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●科学技術ニュース●産総研、メタンハイドレートが分布する海底のメタン動態から好気性・嫌気性微生物の共存がメタン消費のカギであることを発見

2024-03-20 09:47:11 |    エネルギー
 産業技術総合研究所(産総研)地圏資源環境研究部門 地圏微生物研究グループ 宮嶋 佑典 研究員、燃料資源地質研究グループ 吉岡 秀佳 研究グループ長、環境創生研究部門 鈴村 昌弘 研究部門付、環境生理生態研究グループ 青柳 智 主任研究員、堀 知行 上級主任研究員らを中心とする研究グループは、2020年、メタンハイドレートが分布する山形県酒田市沖の海底の堆積物を対象に、化学分析と微生物分析、安定同位体トレーサー培養試験の結果を用いて、微生物がメタンを消費する速度を推定した。

 また、海底下の酸化還元境界層において、生育に酸素を必要とする微生物(好気性微生物)と必要としない微生物(嫌気性微生物)が共存してメタンを消費していることを新たに発見した。これらの知見は、重要なエネルギー資源であり温室効果ガスでもあるメタンの海底での収支の正確な理解に貢献する。

 産総研は、経済産業省の委託により、将来の国産エネルギー資源として期待される表層型メタンハイドレートの研究開発を実施している。

 当該プロジェクトでは、資源量の把握や深海における掘削・揚収技術などの検討に加えて、メタンハイドレートの開発に伴う海洋環境や生態系への影響評価についても重要な課題として取り組んでいる。

 2020年からは、日本海の山形県酒田市沖や新潟県上越市沖の表層型メタンハイドレートが分布する海域において、海洋観測船や遠隔操作型無人潜水機(ROV)を用いた海洋環境調査を継続的に実施してきた。

 これらの海域では、メタンを含む水の湧き出し(メタン湧水)を示す微生物マット(微生物の集合体)に表面が覆われた特徴的な海底面が多数存在することが確認され、微生物マット直下の堆積物に重金属などが濃集していることがわかった(詳細は2022年11月7日 産総研「主な研究成果」)。

 今回はこの微生物マットで覆われた海底下の堆積物中における微生物活動とメタン消費に焦点を当てた研究を実施した。

 濃度分析の結果、微生物マットで覆われた海底面から15cmまでの深度には、参照地点の堆積物と比較して高濃度のメタンが溶存していた。
 
 また、海底直上の海水は酸素を豊富に含むが、微生物マット直下の堆積物では酸素が急激に減少し、表面の5mm以内でしか検出されないことがわかった。

 これは、参照地点では酸素が海底面から1.5cm程度の深さまで比較的ゆるやかに減少し、それ以深で検出限界以下となる結果と対照的。

 遺伝子・脂質解析の結果は、酸素を利用してメタンを消費する「好気性メタン酸化バクテリア」と酸素がない環境でメタンを消費する「嫌気性メタン酸化アーキア」が、微生物マット直下でのみ共存していることを示していた。

 また、微生物マットで覆われた海底下の堆積物について、微生物によるメタンの消費速度を推定するために、炭素の安定同位体をトレーサーとした培養試験を実施した。

 メタンは微生物により二酸化炭素に変換されるため、堆積物に安定同位体濃縮メタンを添加して培養を行うと、二酸化炭素の炭素同位体比が時間とともに増加する。

 この同位体比の増加速度から、メタンの消費速度を推定した。海底に近い温度で、培養開始時に酸素を与えた系と無酸素の系とで培養を行った結果、培養の初期において、前者のメタン消費速度は後者のそれの4倍近いことがわかった。<産業技術総合研究所(産総研)>
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