学講師)

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