河村顕治研究室

健康寿命を延伸するリハビリテーション先端科学研究に取り組む研究室

CKCトリビア(プロローグ)

2009-01-04 | CKCトリビア
CKCとは直接の関係はないが、これまでの経験で既成概念が覆されたと強烈に感じたのは新しい創傷処置法である「閉鎖療法」を経験したときだ。
それまで傷はイソジンなどの強力な消毒薬で消毒してガーゼを当てるということに何の疑問も持たずに創処置を行ってきたのが、それがかえって傷の治りを阻害しているというのだからたまらない。
自分が患者さんのためにと思って行ってきた行為が間違っているというのだから衝撃だった。

ことの始まりは2004年の10月のことだった。もう既に4年以上前になる。
こういう事はブログを書いていると正確に記録が残っているので助かる。
当時、吉備国際大学の保健科学部看護学科長を務めておられたN教授から、養護教員の現場の素朴な疑問に答える分かりやすい解説書を作りたいので協力して欲しいとの依頼があった。
私の本音としてはそんな雑用はまっぴらごめんというところだったが、当時、保健科学部をまとめ上げて研究所の補助金を取りに行こうと言う動きがあり、私はその中心メンバーであったので看護学科長の依頼を断るのは良くないと判断した。
書く内容もそんなに難しくないというのでそれなら引き受けようかと言うことになった。
ところがこれが苦難の始まりだった。
質問の第1問は「擦り傷はどう処置すればいいか、基本を教えて下さい」というものであった。
これには困った。基本と言われても消毒してガーゼを当てると書いてしまえば1行で終わってしまう。
原稿用紙いっぱいの記述は無理である。
それで、いろいろ文献やネットを検索して調べていくと、何と
「傷は消毒するな、ガーゼを当てるな」
と書いてあるではないか(以下のサイト参照)。

http://www.wound-treatment.jp/

これはどういうことだとすっかり混乱してしまった。
実はそれよりも前に医学雑誌で閉鎖療法の記事を読んだことはあったのだが、自分の問題としては捉えていなかったのである。
それからは眠れぬ日が続き、自分でも確認作業が必要だと判断して、創傷被覆材を入手して患者さんに治療で試してみることにした。
最初は自分自身かなり勇気が必要だった。
本当に消毒しないで化膿しないのだろうかとおそるおそる試してみる毎日である。
ところが、私の心配にもかかわらず患者さんは痛がらないし傷の治りは明らかに早くてきれいである。
だんだんその効果が実感できるようになり、原稿も「閉鎖療法」一本にまとめて記述した。
そうして完成したのが下記の本である。

救急処置「なぜ・なに事典」外傷編1(閉鎖療法を中心として)
編著:大谷尚子・中桐佐智子・岡田加奈子
著:河村顕治
東山書房(京都), 2005.3

現在第3版の改訂作業中であるが、第3版では閉鎖療法を湿潤療法に改める方向で検討が進んでいる。
私は「はじめに」に下記のような解説を追加してもらうよう依頼した。

 なお、湿潤療法のほとんどは被覆材が傷に密着し閉鎖するので閉鎖療法とも呼ばれています。擦り傷や切り傷の処置としてはそれでよいのですが、深い褥瘡などを完全に閉鎖して治療すると浸出液の排出を妨げて創感染を起こしやすくなることから、誤解を招かないように本書では湿潤療法という表現を用いております。傷に密着し閉鎖するのが良いのではなくて、適度な湿潤環境を保つことが重要だからです。

これは偶然であるが、CKCは閉鎖運動連鎖であり閉鎖療法とは「閉鎖」つながりである。
閉鎖療法の解説書を記述したのは何かの運命のいたずらだったのかもしれない。
それにしても、この本の執筆を機に私の創傷処置法は湿潤療法一本になった。
患者さんにも喜んでもらい、とても良かったと心から思っている。


この経験から学んだこと。
1.忙しくていやだと思う仕事でも、学術的な依頼であれば断ってはならない。
2.先入観を疑え。あまりにも当たり前だと思っていることでも間違いはある。
3.リハビリテーションの技術でも当たり前と思われていることの中に間違いがあるかもしれない。そこに研究のヒントがあるはずだ。

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