河村顕治研究室

健康寿命を延伸するリハビリテーション先端科学研究に取り組む研究室

SHINYA YAMANAKA レクチャー

2010-03-19 | 研究・講演
今回忙しいさなかに第9回日本再生医療学会総会に参加したのは、主に軟骨や神経の再生研究がどこまで進んでいるのかを知るのが目的であったが、その次に山中伸弥教授の特別講演を聴くのが最大の楽しみであった。

会長の越智先生の紹介によると日本再生医療学会の理事会では、今後10年くらいの間はSHINYA YAMANAKA レクチャーという特別講演を毎回行うことに決定したのだそうだ。
座長は山中伸弥教授ご自身でその第1回が今年で山中伸弥教授が座長と演者を兼ねているのだそうだ。
越智先生によると早くそうしないと、他の学会に山中伸弥教授をとられてしまうという危機感からのものらしい。

山中伸弥教授ご自身はあれよあれよという間にそのようなことになったようで、戸惑っておられた。

さて、講演であるが、非常に興味深かった。
将来、山中伸弥教授がノーベル賞を受賞したら、私はきっと今日のこの講演のことを思い出すだろう。

山中伸弥教授の語り口は、以前ノーベル賞を受賞した控えめなサラリーマンの田中さんにどことなく似ている。
時にはユーモアも交えながら1時間の講演はあっという間に終わってしまった。

最後に、今後の研究の展望を語られていたので記録しておきたい。

山中伸弥教授は現在京都大学iPS細胞研究センターで研究をされているが、今年の4月からは国の補助金により大きな研究所ができて稼働するため現在引っ越しの最中なのだそうだ。
研究費は年間ざっと20億円。
この金額が多いと見るか少ないと見るかは難しい問題だが、山中教授がときどき訪れているアメリカの同等の研究所は年間予算が約60億円らしい。
国が負担する予算は両者にそれほど差はないらしいのだが、アメリカは富豪の残した基金や寄付のたぐいが総予算の半分くらいあるらしいのだ。

山中教授が今回研究所を作るに当たってこだわったのは「オープンラボ」構想で、広いフロアに全く仕切りがなくて風通しの良い構造になっている。上下のフロアもらせん階段で吹き抜けのようにつながっている。
要するに、研究者が一つのチームとして情報交換を活発に行える構造にしたと言うことである。
(ちなみに、規模は小さいが我々の保健福祉研究所も「オープンラボ」構造になっている。
これは私の智恵ではなくて設計士の提案だったのだが・・・。)

もう一つのこだわりというか絶対に欠かせないのが「研究戦略本部」の設置である。
この組織は広報宣伝から知財権の事柄を扱う。
(特に知財権は重要で、iPS細胞研究は国策として行っているのであるから知財権が取得できなければほとんど無意味である。知財権の獲得にはものすごくお金がかかる。
私の意見では年間20億の総予算ではアメリカに負けてしまうと思う。)


山中教授の研究の構想として興味深いお話しをされていた。
iPS細胞を使った治療が安全に行えるようになったとして、問題になるのは時間と費用がものすごくかかると言うことである。
患者から細胞を採取してiPS細胞を作って増やしていくとざっと半年かかる。
かかる経費はざっと数百万である。
例えば脊髄損傷患者にiPS細胞を使うとして、受傷後10日目くらいには治療を行わないと間に合わない。
半年も待てないのである。

そこで、山中教授が考えているのは「iPS細胞バンク」である。
HLA3座ホモで典型的な50人分のiPS細胞があれば日本人の90%をカバーするのだそうだ。
既にいくつかの資料はそろっているようだが、新規に行うとしても3~4万人の検査をすれば典型的な50人分の資料はそろう。
山中教授は5年内にはこのような「iPS細胞バンク」を現実のものとしたいとおっしゃっていた。

まさに夢の世界の到来である。

しかし、山中教授の最後の言葉が意味深だった。

「たくさん研究費をもらっていいなと思わないで下さいね。本当に大変なんです。責任もものすごく重いですし・・・。」
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 第9回日本再生医療学会総会2... | トップ | 12期生卒業式+謝恩会 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

研究・講演」カテゴリの最新記事